2025年12月、福島県田村市都路町に「ひなたベーカリー」がオープンしました。田村市産のホップから作った自家製ホップ酵母で焼き上げる食パンをはじめ、バラエティ豊かな菓子パンやスイーツ、具材を自由に選べるオーダーメイドサンドウィッチが人気です。常葉町出身の店主・渡邉咲月(わたなべさつき)さんに、パン作りのこだわりや田村市で活動を続ける思いについてお話を伺いました。

自然の恵みで育ったホップ酵母で焼き上げる、体に優しい無添加パン

ひなたベーカリーでは、できる限り余計なものを加えない無添加のパン作りにこだわっています。

「今の世の中は添加物があふれていて、私たちは知らない間に不要なものを体内に蓄積しています。それがアレルギーなど、さまざまな不調の原因の一つになるとも言われています。人間にとって、食べることは、ダイレクトに体に直結する大切な行為です。だからこそ、自分の体を作る基本として、少しでも体に良いものを食べてほしいという思いから、パンには一切添加物を使っていません。食塩も精製塩ではなく、ミネラル豊富な天然塩を使い、砂糖も白砂糖は使わずにきび砂糖を使用しています」

さらにひなたベーカリーを象徴するのが、手間ひまをかけて作られる独自のホップ酵母です。ホップ酵母を培養するには、ホップ、りんご、米麹、じゃがいもなど、非常に多くの材料と膨大な手間がかかります。その分、素直で深い味わいのパンができあがります。

「ホップ酵母のパンを作ることになったのは、2020年にホップジャパンの『ホップガーデンブルワリー』が都路町にオープンしたことが大きなきっかけです。当時の私は趣味でパンを作っており、『ホップジャパンのように、田村市産のホップを生かしてパンを作れないか』と知り合いから声をかけられ、ホップ酵母の作り方を独学で学びました」

2021年、渡邉さんはひなたベーカリーの活動をスタート。当時は平日に会社員として働きながら月に1回マルシェに出店していましたが、「もっと買える場所はないの?」というお客さんの熱い声に後押しされ、土日営業の週末パン屋に。そして2025年には、念願の実店舗オープンとなりました。

店舗外観。トレーラーハウスを2棟つなげてあり、1棟は販売とイートインのスペース、もう1棟は加工所になっている

ご自身は常葉町出身・在住で、当初は地元での開業を考えていたという渡邉さん。なぜ都路町に店舗を構えたのでしょうか。

「元々この場所で営業していた『みやこじスイーツゆい』さんがコ・ラッシェ都路に移転し、『次に入る人がいなければ取り壊すしかない。せっかく作ったのにもったいない』と、都路町商工会の人から声をかけてもらったんです。私自身も自分のお店を持ちたいと準備を進めていたタイミングでしたし、ひなたベーカリーの原点は都路町にあるホップジャパンです。やはり都路なんだろうなと不思議な縁を感じ、ここでオープンすることを決めました」

お店のロゴに描かれた「太陽・月・麦」というモチーフも、ホップジャパンが製品のテーマに掲げる「陰陽五行」からインスピレーションを受けたもの。作物は昼間にお日様を浴びて夜育つー。自然の恵みを受け取り、循環していくという意味が込められています。

店名の由来は、同じくホップジャパンから活動を始めたキッチンカー「Kokage Kitchen」の存在と、陰陽五行の考えから。「『陰と陽で、こっちが木陰なら日向(ひなた)がいいんじゃない』と冗談みたいに決まったんです」と渡邉さん

選んで楽しいオーダーメイドサンドウィッチは、ロスを減らすアイデア

ひなたベーカリーの看板メニューは、オーダーメイドサンドウィッチ。店頭のショーケースには、新鮮な野菜や加工肉、渡邉さんが大鍋でじっくりと仕込んだラタトゥユやカレーといったお惣菜がずらりと並びます。

オーダーメイドサンドウィッチは、パン、好きな具材、ソースを選んで注文。お店のおすすめの組み合わせから選ぶこともできる

「パン屋さんの廃業原因の第1位はロス(廃棄)だと言われています。菓子パンや惣菜パンは、もし売れ残った時には捨てるという選択肢しかありません。そこで、食パン・バゲット・バンズといったシンプルなパンに、お客さんが好きな具材を選んで挟むオーダーメイド形式を採用しました。これなら、もし食パンやバゲットが余っても、乾燥させてラスクにしたり、パン粉にしてハンバーグに活用したりと二次加工ができるので、ロスを大幅に減らすことができるんです」

この独自のシステムは、お客さんにとっても大きなメリットを生み出しています。

「こだわりの素材を使う分、うちのパンはどうしてもチェーン店などと比べると値段が高くなってしまいます。でもオーダーメイドサンドウィッチなら、『今日は少し節約したいからレタスだけ挟んで180円で食べよう』という日もあれば、『今日は贅沢にお肉を2種類入れてボリューム満点のご褒美サンドにしよう!』と、その日のお財布事情や気分に合わせて楽しんでいただけます。本当においしいものを、無理のない価格で多くの人に味わってほしいんです」

お客さんの自由な組み合わせから、思わぬ「ミラクルなおいしさ」が発見されることもあるそう。オーダーメイドならではの温かなコミュニケーションも醍醐味の一つとなっています。

バゲットに、たまごサンドのたまご、無添加ベーコン、レタスをはさんだオーダーメイドサンドウィッチ。「パンからあふれるほどの具材のオーダーがあった場合は、スプーンも一緒につけますよ」と渡邉さん

子どもたちが将来帰ってこられるよう、今住む人がやるべきことがある

毎日深夜2時にお店に来てパンを焼く渡邉さん。田村市で活動を続ける背景には、田村市を未来に残したいという思いがあります。

「人は誰でも、帰る場所が必要です。例えば子どもたちが都会へ出て日々の生活に疲れた時、田村市に帰ってくれば、カエルの声や自然の音に癒され、心や体を休ませることができます。でも今のままでは、田村市自体がいつか消滅してしまうかもしれない。子どもたちが将来いつでも帰ってこられる場所を残すために、今住んでいる私たちが、できることをやらなければいけないと感じています。一つの店の一人勝ちではなく、民間の小さな力が横に繋がり、地域全体で経済を循環させていく仕組みを作る必要があると思いますし、足を運びたくなるコンテンツを、価値を、生み出していくことが大事です」

店舗内はイートイン可。太陽と月を表すペンダントライトが目を惹く

渡邉さんにとってひなたベーカリーの経営は、大きな目標に向けた第一ステップにすぎません。

「私が最終的に目指しているのは、田村市の中に、生活を軸にして互いに助け合う『小さなコミュニティ』を作ること。例えば、私がパンを焼くためには小麦が必要です。現在は業者から仕入れていますが、将来的には市内の高齢者の方々に農業で小麦を作っていただいて、その労働力とパンを交換する。自分の得意なことや提供できるもの、そうした『価値と価値の交換』による、小さな循環を生み出したいです。自分ができることもあれば、他の人ができることもある。 逆に、自分が苦手なことは他の人ができることもある。その人らしさがかけ合わさり、助け合って生きていける世界観を作りたいですね」

最後に、田村市への移住を検討している方へ向けて、メッセージをいただきました。

「田村市には、華やかな服屋さんも少ないですし、飲食店も都会に比べれば限られています。でも私は『何もない』ということ自体が、大きな価値だと思います。深夜にパンを作りに来て、早朝窓を開けると、車の音は1台も聞こえず、美しい鳥のさえずりが響き渡っていて、都会では味わえない贅沢さがあると思っています。『何もない』中に、自分なりの『ある』を見つけ出すことが、田村市の楽しみ方の一つだと思います」

体に優しいこだわりの手作りパンと、渡邉さんの地域に対するあたたかく力強い思いがつまったひなたベーカリー。田村市や都路町の自然の恵みを感じながら、自分だけの特別なサンドウィッチを味わってみてください。

「人の幸せにとって『ありのままの自分でいる・やりたいことをやる』というのが大事だと思っています」と渡邉さんは話す

ひなたベーカリー

住所:福島県田村市都路町岩井沢字道ノ内65-1
店休日:火・水曜日(毎月の営業日詳細はInstagramに掲載)
電話:080-3332-5299
駐車場:あり
Instagram:https://www.instagram.com/hinata.bakery/
ECサイト:https://hinatabakerys.stores.jp/
お問い合わせ:電話またはInstagramのDM


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