以前から充実した企業誘致制度で話題を集める広島県が、コロナ禍によって起きたビジネス環境の変化を受け、さらに攻めの姿勢を見せている。期間限定で1社あたりの初期コスト助成額を上限1億円から2億円に拡大し、条件も緩和したのだ。社長が移住する場合には、それだけで最大1000万円を交付するケースもあるという。
これからのオフィスの在り方について悩んでいる経営者層や、地方に移住したい会社員にとって、背中を押すきっかけになるのかもしれない。

古民家改装が50%オフ、たった1人のオフィスでも対象に

広島県は、2020年10月に、「広島県企業立地促進助成制度<新型コロナウイルス感染症対策特別枠>」を設けた。主なターゲットは、広島県外のIT系企業やスタートアップなどで、本社または本社機能の一部を広島県内に移転・分散させる場合、最大2億円をサポートする。21年2月までの申請で、翌22年2月までに進出する企業が対象だ。

条件は、3人以上の従業員が広島県内に勤務すること。ただし、代表権のある社長が移住する場合、外資系企業が初の日本法人を設立する場合、県が指定する「中山間地域」に進出する場合のいずれかでは、条件が「1人以上」に緩和される。

企業が得る助成額は、新しく広島オフィスを設置する際にかかる初期コスト(消耗品などを除く)の半額と、広島県内で働く人材および一緒に移住する家族の人数などによって決まる。

アフターコロナの新しい仕事場として、オフィスを建設、または古民家をリノベーションする場合、この制度を活用すれば格安で実現できる。また、シェアオフィスを借りるスモールスタートでも、たとえば転勤する従業員が5人家族なら、それだけで1000万円が交付される。

「広島県への異動」の詳細は、住民票を異動する従業員は200万円、社長が移住する場合は、従業員4人以上の中小企業で500万円、大企業で1000万円。そして、社長や従業員に伴って移住する家族の人数に対しても、1人あたり200万円が交付される。

図:広島県広島市にオフィス移転した場合のモデルケース(特設ページより)

家族や社長も対象にしたのは広島県が初

家族を助成対象にしたのは、広島県が全国初だったが、社長を対象にしたのも前代未聞だ。企業誘致を担当する広島県商工労働局県内投資促進課は、その理由を「イノベーション人材、クリエイティブ・クラスの集積を目指しています。新しいことに挑戦するキーマンとして、社長にはぜひ住んでいただきたい」と語ってくれた。
「広島県は、人口や産業の構成から“日本の縮図”とも言われています。大都市とは違う視点からビジネスを見ることができるのでは」
ちなみに、家族を対象にしたのは、転勤者の「家族と離れて暮らすのが寂しい」という声を反映させたのだとか。

広島県にとって「イノベーション」は施策決定における重要なキーワードだ。“広島をまるごと実証フィールドに!”と呼び掛けて始まった「ひろしまサンドボックス」は、3年目を迎える事業で、作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す、まさに「砂場」のように何度も試行錯誤できる場として、国内外の専門家や技術者と、チャレンジ精神のある広島県内の事業者らが1300以上集まる。今冬はニューノーマルな暮らしを支えるアイデアを公募する予定だという。
公募で選定された企業が広島県で短期プロジェクトを行う際には、宿泊・交通費やワーキングスペースも支援してもらえる。いわば、広島進出の「おためしプラン」だ。

オフィス賃料が最大5年間実質無料になるエリアも

初期コストとは別に、ランニングコストが軽減される制度もある。広島県内の13もの市や町が、オフィス賃料や通信使用料などをサポートする。それぞれ独自の条件を設けているが、3人以上のオフィスについては、広島県がさらに市や町と同率・同期間で助成を行うという。

たとえば、県と市の制度を組み合わせることで、政令指定都市の広島市や新幹線のぞみ号が停車する福山市は3年間、ワイナリーのある北部の三次(みよし)市ではオフィス賃料が5年間も実質無料になる。市や町の企業誘致担当者は、県の担当者とも日ごろから情報交換を重ねており、一緒になって企業のサポートを行う。

表:広島県制度と組み合わせたエリア別ランニングコスト助成率

移住人気ランキング全国2位 IT人材は?

では、人材獲得についてはどうだろうか。
「正直、県内のIT人材はまだまだ不足しているのが現実です。今まで、県全体の産業に占めるIT系の割合が低かった、第一線の仕事が大都市に集中していた、というのが理由として考えられます。ですが、広島県は教育県です。優秀なIT人材を県内の大学や高専などから輩出していますし、県内の受け皿も確実に増えているので、それに応じて増えていくのではないでしょうか。進出企業には、マッチングがうまく図れるように、専門の部署がサポートします」と、担当者は語る。

IT系に特化はしてないが、広島県は、経験豊かなマネージャー層から熱い視線を集めている。地方企業が大都市から優秀な人材を獲得するために、内閣府が45道府県で実施する「プロフェッショナル人材戦略拠点」事業で、20年7月、8月の広島県の成約件数が、2か月連続で全国トップを記録したという。ほどよい都市機能と、ほどよい自然、ぜひ来てほしいという地元企業からのラブコールが、コロナ禍で疲弊した都会の人の心をつかんだのかもしれない。
コロナ前の調査だが、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターによる「移住したい都道府県ランキング2020」でも、広島県は全国2位に輝いており、年代別にみると、20代で全国1位、30・40代で全国2位となっている。近年は、移住を希望する従業員が経営陣を説得して、「会社ごと移住」を果たしたケースもあったという。

リモートワークやテレビ会議など働く環境の劇的な変化により、従来型のオフィスはある意味、不要になった。ただ、広島県のような地方への移転は、うまくいけば人材獲得やブランディングなど“化学反応”が期待できる。一方で、地方は大都市と異なりマーケットは小さい。早い者勝ちになっていくのかもしれない。

●広島県企業立地促進助成制度<新型コロナウイルス感染症対策特別枠>特設ページ
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/office-relocation/
※取材:2020年10月

トップ画像提供:ONOMICHI SHARE(photo-Tetsuya Ito/by courtesy of DISCOVERLINK Setouchi)

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