全てに区切りをつけ、45歳からの再スタート

ー150年続く会社を継承するにあたり、ヒライさんの先代、つまりお父さまからはどんなことを学ばれましたか?

父からは経営者としてというより、社会人としての当たり前のことを色々と教えてもらいました。特にお金には細かく、公私の区別をはっきりしていました。お店では、コーラ一本、タダでは飲みませんでした。仕事面では「よく帳面(各店舗の請求書や日計表)を見ろ」と口酸っぱく言われましたね。僕はボンボン気質でいまだにどんぶりですが(笑)。今、起業してみて分かるのですが、150年以上の歴史がある会社を受け継ぐことの方が、ゼロから会社を作るより僕にとっては難しかったです。自分が何ができて何ができないかを見極め、足りない部分を補ってくれる人たちと事業を立ち上げれば、経営者の思う方向に進みます。一方で、受け継ぐということは、既存の組織を自分の能力に合った形に作り直す作業が必要になりますし、会社が置かれている状況によって経営者に必要とされる能力は変わってきます。経営者として優秀な人は会社と経営者としての自己を客観視でき、その時会社が必要とする能力を組織として準備できる人だと思います。僕は2017年3月をもって、代表を退任し会社を離れました。結局、受け継ぐという役割は5年ほどしか果たせませんでした。その前年、かき氷の事業に専念したいと思い、その他すべての実行委員会から身を引きました。45〜46歳で人生に一区切りつけたかっこうです。

ヒライ氏が開業したかき氷専門店『ほうせき箱』

―それでも家業が「老舗メーカー」だったことはヒライさんにとって大きなことでしたか?

家業が柿の葉寿司でなければ、奈良には戻っていないですし、かき氷の事業を興そうなんて思わなかったでしょうね。当然ならが柿葉の加工事業もしていません。ですが、一番大きかったのは、すばらしい方々とのご縁を頂けたこと、僕の一生のたからものです。

まずは今の事業で結果を出すことを優先

―ヒライさんがこれまで一番影響を受けた経営者を教えてください。

柿の葉ずしメーカーの赤字が続いた時、藁にもすがる思いで京セラの稲盛和夫さんの著書を何冊も読みました。あと大きな影響を受けたのは同じ奈良の中川政七商店の中川政七さんです。長い伝統を持っている老舗企業を独自の経営手法で急成長させている素晴らしい方です。今でもその経営手法を参考にさせていただいています。

ーヒライさんの今後のビジョンを教えてください。

まずは今やっているかき氷事業と柿の葉の加工事業を両輪として、結果、つまり利益を出すことに専念したいと思います。エリア的には僕が吉野出身ということもあるので、奈良県南部のエリアなどに仕事を拡大できたらと考えています。最近では柿の葉の加工事業で天理とも縁ができましたし、これからの活動の中で、出会った人とのご縁を大切にして、新たな展開が生まれればと思っています。

ー今回のインタビューでは経営者としてのこれまでを振り返り、お話いただきました。最後に、当サイトを見ている地方創生に関わりたいという若者たちへ先輩としてメッセージをお願いします。

今、いろいろとさせていただいて思うことは、やりたいことが明確なら、あれこれ考えずにすぐに一歩踏み出すことです。事業を継続させるためには多くの失敗をして経験値を上げるしかありません。常にチャレンジしていれば5年より10年やっている人の方が当然多くの失敗もしています。その分、課題解決能力も高くなり、人の輪もどんどん広がり協力してくれる人も少しずつ増えていきます。地方の課題は山積しています、やるなら早ければ早いほど良いと思います。是非チャレンジしてください!!

●Kakigori ほうせき箱 概要

  • 所 在 地 : 〒630-8222 奈良県奈良市 餅飯殿町47
  • 電  話 :0742-93-4260
  • 営業時間:10:00 ~ 20:00 (毎朝8:30から整理券配布)
  • 定 休 日 :木曜日
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取材・文:大垣知哉