そんなアトキンソンさんが講演の中で改めて強調されていたのが、やはり観光ガイドの重要性でした。「本質的な観光にとっての目玉は自然や文化。それをちゃんとお金に変えるために付加価値をつけるのが、まさにガイドの役割」と、著書のごとくシンプルで鋭い言及が、お話の大きな柱でした。「日本はこれだけの”魚釣り大国なのに、魚釣りガイドが全然少ない。そんな私の話を聞いたある若者がそれを始めて、すでに結構良いビジネスにしている」なんてことも事例にあげてました。私の知人でも、観光地を周る案内役はもちろん、魚釣りや漁業体験、農業体験、サイクリングやトレイルランなどのアクティビティを含めた様々なガイド事業で活躍している方が数多くいます。中にはIT業界から漁師に転職し、沖縄に移住して漁と釣り船をやられている強者もいます。これからは各地でそういう人が加速度的に増えてくると思います。また、いわゆる観光ガイドと、体験・アクティビティのホストの境界線は、かなり薄れている感じもしますね。
本当に価値の高い”ガイド”とは?
折しも、今年の1月4日に施行された改正通訳案内士法により、国内での観光ガイドに関する規制が大きく緩和され、すでに日本では「だれもがガイドで稼いでもいい」ことになりました。我々がプロデュースしているせとうちDMOの観光メディア「瀬戸内Finder」や、沖縄の観光メディア「沖縄CLIP」のライターや翻訳者には、既に観光ガイドの仕事も並行している人がかなりいらっしゃいます。ライターとガイドの仕事にシナジーがあるのも容易に想像できます。
聞くところによると、神戸・大阪・京都などを英語でガイドする関西圏の人気観光ガイドの相場は、だいたい1日8時間で250ドル(日本円で約27,500円)前後くらいなんだそうです。交通費・食費などは依頼主持ちとのこと。なかなかの金額ですよね。もちろん毎日やるにはハードだと思いますし、その人のスキルにもよると思いますが、個人でやれる仕事としてかなりいい収入にもなりそうです。同時に、やはり上手な人はゲストの満足度も半端なく高いらしく、そのやりがいや、「また日本に来たい」と思わせるパワーは、想像以上かもしれません。
大分県に「Walk Japan」という企業があります。ここは世界中の富裕層を集めて、日本を歩くツアーを各地で開催しているユニークな会社です。社長のポールさんは、日本に十数年在住のイギリス人で、少し前にテレビ東京のカンブリア宮殿にも出演されてました。富裕層相手なので、ツアー料金は1日平均5万円×7~10日という驚異的な単価だとのこと。それで年間2000人以上もガイドしているということは、ざっと10~15億円の年商ということでしょう。その高い付加価値の本質を支えているのも、やはり「ガイド力」。ツアーを率いるガイドさんたちは、もちろん外国語で、日本の文化や考え方などを本当に丁寧に、しかも知的に語っている様子が紹介されていました。そりゃインテリに響くよな〜と関心したのを覚えています。
あのNHKの人気番組「ブラタモリ」も、ガイドの大切さや価値の高さがよく分かる番組ですね。タモリさんの地理・地質・地形オタク度合いにも毎回驚かされますが、それに見事に応えて、一世一代の出番をこなされる地元の歴史研究家や、学者の皆さんの知識やプレゼンの素晴らしさにも目をみはるものがあります。今まで日の目を見る機会が少なかったああいう「本物のガイド」に案内されるのなら、一日数万円くらい払うという人はいくらでもいるでしょう。ただ、それには、歴史的建造物を順路に沿って説明するような内容では、いくら外国語が堪能でもダメなのは明らかです。逆にブラタモリがそうであるように「なぜ、◯◯は、△△なのか?」みたいなテーマを設定し、それを探るようなストーリーを演出できたら、かなり満足できるものになるでしょう。それにはかなりの準備や研究、ストーリーの構成の練り込みが必要だと思います。でも、その結果ゲストに喜んでもらえたら、本当に面白くてやりがいのある仕事になりそうです。
プラットフォームも急速に拡大中
ガイドビジネスの環境の進化は、前述の規制緩和以外でもかなり進みつつあります。グローバルでは以前から「Vayable(ヴァイヤブル)」や、Get Your Guide、Viator(ビアター)などのガイドマッチングサービスが数多くありました。ここに、あのAirBandBが、2016年からTripというガイドやアクティビティのサービスを開始して参入しています。国内でもトリプルライツなどの老舗に加え、Huber.(ハバー)などのベンチャーの新しいサービスも台頭してきていますし、あのHISも独自にTravee(トラビー)というサービスを始めています。 同時にアクティビティのマーケットプレイスとしても 最大手のVeltra(ベルトラ)や、Voyagine(ヴォヤジン)、国内でも JTBと資本関係を持つ Asoview(アソビュー)、HISの アクティビティ・ジャパンなど、様々なサービスが既に乱立し、大手旅行会社も参入して、過当競争の様相すら見えてきています。逆に事業者側・ホスト側にとっては、一番難しい顧客獲得が格段にやりやすくなっているのは確かです。
すでに観光以外の分野では、フリーランスが仕事を獲得するサービスはあらゆる分野で広がっているのはご承知の通りです。個人事業主が、こうしたサービスを使うスキルもどんどん広がっていて、慣れている人が増えていることを考えると、地方への移住や転職のきっかけとして、こうしたアクティビティ事業が鍵になることも増えていくのではないでしょうか?自治体の移住促進などもそうしたことに絡めた動きが必要になってくるかもしれません。
観光庁が集計した2017年のインバウンド観光客は、前年度比約20%アップの2869万人に達したそうです。 (参考:https://this.kiji.is/324368450826077281) この集客を本質的に楽しませ、観光立国の中心で実質的に活躍するのが、ガイド・ホストの事業者であることは、間違いないのではないかと思います。
文:ネイティブ倉重
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【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。