2017年度の成果報告会「ふしざく祭り」

舞台は京都市から伏見区へ。「ふしざく」の誕生

ー京都市未来まちづくり100人委員会から飛び火するようなかたちで区単位で市民提案型のまちづくりがはじまった。

丹羽
伏見区では、それまで100人委員会を担当していた京都市総合企画局総合政策室市民協働推進担当の方が、伏見区の地域力推進室総務・防災課に異動されていたこともあり「ぜひ伏見でも100人委員会スタイルで」と、OST型のまちづくりを始めることになりました。名前は、「伏見をさかなにざっくばらん:通称ふしざく」と言います。ホームズビーは、はじめはアドバイザーとして、2、3年目から運営事業主体として関わらせていただいていて、2018年度で7期目となりました。
きっかけとなった職員の方は、今はもう引退されているんですけれど、彼が、なぜ、100人委員会スタイルを推されたかお話ししてくださったことがありました。「僕は感動したんだ。それまでは、『市民団体といえば、要望型の団体』と言う印象を持っていて、市民と広く協働することに恐れを感じていたんだけれども、こんなにも地域をよくしていこうと動く人たちがいるんだ。市民に対する見方が変わったんだ」と。嬉しいことですね。

ー7年という継続を経て、どんな変化がありましたか?

山本
ふしざくが始まる前から自治会をはじめとする地域活動体はすでにあったんですが、彼らが巻き込めていなかった人たちが参加しているようです。地域に対して思いがあるけど、ずっと仕事をしてきた・最近引っ越してきたばかりだからと二の足を踏んでいた人がたくさんいて、そういう人たちが活躍できる機会をつくっていくことが大事だったんだ、と。目に見えるかたちになったものはイベントやお祭りという一過性に見られやすいものなんですが、本質的な価値は、目に見えない部分。いろんな層の人たちがお互い知り合えていくとか、この地域に対して愛着を持っていくとかそういうことができるようなつながりが生まれていくこと。既存の自治会とは違った巻き込み力が、この場から生まれました。

丹羽
行政政策の視点からいうと、市民や区民のニーズが多様化している中で、それら全部に市や区が応えることってできないんですよね。たとえば、市民側が「伏見城公園が使われていないからなんとかしたい」と要望や陳情するだけだと、行政側は「申し訳ないけど今予算ないんで」みたいな話で終わってしまう。でもそこで、課題を発見した地域の人たちが自分たちからできることをはじめようとすることで、自分たちにとっていいものに変えていける。要望型まちづくりから提案型まちづくりへ。実際、「ふしざく」で生まれたチームやメンバーの有志があつまって「伏見・お城まつり」が開催され、1万人が訪れるお祭りになるなど、新しい地域づくりのあり方をつくれているんじゃないかなと思います。

ー新しい地域づくりのあり方を、行政側から提案したところにブレークポイントがあったのではないでしょうか?

山本
おおいにあります。やはり一市民のかたや市民だけのチームだと、街に出て、活動に出ようとするときに「あなたは誰?」ってなるんですよ。いくら地域や社会にいいことであっても立場をどう証明していいかわからない。行政が用意した器があることで信頼性が担保できるし、市民新聞に載せられたり、補助金制度や各種支援プログラムを活用する中で活動に習熟したり、実行力を高めることができています。

時間が育み広げるもの

山本
7年の時を経て、7期目(2018年度)の初回には60人が参加しておられました。そのうちの1/3、22人が初めての参加だったんです。「どうして参加したんですか?」って聞いてみると、「新聞で見つけて、自分ひとりでやってきた活動をいろんな人とやりたい」とか、「すでに参加しているメンバーの方に興味を持って一緒に来た」とか。たとえば、これが何かの交流会だとすると、出会って「こんなプロジェクトいいですね。一緒にやりましょう」となっても、連絡先を交換して会う日時や場所を毎回調整するのってけっこう大変です。「ふしざく」に参加すれば、月一回の定例会に参加さえすれば誰かいる状況がすでにあるんです。

ふしざく定例会の様子

丹羽
生きているコミュニティをつくっている実感があります。誰かが何か、地域のためにやりたいときに、「ふしざく」に行けばいろいろ学べるし、機会ももらえるし、人とのつながりもできるし。そういう器を7年かけて育ててきたんだと思います。

山本
伏見区役所の皆さんの懐の深さだなと思いますね。これがたった1年だったら、参加した市民から意見が出たり、「小さいイベントやれてよかったね」みたいなところで終わっていたと思います。こういった事業は3年で終わることも多いですけど、3年でもサークル止まりだった思うんです。でも、10年計画でスタートしたことで、定着し機能する器が育ってきた。成果発表会で、「ふしざくは夢が叶う場所」と発言された方がいました。また日本酒が好きなある市民の方は、「蔵ジャズフェスティバル」という「酒を利き、JAZZに酔う」とコンセプトにした音楽イベントを開催するチームのリーダーとなり、今では複数の酒造会社や商店街の店舗や観光協会等と連携し春の蔵開きのお祭りに華を添えています。今では、伏見に限らず京都府下の地域で音楽ブースの運営受託も受けるようになっています。

丹羽
40歳からの婚活を支援して今年もう5組くっつけたんだというチームもありますし、空いている農地を借りて体験農園を運営し、できた野菜を子ども食堂で食べるみたいな流れをつくった人もいたりとか。

山本
そのチームは「街コミ」といって、他にも醍醐いきいき市民活動センターとともに高齢者の目線を活かした「生き活(いきかつ)マップ」をつくり、地域の方にも喜ばれています。高齢者の方って散歩をしたいんですけど、途中にちょっと休む場所がないとしんどいんですよ。それで、座れる段差やベンチと、トイレと公衆電話と災害時の避難所になる学校がメインに据えられたマップができた。

成果報告会「ふしざく祭り」のトークイベントに登壇する区民のみなさん

丹羽
我々の視点では見つけられないニーズに応えています。しかも、このマップには一人ひとりの病歴を書く欄があって、万が一お散歩中に倒れたりしたときの人命救助につながるということで、消防署から表彰されました。

ー「ふしざく」の存在によって、見つけた課題に対して、行政に陳情するのではなく主体性を発揮して自分が先頭に立って解決する市民力が育っている。なにが市民力を育てているのでしょうか?

丹羽
ひとつは、自分とは違う課題を見つけた人がそばにいるという状況の効果があると思います。視野が広がっていく。ある意味でひとりよがりでやっていた人や、マニアックなテーマでやっていた人が、違うテーマに取り組む人とやりとりすることによって、「こういうのもあるんだ」とか、「ほかにやり方あったな」って世界観が広がって。視野に入ってくるものが広がると、受け入れられるものや活かせるものが増えるようです。

山本
自分の「やりたい」がスタートで、それは当たり前だし素晴らしいことなんですが、それだけだと広がっていかない部分もある。それが、環境が合う人同士や、違う人同士が集まることによって、虫の目と鳥の目の両方を獲得していくようになるんです。元企業人で組織的な活動が得意っていう人が何人か混ざっていて、そういう人がうまく構造をつくってくれたりとかもしますし。

丹羽
事務局としての努力もしてきたんですけど、ホームズビーのファシリテーションの技術だからできたっていうのではなくて、思いを持った人たちが努力を続けた結果なんです。

山本
ホームズビーの役割は、月1回の定例会とラジオの運営ですが、それ以外に、日々のふしざく参加者との関わりは、区役所やまちづくりアドバイザーさんがやってくださっています。まとまらない中での相談とか結構多い中でも、ちゃんと思いに応えて整理してくださる日常の信頼があるからこそ、ふしざくの定例会という非日常の場が機能していると感じています。


おふたりのお話から、公的機関が用意した器の上で、眠っていた個人やチームの力が自然と花開いていく様子がありありと感じることができました。子どもが家庭という最小単位の社会の中で、小さな成功と失敗を繰り返しながら成長していくように、安心して行動と結果を積み重ねていける環境が市民力を育て、市民が活性化することで地域が活性化する。京都市と伏見区で起きたことは、人という地域資源にとことん注目すること、それぞれがやりたいことをやることの価値を示しているのではないでしょうか。

この記事は、2018年4月時点でのインタビューに基づいています。

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取材・文:浅倉彩