坂上 和孝(さかうえ かずたか)さん
[茨城県]→[和歌山県橋本市]

橋本市にある学校へ子どもが入学するのを機に、2019年3月に和歌山県橋本市へ妻と子ども2人の家族4人で茨城県から移住。移住と同時に、木工家具職人として独立・開業した。

 

子供の進学に合わせた移住

子供の進学先が和歌山の私立学校『きのくに子どもの村学園』に決まると同時に、家族での橋本市への移住も決まった。『きのくに子どもの村学園』とは、橋本市で設立された体験学習を基に据えた学校で、国内外にも複数ある。当初は、住んでいた奥さんの実家のある茨城県から最も近くにある『南アルプス子供の村小学校』への入学を検討していた。

「子供が虫好きなんです。当初入学を検討していた学校を見に行ったのですが、良い意味で、整備された環境で、コンパクトな学校でした。しかし、子供が満足できる虫がいなかったんですよね。そこで和歌山の学校を調べたところ、すごく山の中にあったので、ここなら虫がたくさんいるぞ、と思って(笑)」

和歌山がどこにあるのかも曖昧なくらい、縁もゆかりもなかった。見知らぬ学校、未知の場所に引越すことに対して、近くに住み、生まれたときから事あれば孫の世話をしてくれていた奥さんの両親からは反対された。

「気持ちはわかるんですけど、未来を生きていくのは子供ですからね。移住の気持ちは変わりませんでした。妻も生まれ育った地元を離れて暮らしたいという想いを持っていましたし、自分も独立したいとは思っていましたので、それが一度に重なりました」。

橋本のシティーセールス推進課に連絡し、実際に現地を訪れた。山に囲まれた美しい景色に心を奪われたそう。

坂上さんの自宅周辺の風景。山に囲まれた静かな場所だった。

「市の担当者の方が、家も、子供の幼稚園も、作業場兼倉庫になる建物も紹介してくださいました。家はなんとでもなると思っていましたが、倉庫はどうしようと思っていたので、助かりました。すごいコーディネート力で、頼りになりました」。

事前にネットで調べられる住宅情報は、周辺市町村を含めて調べていたという坂上さん。住宅の値段や状態の相場を理解していたので、紹介してもらった物件を内覧した時、すぐに決断できたという。移住前にベースとなる情報をしっかり調べておくことが大切だと坂上さんは語る。

内覧した物件を内定し、子供の合格通知を受け取ったタイミングで移住。同時に、木工職人として開業した。

「これなら生きていける」というイメージを持つ

工場の倉庫で木工作業をする坂上さん。

坂上さんは、34歳から家具職人の道へ。それまでは若い時から自主映画の映画制作に関わっていた。アルバイトや臨時収入で暮らしていたが、33歳で結婚することになり、そこで見つけた仕事が木工職人だった。

職業訓練学校の木工科に通った後、木工所で勤め、和歌山に来て独立した。見ず知らずの土地である和歌山で開業し、仕入れ先もクライアントも一から探さなければならない状況に不安はなかったのか。

「地図をみた時、橋本市が大阪のすぐ下にあることを知って。大阪から仕事を貰えば何とかなるだろう、と思って移住しました。実際はまだ大阪に営業にも行っていないので、隠し玉を温存しているようなものですね(笑)。自分の中で、『これならいけるな』という感覚があればいいのではないか。なんでもいいと思う。コンビニで8時間働けば、このくらいの家賃は払えるな、とか。どうやったら生活していけるかというイメージを持てたら良いと思います」。

移住をする上で、目的を持って来るのであれば、生きていくためのお金をどう稼ぐかのイメージを持てているかが大事だと坂上さんは言う。

山に囲まれた暮らしのメリットとデメリット

橋本での暮らしについて尋ねた。

「近所の人がとても親切にしてくださいます。野菜や果物をくれる人が何人かいて。柿は買わなくても良くなりましたね(笑)」

坂上さんが暮らす田原地区は子供が少ないそうで、家族で移住した坂上さんたちを地域の人も歓迎してくれている。坂上さんが住む家は、立派な日本住宅だ。周辺によく似た造りの住宅が多いそう。

坂上さんの自宅。この地域は織物業が盛んだったそうで、住居の手前部分はその当時の作業場だったそう。

空き家歴も短く、とても良い状態で入居することができたそうだが、実際に住んでみないと分からないことも多いと言う。

「山に囲まれた景色はとても魅力的だけど、その反面日当たりが悪かったりして、湿気がすごく溜まりやすいのが悩みです。移住するならまずは一旦の仮住まいとして家を借りて、地域に実際住んで人と出会って、いろんな情報を得ながら長く住む家を探していくのがいいのではないか」。

実際に坂上さんが住んでいる家も、今は賃貸で借りているそうだ。阪上さん家族は、自然に囲まれたこの家での暮らしを満喫している。

「家の裏には川が流れていて、夏には蛍も飛びます。梯子で子供たちが河原に降りて、生き物観察を楽しんでいます」。

坂上さんの子供のお気に入りスポットの、家の裏に流れる川

虫好きの子供にはたまらない環境だ。今では虫だけでなく、粘菌やキノコもたくさん採取しているそう。白浜の南方熊楠記念館に行って、子供が粘菌にはまったのだという。子供のために移住を決意した坂上さんだったが、和歌山に来たことで子供の知的好奇心はどんどん大きくなっているようだ。