徳島県鳴門市では、令和5年度より「半農半X」を移住コンセプトに、「おてつたび」のプラットフォームで全国から参加者を募集し、2週間の農業アルバイトを体験してもらう「半農半X」推進シェアハウス事業を実施しています。
そして、令和7年8月からは、市内事業所の人手不足解消とUIJターン促進を目的とした「UIJターンインターンシップ」事業が始まりました。
今回行われたのは、福祉関連事業所(病院・介護施設・こども園)、徳島県福祉人材センター、徳島県看護協会、(株)おてつたび、鳴門市が連携し、1週間フルタイムで働きながら鳴門市での生活を体験していただくというもの。
この記事は、ふたりの参加者にスポットを当てた、鳴門滞在レポートです。

徳島県と淡路島の間にある「鳴門海峡」は、イタリアのメッシーナ海峡、カナダのセイモア海峡と並び、「世界三大潮流」と言われています
◇子どもたちとの1週間が、19歳のふたりに残したもの
「子どもたちの成長に関わる仕事がしたい」
そんな思いを胸に、神奈川県から徳島県鳴門市へやってきた19歳の吉野敦哉(ヨシノ アツヤ)さんと山本晴大(ヤマモト ハルト)さん。
ふたりが選んだのは、1週間、鳴門で暮らしながら、地域のこども園で働く「おてつたび」でした。
水遊びでは、初対面とは思えないほど子どもたちに囲まれ、給食では「こっち来て!」と呼ばれ、最後のお別れ会では「もっと遊びたかった」と言葉をもらいました。
一方で、仕事の合間には鳴門のまちを歩き、美術館でモネの絵をじっくり眺めたり、仲間たちと食卓を囲んだり。
たった1週間。
それでも、暮らして、働いて、人と出会ったからこそ見えてきた「鳴門の日常」がありました。

吉野 敦哉さん(右)と山本 晴大さん(左)
◇「子どもたちと関わりながら、地域にも貢献したい」
吉野さんと山本さんはともに19歳。
神奈川県からやってきて、こども園で1週間のインターンを経験しました。
吉野さんが応募した理由は、以前から興味を持っていた「おてつたび」の仕組みでした。
観光地を訪れるだけではなく、その土地で働きながら地域と関われる。
そこに、自分の好きな「子どもたちと関わること」を重ねました。
山本さんも、子どもたちの自由な発想や多様な感性に触れ、自分自身も成長したいと考えて参加しました。
「遊び」の中には、大人が思いつかないような発想がたくさんあります。
こども園で子どもたちと過ごすことは、仕事であると同時に、ふたりにとって新しい視点を得る時間でもありました。

こども園でのふたり
◇一瞬で子どもたちの輪の中へ
初出勤の日。
緊張する暇もないほど、子どもたちはふたりを歓迎してくれました。
水遊びの時間。
先輩保育士が子どもたちに「はると先生、いいってー!」と声をかけると、子どもたちが山本さんに向かって一斉に水を浴びせます。
初対面なのに、まるでずっと前から知っているかのよう。
「先生」と呼ばれた瞬間から、ふたりはもう子どもたちの輪の中にいました。
給食の時間にも、「こっち来て!」と、いろいろな子が声をかけてくれます。
園児たちの笑い声が響く中で、ふたり自身も楽しみながら、少しずつ園の空気になじんでいきました。
こども園の担当者によると、ふたりは標準語で話すこともあり、柔らかな雰囲気だったため、子どもたちも受け入れやすかったそう。
そして何より印象的だったのが、子どもと話すときには自然としゃがみ、目線を合わせていたこと。
たくさん遊ぶ。
目を見て話す。
子どもの「やりたい」に寄り添う。
そんな一つひとつの積み重ねが、ふたりと子どもたちの距離を縮めていきました。

園児たちとダンス
◇園の外で、鳴門の日常を味わう
おてつたびの魅力は、仕事だけではありません。
暮らしながら働くからこそ、その土地の「日常」にも触れられます。
山本さんが楽しみにしていた場所のひとつが、大塚国際美術館。
美術を学ぶ山本さんは、館内をひとりでじっくりと巡り、一つひとつの作品を時間をかけて鑑賞していました。
お気に入りだったのはモネ。
帰りには、モネのポストカードも購入しました。

UIJターンインターンシップでは、市職員が市内観光名所をアテンドする「鳴門市プレミアムツアー」を実施。大塚国際美術館での参加者のみなさん
一方、今回の滞在では、観光だけではなく「暮らす」ことも経験しました。
宿舎で仲間と過ごし、食事をし、仕事へ向かい、帰ってくる。
そんな何気ない繰り返しが、旅とは違う時間をつくっていきます。
こども園をはじめ、病院、介護施設の3ヶ所の事業所で受け入れを行った今回のUIJインターンシップ。
介護施設で働いた参加者が、入居者の「海を見に行きたい」という一言から、1時間半のドライブに出かけたこともありました。
病院で働いた参加者には、患者さんから「輝いて見える」と声をかけてもらった出来事も。
6人それぞれが、それぞれの場所で「人と関わる仕事」を経験していました。
◇最後の日、「もっと遊びたかった」のひと言
そして、あっという間に1週間が過ぎました。
最終日、こども園のお遊戯室で開かれたお別れ会。
子どもたちから、手作りのネックレスなどをプレゼントされたふたり。
彼らにとって、何よりうれしい贈り物です。
そして最後は、みんなで阿波おどり。
鳴門で過ごした1週間の締めくくりに、子どもたちと一緒に踊りました。

子どもたちと阿波おどりを楽しむふたり
「お兄さんたちと何をして遊んだのが楽しかった?」と聞かれると、子どもたちから返ってきた答えは――「水遊び」。
初日に一緒に遊んだ時間が、子どもたちの記憶にもちゃんと残っていたのです。
さらに、3歳児クラスの子がマイクを持って、「もっと遊びたかった」と伝えてくれました。
担当クラスではない子までが、ふたりが園に来てくれてよかったという気持ちを持っていたことが伝わり、立ちあった市職員も感動したといいます。

子どもたちからのプレゼントを持ってピース!
1週間前には、まだ「神奈川から来た19歳の大学生」だったふたり。
それがいつの間にか、子どもたちにとって「一緒に遊んでくれたお兄さん先生」になっていました。
別れの日、ふたりはプレゼントされたネックレスを身につけて帰宅。
吉野さんは、ネックレスを斜め掛けにしたまま、自転車で宿舎へ戻りました。

「もっと遊びたかった」。子どもたちからもらった言葉と手作りの贈り物が、1週間の思い出を形にしてくれた
◇「四国で住みたいランキング、最下位だったのが1位に」
1週間を終えたふたりに、鳴門での暮らしについて聞いてみると、思わず笑ってしまうような答えが返ってきました。
「四国の中で住みたいランキング、最下位だったんですけど、1位になりました」
そんなふたりが口にしたのは「また来たい」だけではありませんでした。
「鳴門市は、住みやすいし、食べ物もおいしいし、将来移住したいくらい気に入りました」
観光で訪れただけなら、「きれいだった」「楽しかった」で終わっていたかもしれません。
でも今回は、朝起きて仕事へ行き、子どもたちと遊び、仲間と食卓を囲み、まちを歩いて、また帰ってくる。
そんな日々を1週間過ごしたからこそ、「ここで暮らす」という感覚が少しだけ見えてきたのではないでしょうか。
そして最後に、ふたりが口をそろえて言ったのが、
「まだまだ鳴門を楽しみたかった」
という言葉でした。

「まだまだ鳴門を楽しみたかった」。1週間暮らしたからこそ生まれた、旅とは少し違う「また来たい」という気持ち
◇実際に「暮らし」てみて分かること
今回のおてつたびで、6人が経験したのは、それぞれの仕事だけではありません。
こども園では、子どもたちと水遊びをして、ダンスをして、給食を一緒に食べる。
病院では患者さんと接し、介護施設では入居者と海を見に行く。
仕事の外では、仲間と食卓を囲み、鳴門の文化に触れ、まちを歩く。
そこにあったのは、「観光する人」と「地域の人」という関係ではなく、1週間だけそのまちの暮らしの中に入っていくという経験でした。
吉野さんと山本さんにとって、こども園で過ごした時間は、子どもたちからたくさんの元気をもらう時間でもあったはずです。
そして子どもたちにとっても、遠くから来たお兄さん先生たちと遊んだ1週間は、きっと特別な思い出になったことでしょう。
「もっと遊びたかった」―――――。
その言葉は、子どもたちからふたりへの別れの言葉であると同時に、ふたり自身の「まだまだここにいたかった」という気持ちにも重なります。
住んでみなければ分からないことがある。
働いてみなければ見えない人の温かさがある。
そして、たった1週間でも、誰かと本気で関われば、その土地が「知らない場所」から「また帰ってきたい場所」に変わることがある。
今回の鳴門での時間は、19歳のふたりにとって、そんな「暮らしの入口」になったのかもしれません。

1週間暮らした宿舎の前で
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