海外へ出るよりも、まず、きてくれている人に満足してもらう。

道後ややは、とっても風変わりな宿。なんといっても大浴場も、温泉もない。道後温泉なのに。一般的に考えて、ある意味まともなホテル事業者であれば絶対にやらないような事業。しかしそれが、今、観光客からも事業者からも大注目されている。なぜか?

「これも最初は色々ありました。そもそもこのホテルは宿泊特化型のホテルを想定してプランニングしていました。でも、その前に運営を始めていた旅館事業で、とても多くの学び、特にお客様から得たことがあったんです。それを元に、計画を修正して、今のコンセプトになったんです。開業してもう数年経ちますが、開業当時からコンセプト自体の軸は変わっていません。愛媛を発信し、ファンをつくりたい。」

二つのポイントが結果的に功を奏したと考えられるのではないだろうか。ひとつは、マーケットポジションと逆張り、もうひとつは、こだわり抜かれたプレゼンテーションと体験性。ここ松山市エリアは実はここ数年来でビジネス利用の面ではホテル客室数が逼迫することが多い。この取材をした2017年9月はえひめ国体などがあり、もはや全く取れないような状態。そこに、ビジネス利用もできる客室サイズかつ、市内から路面電車・車で15分程度という好アクセスがフィットした。さらに、温泉を楽しむために宿から温泉街に繰り出し、さらに街を回遊し楽しむ人が多いという逆張りの結果オーライ感。

その構造的なフィットの上に、一度体験するとほとんどの人が、エイトワンのもくろみ通りに、愛媛ファンになってしまう体験エンタメ性。しかもどれもインスタ受け間違いなしのフォトジェニックなプレゼンテーション。読者の皆さんもぜひ一度体験してみてほしい。

道後ややの朝食で提供される自社農園の新鮮野菜たち

「開業当時からしばらくはきつい状態が続きました。なかなか集客がうまくできなかったり、独自の菜園からの食材オペレーションが大変だったり。」

事業的には当然これだけの満足をしてもらうためには目に見えるコスト、見えないコスト含め苦労は多いと思う。それでも、継続させるためには収益性は重要。継続させて育てていきたいからこそそこにはしっかりこだわっている。それは一利用者としてみても宿の季節などに応じた納得感ある料金*、口コミがとても良いなどの点からわかりやすい。

*稼働状況や予約時期などによって、宿泊料金などの価格を調整し顧客ニーズへの対応と収益のバランスを図っていくマーケティング施策。おもにホテル、飛行機などの季節変動や固定在庫の事業で活用され、レベニューマネジメントのひとつ。

「ホテル事業としてみれば、レストランを直営で入れて持つなんて全然割に合いません。それでも我々がやるのは、ややのコンセプト、取り組みを始めた時に感じていた食事をするところが必要だという想いが強いです。」

今後の海外展開などについて聞いてみると意外な答えが返ってきた。

「もちろん取り組んでいきたい。でも、今はまず日本に来ていただけている人がとてもたくさんいる。まずはこの方々に満足してもらって、ファンになってもらうことを大切にしたいと思っています。」

村上さん個人やエイトワンとしての、想いや夢、課題意識がビジネスで譲らない軸の根になっている。経済合理性だけでなく、価値観のある事業をし続けられるのはこういったところにあるのかもしれない。