移住を考えるときに気になるのは、「その土地で暮らす日々にどんな時間が待っているか」ではないでしょうか。福島県田村市には、2024年4月に開校した「たむら市民大学(愛称:たまり)」という学びの場があります。最大の特徴は、教員と学生が「教える」「教えられる」という一方通行の関係ではなく、互いに楽しく学び合うことを大事にする点。今回は事務局である田村市教育委員会生涯学習課に取材し、たむら市民大学の魅力と、そこに息づく学びを通じた人のつながりについて紹介します。
行政主導の限界から生まれた市民がつくる学びの場

たむら市民大学たまりのロゴ。力強い文字は、水墨画や書道の講座を開く教員が書いたもの
たむら市民大学とは、市民が教員(講師)となって講座を企画・提供し、同じく市民が学生(受講生)となる、生涯学習講座の仕組みです。前期は4月〜9月、後期は10月〜翌年3月と半期ごとで区切られており、まず教員と講座内容の募集、次いで学生の募集が行われ、原則10人ほどの申し込みが集まれば開講となります。
(2026年7月末現在、2026年度後期の学生募集を行っています。詳しくはこちら)
生涯学習講座というと、行政が講師を選び、講演会や教室として開催されることが一般的ですが、予算や人員の制約から講座の質を保つことが難しかったり、担当職員の異動でノウハウが引き継がれなかったり、多様化する市民の学習ニーズに応えきれなかったりと、さまざまな課題があります。
「田村市も例外ではなく、今までの行政主導のやり方だと、どうしてもマンネリ化してしまう部分がありました」
そう振り返るのは、生涯学習課の大山さん。単発で終わりがちな講座ではなく、市民が主体となって参加し、継続していける新しい生涯学習の仕組みが必要だと考えるようになりました。
そんな中、当時の教育長が見つけたのが、「市民が講師となって市民に教える」というコンセプトで運営されている、愛知県東海市の市民大学「平成嚶鳴館(へいせいおうめいかん)」。実際に視察に赴き講座の様子を見学すると、市民が講師となり、講師と生徒が和気あいあいと楽しく学び合う様子がありました。運営も事務局も市民の手によって担われ、「このような形であれば、市民主体の学びの場がつくられ、継続していけるのではないか」と感じたといいます。
開校準備を進める中、「本当に運営していけるのか」「教員となってくれる市民がいるだろうか」という不安があったそうですが、事務局職員の知り合いなどへ地道に呼びかけを行ったことで想定を超える人数の教員希望者が集まり、開校してすぐの2024年度前期は、13講座が開講となりました。
教員も学生も「自分が学びたい」を出発点に参加する

「季節の野菜講座」の様子。開催場所は教員が持つ畑や公民館など、講座ごとにさまざま
たむら市民大学のユニークな点は、教員を務める市民に、資格や免許、指導経験が一切求められないことです。家庭菜園や手芸、縄もじり、健康体操、郷土料理など、自分が得意なことや好きなことを、そのまま講座にできます。事務局や知り合いに声をかけられて教員に興味を持つ人もいれば、「やってみたいのですが」と事務局の窓口を訪れ、講座内容や開催時間、回数などを相談にくる人もいます。開校から2年半で、田村市内在住の人を中心に53名が教員に。年齢層は50・60代が中心ですが、宅地建物取引士合格講座や昆虫講座など、20代の教員も活躍しています。
「『こんなことをやりたいんですが』とご相談いただいたときは、よほど不自然な内容でない限り『いいですね、面白いですね』と背中を押しています。1つの講座は半期で5回、または10回の実施ですが、10回は月2回の開催ペースなので、教員も学生も少し忙しくなります。そのため、初めて教員になる方で10回実施を希望された際には、『まずは5回くらいで様子を見てみませんか』と、無理のないペースを一緒に考えます。教えるからちゃんとしなきゃいけないというより、教員も学生も一緒に楽しみながら、学び合いを続けていけるのがよいのではないかと考えています」

「声楽家から学ぶ講座」の様子。世代を超えて、同じ興味関心を持つ市民が集まる
学生募集は、たむら市民大学のホームページや、市内の公民館等の施設で配布されるチラシにて周知が行われ、市民が自分の興味や関心に沿って、講座を選んで応募します。応募可能年齢は講座によって異なりますが、保護者同伴で小学1・2年生から参加できる講座もあります。学生の半数ほどが60歳以上で、最年長は80代。講座運営は主に学生が支払う授業料でまかなわれ、教員には謝礼が支払われる仕組み。テキストや材料費などの実費は別途学生が負担します。
パン作りから昆虫観察、日本画まで。広がり続ける講座のレパートリー
開校から3年目を迎え、これまでに開講した講座数は累計79講座、学生数は延べ1024人。講座内容は実に幅広く、パンや地元の郷土料理といった食にまつわるものから、日本画や水墨画、書、俳句、イラストなどの文化系、ヨガやアロマテラピー、日本舞踊、フラダンスといった健康・美容系、さらには英会話、行政書士・宅建講座、手話教室のような実用系まで多彩です。季節の野菜やパッションフルーツの育て方を教える講座、樹木医が庭木を健康に育てるコツを伝える講座、フィールドワーク付きの昆虫講座や歴史講座など、田村市ならではの自然や暮らしを生かした内容も目立ちます。中でも人気なのが食にまつわる講座で、応募多数で抽選になることもあります。
「たまり」という愛称は、「田村・学びの場・リカレント教育(※)」の頭文字から取っています。同時に、市民大学によってつながった人たちが集う「交流の場=たまり場」という意味も込められています。パン作り講座に参加した学生からは、「自分で作ったパンや持ち寄ったお菓子を食べながらおしゃべりする時間があり、それがすごく楽しい」という声があり、学びながら生まれる何気ない交流の時間が魅力のひとつになっていることがわかります。
(※)リカレント教育:個人主体の、生涯を通じた学び直しのこと

現教育長自らが開講した「ギターで楽しもう!」講座の様子。平日夜開催の講座には仕事帰りの市民の姿も多い
講座数も学生数も少しずつ増え続けており、2026年度前期は過去最多の20講座が開催となりました。
「最初は13講座だったものが、いきなり30、50と増えるのは難しいです。徐々に定着していって、講座数も学生数も増えていけるといいと考えています。折り紙のように気軽に始められる講座や、10代が教員となる講座など、さらにバリエーションが豊かになると盛り上がるのではないかと考えています」
半期の講座を終えた後に教員・学生向けに実施するアンケートでは、目立った不満の声はほとんどありませんが、それでも大山さんは気を緩めません。 「アンケートに出ていないだけで、要望や不安がある方がいらっしゃることは、常に考えるようにしています。慢心せずに、満足度の高い活動を目指したいです」
今後は平成嚶鳴館のように、運営そのものも市民の手で回る自走の形を目指しています。 「焦らず時間をかけて定着させていきたいです。たむら市民大学の開催場所は田村市内ですが、学生や教員には、田村市外の方も応募いただけます。田村市のたまりを中心に皆さんにたまっていただき、楽しみながら学んでもらえると嬉しいです」と、大山さんは今後の展望について、期待を込めて締めくくりました。
学ぶことをきっかけに、田村市に暮らす人たちと自然に顔見知りになり、少しずつ自分の居場所が広がっていく――。たむら市民大学たまりは、これから田村市に移り住む人にとっても、まちに根を下ろす第一歩になってくれるはずです。
(2026年7月末現在、2026年度後期の学生募集を行っています。詳しくはこちら)

「イラスト講座」の様子。休日開催の講座は親子のおでかけや交流の機会にもなっている
たむら市民大学たまり
HP:https://tamura-tamari.jp/
※教員と学生の募集は半期ごとに行われます、詳しくはホームページをご覧ください。
事務局:たむら市民大学たまり事務局(田村市教育委員会生涯学習課内)
問い合わせ:0247-81-1215
この記事を読んで田村市での生活に興味を持った方、移住を検討している方は、お気軽にたむら移住相談室へご相談ください。
たむら移住相談室
Web:https://tamura-ijyu.jp/
電話:050-5526-4583
メール:contact@tamura-ijyu.jp
※たむら移住相談室は株式会社ジェイアール東日本企画と(一社)Switchが共同で運営しております。
