久保田 遊己(くぼた ゆうき)さん、由子(ゆうこ)さん
[兵庫県]→[和歌山県 田辺市]


―遊己さんは2022年に和歌山県農林大学校への入学を機に、家族5人で和歌山県に移住。卒業後は地元森林組合に就職し、森とともに生きる仕事に従事している遊己さんと妻の由子さんに、田舎暮らしと仕事を両立させる生活についてのお話を伺いました。―

田辺市の魅力

久保田さん家族が移住した和歌山県田辺市近露は田辺市の中でも山深い地域にある。久保田さん夫婦は移住先を検討する中で、近露を初めて訪れた時に、その景色に魅了されたという。「大きな道路から近露に入ってきた時の景色が美しすぎた!近露周辺は、夏は川遊びもでき、雄大な自然も広がっており田舎を感じることもできる。絶景スポットも身近にある環境だが、1時間で大きなショッピングセンターにも行けるし、海にも行けることが地域の魅力」と当時の印象を語ってくれた。
冬はかなり寒く水道管が凍結することもあり、自然の力を身近に感じることが多い一方で自然の恵も直接感じるという遊己さん。移住してきてから家の近くにある畑で家庭菜園を始めたそうで「植物や野菜を育てるのも初めてだったので、種を植えたら芽がでて、作物が収穫できたことに感動した」と嬉しそうに話してくれた。

美しい里山の風景

取材中、久保田さんの子供が学校帰りに拾ってきたたくさんの栗!季節を感じます!

家庭菜園で育てている白菜。鍋の季節が楽しみです!

地域の方々が子供を育ててくれる

移住前は、地域に上手くなじめるだろうかと不安もあったそうだが、地域の方々も子供達が危ないことをすれば優しく声をかけてくれたり、また地域で卓球を教えてくれる取り組みもあったり、家で怒られた子供が逃げ込める駄菓子屋があったりと地域のみんなが子供に関わってくれ不安もなくなった。
また、教育環境も重視していたという由子さんによると「近露は、小学校、中学校が併設されていて地域内に保育園もある。学校は少人数ということもあり、先生も子供達をきめ細やかに見てくれ子供達の行儀もすごく良い」そうだ。

移住を検討したきっかけ

遊己さん、由子さんは、共に兵庫県尼崎市出身で工業地帯の近くで生まれ育ったため、漠然と自然に近い場所での生活にあこがれていたという。遊己さんは前職が企業向け設備のメンテナンスの仕事で、和歌山にも仕事でよく来ていたそうで「和歌山は、道路の整備も進み、アクセスが良くなった。身近に海もあって山もあるとても良いところ」と好印象をもっていた。長男(取材当時11歳)が誕生したタイミングで「仕事を辞めて田舎にいきたい」と漠然と考え始めたという。
由子さんも「都会でのマンション暮らしでは、3人の子供もエネルギーを持て余しているようで家の中の生活は大変でした」と話すなど、自然豊かな場所での生活と子供の教育を考え和歌山への移住を検討しはじめる。
そうした中、初めて家族全員で和歌山県南部の地域を訪れた際「空気感が他とは違った!」と感じ移住が進むきっかけとなったという。
仕事について、遊己さんは梅農家や炭焼きの仕事など、地域ならではの仕事への転職を考えていたところ、田舎で山に携わる仕事、その中でも林業に魅力を感じた。ただ、大阪で林業に関するイベントに参加し、「給料は安い」、「危険」、「若い人がいない」という林業の現状を知り、「何も経験がないまま、いきなり林業の会社に入って仕事をするのはハードルが高い。また、林業は危険というイメージもあったので、1年間きっちり学校で林業の確かな技術や安全対策を身に着つけて、仕事についた方が良いと感じた」という。
その後、移住が具体的になってきた時に、林業について詳しく調べる中で農林大学校の存在を知った。現在の就労先の森林組合は、農林大学校の講師から、在学中のアルバイト先として紹介してもらい、そのご縁で、そのまま就職したそうで「林業への就労を考える方は入学を検討することをお勧めする」と教えてくれた。
住まいについては、農林大学校に合格した後、インターネットやオンラインセミナーを活用して探し始めた。和歌山県が主催する対面での林業セミナーにも参加し、お金の面も含め不安なことを相談したところ、わかやま空き家バンク制度を紹介してもらい、山深く、自然豊かな地域にある理想的な物件を購入することができた。
2022年4月の移住当初は、購入した家の改修が間に合わず、農林大学校が紹介してくれた住居で生活をスタートしたが、同年7月には、改修工事が完了し、現住居に引っ越した。改修工事には和歌山県と田辺市の空き家改修補助金が活用でき、経済的にも助かったそうだ。

田辺市の魅力について語る久保田さん夫婦

農林大学校時代に山の中で、木に印を入れ伐倒練習をする久保田さん

自分で手をかけて山を育てていく

遊己さんに仕事での1日について聞いた。「班にもよりますが、朝5時には家を出発し、昼ぐらいには終わります。ただ、早い時間に終わるとはいえ、山の斜面での植林作業をはじめ、チェーンソーを使って木を切る作業などで山の中を走り回るので、体力もかなり消耗し、仕事が終われば体がヘトヘトです(笑)」
仕事内容については、木を山から切ってきて市場に出す「林産」と、下草を刈って木を植えて育成していく「造林」の部門があり、遊己さんは「造林」部門の仕事をしているとのこと。
「林業の仕事について調べていたころ『育林(木を切らない林業)』を知ったことで、この仕事に興味をもった。自分で手をかけて山を育てていく仕事にやりがいを感じている。早く技術を習得して先輩に追いつきたい!」と力強く語ってくれた。

植栽出来る状態にするため、獣害防止ネットを張る支柱を打ち付けています

刈払機で低木や下草を刈って、山の木を伐採した跡地を整理し、植栽出来るスペースを作ります

地域とのつながりを大事に

移住前は、地域に根差した生活など、実は深く考えていなかったというお二人だったが、遊己さんは移住後、消防団に加入した。盆踊りなどの地域活動にも家族で積極的に参加するなどして、地域との「つながり」を大事にしている。
由子さんは「和歌山で人の優しさに触れる中で、人は一人では生きていけない。人と人とのつながりが大事で、その中で生かされていることに気が付いた」と話し、田舎での人とのつながりは、移住後の生活を充実させる大切な要素であると肌で感じているという。
「この地域には子育て世帯も多く、子育てについて相談できる人もいる。買い物の途中で、商店の方と世間話をしたりするなど、どの世代にも人とのつながりがある」と由子さんは教えてくれた。

移住を検討されている方へ

遊己さんは「経済的に許されるなら、移住に向けてチャレンジしてみても良い。ただ、仕事面について言えば、知識を得るための学校があればそこに行くなど、順序立てて準備をした方が良い」と話してくれた。由子さんも「移住の準備にかける時間は長ければ良いというものではなく、瞬発力が大事。また、細かな部分は気にせず自分がこうありたいという感覚を信じることが大事なのでは」とアドバイス頂いた。
―今後についてお聞きしたところ、「一日一日、仕事を含めて今、目の前にあることを日々こなしていく、それだけで幸せだし、しっかり生きている感じがする」と遊己さん。由子さんも「自分も仕事を通して、人が元気になり、地域も元気になってどんどん広がっていけるような手助けができれば」と話された。
移住により地域とのつながりの大切さに気付かされ、それを今後も大事にして、積極的に地域に関わっていきたいというお二人の想いが、地域全体に広がってそこに住む人々を元気にしてくれるだろう。―
取材日:2023年10月18日
<ご紹介>
わかやま林業移住HP
https://kinokuniforester.work/
和歌山県農林大学紹介HP
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/nourindaigaku/index.html