「人口約680人、高齢化率56%超」
数字だけを見れば、過疎化が進む地域の深刻な現状を示すデータのように思えるかもしれません。しかし、新潟県長岡市の山古志(やまこし)地域を訪れると、その数字から想像されるような、どんよりとした空気や悲壮感は感じられません。地域の方々も、新しく関わる外の人たちも、フラットに交流しながらそれぞれの活動を楽しんでいます。
今回は、移住サポートを行うきら星株式会社の代表・伊藤綾が、山古志で東京との二拠点居住をスタートさせたばかりのりーまんさん、そして山古志の「山古志住民会議」の竹内さんにお話を伺いました。

写真左:山古志住民会議 竹内さん 中央:りーまんさん 右:伊藤綾
前例の少ない「公営住宅への二拠点居住」がなぜ実現したのか。全校生徒8人の学校を支える地域の取り組みや、これからの広域移住マッチングの展望について語り合った内容をお届けします。
目次
住民の声が形になった、公営住宅のルール変更
地方でのもったいない資産といえば、公営住宅(市営住宅)です。本来、公営住宅は市内に住民票があり、所得などの要件を満たす方に質の良い住環境を提供する施設です。そのため、東京に住民票を残したままの二拠点居住者が利用しようとしても、基本的には要件を満たせず断られてしまいます。
しかし山古志では、山古志DAOに関わるデジタル村民のりーまんさんが市営住宅に入居するという、新しい試みが形になりました。

りーまんさんのご自宅。光回線を引くまでもなく、ポケットWi-Fiでも十分にお部屋で音声編集の仕事もできるそうです。ここは、令和7年度まで長岡市のお試し移住住宅として供用されていた「竹沢住宅」と同じ様式・間取り。気になる方は、是非山古志へお越しください。(https://www.city.nagaoka.niigata.jp/kurashi/life03/kouei/itiranhyou.html)
りーまんさん:「これは僕の力というよりは、本当に竹内さんや、長岡市役所山古志支所の担当者の方々が動いてくださったおかげなんです」
竹内さん:「山古志地域の公営住宅(中山間地型復興住宅など)の建設・整備財源は、主に国の国庫補助金と新潟県・長岡市の復興基金、および地方債(起債)が活用されてるそうです。当初は被災者証明がないと入れないなど複雑な縛りがあり、その後緩和されたものの、空きも見られる状況でした。そこで何年も前から、地域の会議の場でも利活用について声を住民が上げ続けていたんです」
こうした地域住民の切実な声と、現場の状況をよく知る山古志支所の丁寧なコミュニケーションが実を結び、住民票がなくても市営住宅の利用が認められました。(出典:長岡市行政財産の目的外使用条例)
長岡市は合併を繰り返した大きな自治体です。ひとつの地区の要望で全体のルールを変えることは簡単ではありません。しかし、地域のイベントに行政の担当者や幹部が訪れるたびに、地元の高齢者の方々が「新しい人を受け入れたいから、枠組みを整えてほしい」と直接要望を伝えるなど、地域全体が当事者意識を持って声を上げ続けて、実現していくというプロセスもあったとのことです。
湯沢でのつながりから、地域リーダーの「右腕」へ
今回、二拠点居住を始めたりーまんさんは、幼少期を新潟県の津南や十日町、そして小千谷の社宅などで過ごし、中学校までを湯沢町で過ごした、新潟にルーツを持つ方です。現在は東京のエンタメ業界で仕事をしていますが、世界的に注目を集めた「山古志DAO(デジタル村民)」の取り組みをきっかけに、再びこの地域に関わるようになりました。
りーまんさんと竹内さんの関係性は、単なる「住民と移住者」という関係に留まりません。
伊藤(きら星):「竹内さんが猛烈に忙しくなったのを見かねて、りーまんさんがマネジメントを買って出た、というお話を伺いました」
りーまんさん:「テレビなどのメディア露出が増えて、竹内さんがあらゆる案件を力技でさばいていたんです。でも、それではせっかく新しく関わってくれたデジタル村民の方々と、丁寧なリレーションを取る時間がなくなってしまう。だから、エンタメ業界にいる僕の目線で、出演業の窓口や案件の精査を代わりに引き受けることにしました」
地域のリーダーを一人で孤立させず、外のプロフェッショナルがサポートする。この協力関係の延長線上に、今回のりーまんさんの山古志滞在がありました。
また、対話の中で面白いローカルなつながりも分かりました。湯沢を拠点に移住サポートを行う私(伊藤)と、りーまんさんの同級生たちがとても近い場所にいること。地域を動かそうとする人たちが、偶然にも身近に繋がっていることに、不思議な縁を感じました。
全校生徒10人の学校を、地域みんなで支える
車を持たないりーまんさんの現在の移動手段は、地域の方から借りた原付バイクです。滞在3日目にして、バイクで走っているだけで「何時何分にあそこ走ってたでしょ」と目撃情報が竹内さんに寄せられるくらい、すでに山古志のコミュニティに認知されています。

私たちが食事をしたやまこし復興交流館おらたるには、地域のおばあちゃんたちが作った旬の野菜や、お惣菜が並んでいます。その他、特産のかぐらなんばんを使ったカレーや、うどんなどを食べることができます。(伊藤は、かぐらなんばんカレー600円と、かぐらなんばんのサイダー250円を頼みました。リーズナブル。)
りーまんさんも、滞在中には500円で注文が可能な弁当を事前に頼んでおき、おらたるで買い物やリモートワークをすることもあるのだそう。

二拠点居住や関係人口の方々が、こうして定期的にお弁当やお惣菜を購入することは、地域の小さな飲食文化や拠点を維持することに直接繋がっていきます。数字上の人口は減っていても、昼間に養鯉(ようり・特産の錦鯉の養殖が盛ん)業者さんや畑仕事のために山古志に上がってくる「日中人口」が多いのも、山古志の活気の一因です。
過疎化や豪雪といった厳しい現実を前にしながらも、山古志の雰囲気が明るい理由について、竹内さんはこう説明します。
竹内さん:「崖っぷちだからこそ、『普段から一緒に楽しんで、一緒にチャレンジしてくれる仲間を一人でも二人でも増やしたい』という想いが根底にあるんです。山古志特有の人間関係で、時には『握手しながら殴り合いをしてる』みたいな本音のぶつかり合いもありますけど((笑))、みんな諦めていない。一度全村避難で外に出て、また戻ってきた経験がある地域だからこそ、よそ者を受け入れる土壌があるのかもしれません」
その一体感は、子どもの数が小中学生合わせて全校で10人にまで減った山古志小学校・中学校の維持にも現れています。
かつてりーまんさんが過ごした湯沢の中学時代は1学年120人ほどいましたが、現在は湯沢でも1学年25〜50人前後。そして山古志は全校で10人。保護者だけでは手が回らなくなったプール清掃や草刈り、運動会の運営を、今は地元の老人会や地域住民、地域で働く人が一体となって支えています。老人会のおじいちゃんたちが学校の畑を手入れするといった交流も日常的に行われています。
りーまんさんも関わるポッドキャスト「山古志ラジオ」。この配信を学校の先生方も聴いており、給食の時間に「地域のおじいちゃんたちが学校を支えてくれているんだよ」というストーリーが子どもたちに共有されています。地域全体がひとつの家族のように子どもを育て、文化を紡いでいるのが印象的です。

山古志小学校の近くには無料でアルパカ33頭(2026年6月時点)に会える「山古志アルパカ牧場」も。地域のおじいちゃん・おばあちゃんが孫のように可愛がっているとか。
これからの移住戦略に必要な「目利き」と「分配」の仕組み
私たち「きら星」は今、湯沢町や長岡市、見附市、三条市、弥彦村、加茂市など、新潟県内の複数の自治体で広域的な移住マッチングを行っています。実際に現場に立って感じるのは、地域によって住む人の気質も、求められる生活インフラも全く違うということです。そのため、長岡市のように広大な自治体において、一括りの「長岡市移住戦略」を立てることには難しさがあります。
例えば、使われなくなった教員住宅などを「目的外使用」として地域おこし協力隊や移住者の住居へ転換していく手法(きら星でも三条市下田エリアで実践しています)ひとつとっても、地域のキーマンと行政の柔軟な連携が不可欠です。
伊藤:「これから必要なのは、山古志の竹内さんのような『各支所エリアのキーマン』と密に連携し、セントラル(中央窓口)が地域のリアルな情報を集約することです。そして移住希望者が来たら、『この人の気質ややりたいことなら、(長岡市)小国よりも山古志が合う』『この人は加茂市の観光PRの仕事が向いている』と、プロの目で【目利き】をして分配・マッチングしていく。それこそが、地域にとっても移住者にとっても、一番幸せでスピード感のある関係性を生むはずです」
制度の壁を越えた山古志の住民自治と、そこに飛び込んだりーまんさんのようなプレイヤーの存在は、これからの地域づくりの大きなヒントになります。

不便さをひとつの「ギャップ」として楽しみながら、地域と丁寧に関わる人々が集まる山古志。いま・ここにいるがすぐにわかって届けられる冷えたクラフトビールの引っ越し祝い。
笑顔で原付バイクにまたがるりーまんさんの姿を見ながら、数字だけでは測れないローカルの持つ可能性と、これからの移住マッチングのあるべき姿を再確認しました。
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今回ご紹介した山古志のように、新潟には数字だけでは測れない、独自の魅力や温かいコミュニティを持った地域がたくさんあります。
「自分にフィットする地域はどこだろう?」と気になった方は、ぜひロカキャリWebサイトで新しい新潟の魅力を見つけてみてください。


