足で稼ぐITマン

革新的なものへの抵抗感。人はあまりにも新しいもの、見慣れないものが現れると、それがどんなに便利なものであっても、はじめは戸惑いを見せる。水産業界におけるITに対する感情もまさにそれであった。水産業とITとでは、その距離があまりにもかけ離れていたのである。

「もともとアナログな人は、いきなり、IT導入するので使ってくださいと言われても、抵抗があるじゃないですか。だから、直接会ってアナログなところに、ITを浸透させるってことをしていかないと、少しでも。」

板倉さんがクライアントとして獲得を考えていた、仲卸業者(買い手)、地域の生産者(売り手)はともに、人と人とでビジネスを構築していて、元々の特性として、ITに感度の高い層ではない。
そこに目に見えないサービスであるITを浸透させていくとなると、やはり一度「リアルな(目に見える形で)」場を通す必要がある。

「いきなりサービスを公開しました、使ってくださいってやってもダメなんです。そのやり方でやってきたから、今まで、目に見える形を大事にする水産業ではITって浸透しなかったわけで。だから僕の場合は、説明会にしろ何にしろ面識を持つことを重要視しています。そこはすべての拠点で絶対やっています。」

「今後全ての産地まわりたいですね。」

売り手側となる漁港は2,700。彼はその全てを回ってサービスの話をしたいという。
「本気度が伝わるんですよ、直接会って話すことによって。」
板倉さんの提供するサービスはITだ。しかし、そのシェアを伸ばすために脚を使う。課題解決のためとはいえ、骨の折れる仕事だ。

「確かに大変な仕事ではあります。ただここを押さえておけば、5年後、10年後、勝手に伸びますよ。」

一方、買い手となり得る仲卸業者も獲得しなければならない。水産業界全体はとても大きなマーケット。板倉さんの調べによると需要規模は3兆円弱もあると言う。
ウーオのサービスユーザーとなり得る仲卸業者の数は全国に3,400社。買い手側クライアントとしてその10パーセント、およそ300社の獲得をスタート1年で達成したいと語る。

その秘策は手数料を取らないこと。「買い手は実費で魚が買えます。」
中間業者の役割を果たすウーオに手数料を払うことなく、漁港、魚の種類等の選択の幅を増やすことができる。これは仲卸業者にとって大きなメリットである。

買い手がサービスを使うハードルを下げ、多くの買い手側ユーザーを獲得する。
買い手が増えることは、また売り手も獲得にもつながる。

「売り手にとってのメリットは、買い手がたくさんいることですからね。」

売りたい水産業者と買いたい仲卸業者。両者の障壁を、革新的なサービス、IT導入によって取り除き、好循環を生み出す。大きな産業全体を取り巻き、奔走する板倉さんの見据える先は遥か遠い。5年後、10年後。海外展開。着実にステップを踏みながらその域を広げようとしている。それも根にあるのは「日本の水産業をもっと良くしたい」ひとえにこの思いだけである。日本に古くからある産業とIT。かけ合わさって新しい展開をみせ始めたこの領域。板倉さんのまっすぐな思いと革新的なサービスで、業界はどのように変わっていくのだろうか。

取材・文:編集部/写真提供:株式会社ポータブル

●株式会社ポータブル 会社概要

住所
〒730-0807広島県広島市中区本川町3−1−5シーアイマンション2F
設立
2016年7月1日
代表取締役
板倉一智
資本金
22,000,000円(2017年8月現在、資本準備金含む)

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