欠品をなくし中間費用を減らす商流構築
販路を確保して品質を整え、次なる課題は確保した棚に安定的に商品を並べ続けること。また、たしざんが生産を取りまとめ、問屋を介して店舗に出すと、中間費用が増えて価格が上がるか生産者の取り分が減るため、コスト削減の観点からも商流を工夫する必要があった。
「コンビニ店舗は通常、問屋への一括発注で商品を揃えます。でも、離島の商品は供給が安定しないため、このルートには乗せられません。そこで生産情報管理をたしざんが集約し、沖縄セレクションの棚は生産者→たしざん→店舗という納品形態を許してもらいました。沖縄ファミリーマート商品部長の大きなご配慮がありました。」
株式会社沖縄ファミリーマート商品部部長 小林健祐氏
沖縄ファミリーマート商品部長の小林さんは、こう振り返る。「地域密着を掲げ、宮古島、石垣島、久米島、伊江島の4離島には出店しているものの、人口の観点から他の離島への出店はできません。出店できないけれども仕入れはしたい、ということで、離島の特産品を商品化したかったのですが、モノはよくてもパッケージの見栄えやラベルの表示ルール遵守にハードルがあり、それを小規模経営の生産者さんに求めるのは難しかったんです。それらを一度に解決するご提案だったので、われわれにとってもやりたかったことを実現するチャンスだと思いました」
結果、価格は中味代、ビン代、輸送費、たしざんと沖縄ファミリーマートの利益を足し上げても、沖縄ファミリーマートが提示した1000円以下に抑えることができた。
試験販売で手応え、お中元に発展
こうして、商品、価格、販路(Product Price Place、マーケティングの4つのPのうち3つ)が整い、 2012年12月25日、沖縄ファミリーマート那覇空港ターミナル店、国際通りのREXA RYUBO店を含む3店舗で試験販売がスタートした。
「特産・離島便、できました。」 試験販売3日で追加発注に。
5島から2品ずつ、10品×100ビンを用意したが、3日で欠品。1000個追加発注する事態となり、好調な売れ行きに、すぐに商品数を増やしての横展開が決まった。さらには、翌2013年の夏、デパートリウボウのお中元に売れ筋のビンを詰め合わせにして出したところ、オンラインギフト全体の売り上げが対前年比200%に跳ね上がった。調査の結果、押し上げ要因はビンの詰め合わせだった。
2014年、沖縄ファミリーマートの石垣島出店を機に展開が加速。石垣島のいいものも新たにそろえたいとの要望が沖縄ファミリーマートから出た。そこで、ビン詰めの開拓と同時に、石垣市商工会や特産品生産者グループの協力を得て箱詰め商品も開発。家飲みセット、豚しゃぶセットなど5種類がお歳暮ギフトとして用意された。さらには、百貨店デパートリウボウの糸数社長から「もっといいものを」との指示。島ごとのプレミアム特産品に絞った1万円セットと10万円セットをつくって市場に投入したところ、10万円セットと並べることで、1万円セットが飛ぶように売れるようになった。
沖縄ファミリーマート社長から、現在はグループ4社の社長となり、百貨店「デパートリウボウ」やスーパーマーケット「リウボウストア」などを率いる糸数剛一社長
「地域企業が生き残るためには地域完結型の商売をつくらなければならない。そのために一番大事なのは独自性。デパートはもちろん、コンビニも例外ではありません。これまでのような金太郎飴型の品揃えだけではだめ。どこにでもあるものを安心して買いにいけることに加えて、”ここにしかない”お気に入りを求める人に選ばれるための独自性ある売場をつくろう、と言い続けています。特産離島便は完全に独自性があった。離島、しかもあまり観光客がいかないような離島のものということで、最初にビンの写真を見てコンセプトを聞いた時点で『これはいける』と。出してみたら売れたので、このコンセプトでどんどんひろげよう、と拡大を指示しました」(糸数社長)
その後、離島の素材をレトルトパッキング設備のある多良間島に集めてつくる「離島カレー」と、石垣市商工会の地域登録商標「石垣パイン」を丸ごと1個使った冷凍パインケーキも加わるなど、好調な売れ行きとともに商品ラインナップも充実していった。
それぞれの島と生産者のストーリーを商品とともに伝えるブランドブックを製作し、
沖縄県内の沖縄ファミリーマート全店で配布。価値を情報化し、情報を動かした
3年で年間売り上げ1億円を突破
2015年には、沖縄県から補助金を得て、沖縄ファミリーマートのPOSシステムと紐づけた在庫・生産管理システムを構築。各店舗の在庫とたしざんの在庫、離島での生産の状況をオンラインで一括管理できるようにした。たしざんの沖縄オフィスに社員がひとり常駐し、常時確認しながら生産者への依頼や店舗への納品を行うとともに、新規の生産者、離島特産品を開拓している。オンラインショップも開設し、運営中だ。
たしざん沖縄オフィスで生産管理や納品を切り盛りする多良間島出身の波平雄翔(かずと)さん。地域おこし協力隊で粟国島にいたときにこのプロジェクトに出会い、たしざんへの入社を決めた
こうした地道な仕事は、確実に売り上げに反映されている。5島10品のビン詰めからスタートして3年、商品ラインナップは20島90品まで拡大。売り上げも、2015年に230万円、2016年5400万円、2017年1億200万円と、右肩上がりだ。沖縄ファミリーマートの取扱店舗数も10店舗にまで増え、「他の店からも『うちにも置きたい』と声が上がっています。10店舗の平均売り上げが10000円ぐらい。コンビニ1店舗の平均日商は60万円ぐらいですから、それからして10000円というのは非常にいいスコア。こんなに売れるの?というぐらいすごくよく売れていると思います」と小林さんも目を細める。
情報を動かすと、ものと人が動く
「それぞれの島には、もともと手づくりの特産品がありました。でも、沖縄ファミリーマートに並べようという人がいなかったんです。」
購入者コメント「10年沖縄に通ってやっと出会ったお気に入りのお土産です」
記事の冒頭に羅列したさまざまな課題により、離島ターミナルや島の物産センター、船の待合所といったごく限られた場所にしか置かれていなかったため、知られることすらなかった特産品。それが、パッケージと置かれる場所が変わったことで情報化されて観光客に届いた。結果、モノが動き、生産者が動き、お金が動いた。
離島振興や特産品ビジネスの成功事例であるとともに、このプロジェクトはまた、情報を動かすクリエイティブエージェンシーが、目的に向かって従来の業務領域を“越境”し人やものも動かす商社機能を担うに至ったことで、多くの人や事業者に恩恵をもたらす事業創造が実現した、異業種参入、新規事業開発の好例といえるだろう。
「離島のいいもの沖縄セレクション」は今、離島というエリアカテゴリーを”越境”し、商品開拓の領域を沖縄本島に拡げようとしている。
●株式会社たしざん 会社概要
- 代表取締役 : 森迫尚哉
- 設 立 : 2010年3月
- 本 社 : 〒107-0052 東京都港区赤坂7-6-55 かすがマンション赤坂601
- 沖縄事務所: 〒900-0033 沖縄県那覇市久米1-2-5 シャトー天妃2F
- 電 話 : 03-3582-1332
- メール : info@tashizan.jp
- 株式会社たしざん コーポレートサイト
- 沖縄セレクション オンラインショップ
取材・文:浅倉彩