「働く」という観点でいうと、昨年2017年は本当に「働き方改革」の年でした。それ一色だったと言っても過言ではないくらいですね。潜在的な問題は以前からありましたが、一つの事件をきかっけにこれほど世の中が大きく動くのは、正直想像以上でした。そもそも、やっぱり長時間働きすぎてたんでしょうし、生産性に大きな課題があることは間違いありません。
ただ、今日本の世の中を包んでいるこの「働き方改革」の解決の方向性に、何となく違和感というか消化しきれないモヤモヤした感覚、皆さんは感じませんか?
「長時間労働を無くす」「無駄な作業を無くす」「しっかり休みをとる」「ハラスメントを撲滅する」「テレワークを推進する」…もちろん、それは全部やったほうがいいと思います。でも、こうしたことだけで本当に全てが解決するのかな…年始にちょっと重たいかな? (笑)とは思いますが、ちょっと考えてみました。

最も大事なのは「自己人事権」では?

この深い課題に、早計に結論めいたことをいうのはおこがましいのですが、自分なりに思ったことがあります。それは、この「働き方改革」の最重要ポイントは、言ってみれば「自己人事権の回復」にあるんじゃないか?…ということです。

「自己人事権」という言葉は(おそらく)一般的ではないので伝わるか微妙ですが、要するに文字通り「自分自身の人生の人事権を自分で持つ」ということです。もちろんそれを100%もてることはほとんど無いでしょう。例えば信じられないことに、あのイチローですら現時点でまだ移籍先が決まっていないようですし。アメリカの大統領だろうが、一介のサラリーマンだろうが、立場や職種を問わず、世の中での自分の立ち位置を100%決めるのは誰もが困難です。
でも特にこの数十年、私たちは日本人は、全体としてはいつの間にか「自己人事権」を放棄しすぎたのではないかなと。つまり「働く」ことに主体性を発揮しなさすぎる、もしくは発揮するのが難しすぎる社会にしすぎたのではないかと思うのです。同じサラリーマンでも、欧米の人たちはここまで主体性を失っていないような気もするから不思議です。日本と韓国が特別なような気がしますが、どうなんでしょう?国民性なのかな?…でも、江戸時代や明治時代の日本人は、逆にもっと独立心に満ちていたような気もします。時代なんでしょうか?時代だけのせいにしていても始まりませんが。

とにかく、今の「働き方改革」の論点も、そのほとんどが改善策の主体者が「会社」側で、「個人」側ではない気がします。「働かされてきた」ことで生まれた問題を、「休ませる」ことでは解決できません。ここが冒頭のモヤモヤした「違和感」の源のような気がします。

「意識」だけでなく「仕組み」も変わる必要がある

こう話すと、「働く側の意識を変えれば解決する問題」だと言っているように誤解を受けるかもしれません。もちろん意識の問題もありますが、当然、意識だけで解決するわけではありません。要は「関係性」の問題です。当然仕組みも変えなければなりません。最近、副業やパラレルキャリアなどもよく話題になりますが、もちろんそれも関係性を変える大きな動きだと思います。我々と同じイード・グループに属する会社「エンファクトリー」さんの「専業禁止」 は、やはりインパクトあります。

そこまでの思い切りの良さはないものの、弊社でも「地域起業家採用制度」というものを導入しました。仕組みとしてはまだまだですが、方向性は悪くないのではと思います。また最近、起業家を目指す人と大企業を繋ぐ「起業家転職」という切り口の転職サービスなどもでてきました。非常に面白い仕組みだと思います。こういう制度やサービス、それに伴う社会の制度や価値観の変化は、本質的に「自己人事権」の回復を促す方向につながっていると感じます。

「フリーランス」は、本当に「フリー」かという問いについて

こういう話しをすると、ともすると「サラリーマンとして企業に勤めるより、起業したりフリーランスになったほうがいい」というように取られがちですが、それもまた誤解です。言うまでもなく、形はどうあれ独立すれば大変な面も多いし、かえって自由度はなくなることも少なくない。また同時に必ずしも企業に在籍している事自体が「自己人事権を失う」のとイコールではありません。自分の知人にも、企業の中で本当に自由に、めちゃめちゃ主体的に、のびのびと活躍している人も数多くいます。

つまり「どのハコがより自由か?」という問いは意味が無いんです。ここで焦点を当てているのは、「様々なハコに移動(異動)する自由」をどう担保するかという話です。これこそが「働き方改革」の本質であり、行き着く先は「自己人事権の回復」であるというのは、そういう面での意識や制度の障壁を無くす動きが重要だということなのです。最近良く聞かれる「人生100年時代」という枕詞も、一つのハコでは収まらないことを明確に意識付けてきています。(その議論の源流となった書籍がこちらです。「LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略」) まだ読まれていない方は是非!)

「地方」というハコの可能性

この「働き方改革」というテーマは、考えれば考えるほど奥が深いと思います。だからこそ、これだけ世の中に大きなインパクトを与えたんでしょう。世の中的には、同時並行で進んでいるはすの「地方創生」というテーマがやや沈んでしまった感もあるかもしれません。ただ私自身は、この2つの命題には、非常に深い関連性を感じます。企業か、独立か、フリーかという、ハコの「大きさ」や「種類」の選択肢と同時に、ハコの場所を「都会から地方に」移動させるという選択肢にもつながるからです。

自分は地域での事業に深く関わっているので、「地方」というテーマを巧みに取り込んで「自己人事権」を自由に且つ戦略的に行使している人たちと出会うことが非常に多いです。そういう人の話を聞くと、いつもすごく大きな刺激を受け、自分や会社の糧にしています。この「おもしろさ」は是非多くの方に味わっていただきたい!
そこで年明け1月19日に、自社主催のセミナーを開催することにしました。タイトルは、まさにそのまま「人生100年時代の”企業と個人の”地域事業戦略」です。セミナー開催の詳細はこちらです。登壇される3名の方々は、企業内外でそれぞれユニークな戦略を立てて、非常に熱い気持ちで主体性をもった取り組みをされています。様々な方に刺激を与えられることうけあいです。もし興味をお持ちいただけるようであれば是非ご参加下さい。(再度、詳細はこちらから)

最後は宣伝チックになってしまいましたが(笑)…ちなみに恐縮ながら有料ですが、会場費や直接経費をご負担いただくものですのでどうかご容赦を。ぜひ多くの方とこのテーマを議論したいと思います。是非ともよろしくお願いいたします!

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。