ファンづくりを軸にした観光&産業振興に注力
ーあまちゃんのブレイクがあって、どういった方向に発展させていく考えでしょうか。
観光を伸ばしていきたいと考えています。今はインバウンドの話もあって、国は4000万人といった目標を掲げていますが、久慈市の観光客はそれほど増えてないです。ですが、そもそもホテル自体がそんなにないので、数を伸ばせば良いということではないと思ってます。
むしろ久慈のファンを増やしたいですね。何度も来てくれるような濃い人を増やす。そのためには設備投資をするのではなく、もっと地に足の着いた取組みが重要です。何回も来ていただけるような愛着心を持っていただく、そういったまちづくりをしていきたいです。
新しい人が来るなというわけでは当然ないですけども、久慈に来ればゆとりを感じられるようにしていきたいですね。東北と言っても冬は雪がほとんど降らないですし、寒暖差もそれほどないし、海もあるし山もあるし、本当に良いところですよ。ここで食べていける、生活していけるっていう気持ちのゆとりを市民が持っていられれば、訪れる人々にも自然に伝わるでしょうね。
ー観光振興よりもファンづくり、そうするとふるさと納税なども重要ですね。
ふるさと納税は以前に比べたらだいぶ増えましたが、全国ではまだまだ下の方です。これは伸ばさないといけないと思っています。やっぱり地元の特産品を使って産業振興に繋げたいので、どこかの自治体のように、たくさん集めれば良いという姿勢は違うと思ってます。久慈にある良いものをどんどん提案してくださいと、地元で話をしています。
ファンづくりですから、一回買ってもらって、今年度は売上げがいくらであっても、来年も買ってもらわないと意味がありません。できればふるさと納税ではなく、その特産品のファンになってもらって、事業者から直接買ってもらいたいです。
そのためには地元の事業者が頑張らなくちゃいけないという話もしています。ふるさと納税はあくまできっかけであって、あとはマーケティングや販路開拓をもっと勉強してもらいたいと言っています。本音としては税収ほしいですけどね、地に足が着いた、地域としての収入増があれば回り回って豊かになっていきますから。
地元に愛着を持ってもらうために重要なのは教育
ー愛着のあるまちづくりをするために、子どもたちにはどのような教育をしていますか。
重要なのは歴史と文化を知ってもらうことだと思ってます。久慈は歴史を大事にしないまちだとよく言われます。まちの成り立ちが分からない。どんな人が出たのかも分からない。それでは駄目なので、もっと調べたいと考えています。久慈は琥珀が取れますから、縄文時代から人が居たはずなんです。北はアイヌ、南は大坂や京都と交易していたという話もあります。実際に江戸時代には、南部藩の特産品として琥珀が流通していた記録もあります。
津軽藩の始祖である大浦光信公も久慈の出だと言われています。その縁で青森県鰺ヶ沢町と友好協定を結びました。でも市民はほとんど知らないんですよ。今の津軽を築いた人が久慈から出たというのは凄い事です。そういう土地柄であることを、大人がしっかり勉強して、子どもにも伝えていきましょうって言っています。
文化は、なんといっても地域の伝統芸能。これを小・中学生にはできるだけ体験してほしい。何も知らないと愛着が湧かないですよ。先祖代々続いてきたものがあって、それをぜひ継いでほしいです。伝統芸能を守りつつ、それを基盤にして他の地域と交流すればいい。久慈の秋祭りなんて、東京に持っていったらすごく面白いと思いますよ。
秋祭りで太鼓をたたく子どもたち
ー最近の教育は、自ら疑問を持って調べる、主体性を育むものが主流になっています。
久慈のことを自分で調べて、こんなにも面白いまちだったのかと気づいてくれたら良いですね。そういった話をどんどん他の地域や海外に行って発信してくれれば、それが一番の宣伝になります。久慈には高校が2つあって、それぞれ地元の活動もよくやっています。大学に入ると外に出ていきますから、久慈の良さを発信しつつ他所の良さを吸収して戻ってきてもらいたいですね。
戻ってきたときにちゃんと仕事ができる場を用意しないといけない。それは地元の責任ですよね。今までそれがなかったので流出する一方で、戻りたくでも仕事がなかった。大学を卒業した久慈出身者たちが誇りを持って働ける、それなりの職種を用意できるまちにしないと。それを意識して力を入れていきます。
ーまさしくそれはあまちゃんのストーリー通りですね。
住みやすいまちであると同時に、一人ひとりが活躍してもらえるまちを目指しています。それは久慈だけでは考えられないので、多くの地域のたくさんの人々と繋がって連携していきたいですね。若者たちには是非、その接点をどんどんつくっていってもらいたいです。
久慈市にとっては、『あまちゃん』というドラマがエポックメイキングな出来事だったことが伺えますが、それを一過性のブームに終わらせずに地に足の着いた取組みへと繋げていこうという意志を感じました。そして遠藤市長の口から何度も出てきたのは、「住民参加」という言葉です。自分が市長だからトップダウンで何でも決めるのではなく、市民と対話を重ねる中からすべきことの優先順位を定め、ボトムアップでの取組みを支援するという、あくまで行政は黒子に徹する意識を持っていることが印象的でした。
行政職員も、一歩役所から出れば一人の市民です。とくにまちづくりに対して思い入れを持つ職員も数多く存在しており、地元においては年長者と若者たちを結びつける中堅として活躍するキーパーソンがいることで、多様性のある活動を支えている実態があります。市町村長のクニづくり久慈市編、後編では、久慈がもっとも盛り上がる秋祭りの時期にお邪魔して、地域活動の世代間伝承とさらなる発展をどのように進めているのかを取材しました。
久慈市の“クニづくり” 後編は、地域づくり振興課係長 二又 壽大さんのインタビュー「秋祭りを筆頭に、高校生の地域活性化活動や東京でのふるさと会で心をつなぐ」をお届けします。
取材・文:東大史