双葉町は2022年8月に原発事故に伴う避難指示が一部で解除され、11年半ぶりに町内で居住ができるようになりました。そして2023年10月には、双葉町移住相談センターが開所。今回は、移住相談を担う一般社団法人ふたばプロジェクトの田口隼人さんに双葉町の住まいの状況や暮らし、担当者としての思いについてうかがいました。
新しいことにチャレンジしがいのある環境
双葉町移住相談センターは、JR双葉駅から東に徒歩10分ほどの場所に位置する、双葉町のまちづくり会社・一般社団法人ふたばプロジェクトの事務所1階にあります。2024年1月10日時点の双葉町の居住人口は移住者62人、帰還者41人の103人。田口さんも移住者の一人です。千葉県浦安市出身で、茨城県水戸市から2023年4月に移住してきました。
「相談員で移住者でもある私の発言は一つ一つ重みがあるはず。ノリで『おいでよ』というのではなく、生活の現状は事実ベースで慎重にお伝えするよう心がけています。双葉町での暮らしは時間の流れが穏やかで、静かな環境が魅力。この環境で過ごす時間は、本当にぜいたくなものだと感じます。移住相談に来られた方の中には、普段自宅で仕事をしていて、この生活環境に惹かれたという方もいらっしゃいました。双葉町はまだまだ足りないものだらけで、新しいことにチャレンジしがいのある可能性に満ちています。人生の新たなスタートを切りたいと考えている方や、自分の力で何かを切り開いていきたいという方にとっても良い環境だと思います」
双葉町への移住を検討するにあたり、おさえておきたいのは双葉町の住宅事情です。「今すぐに住みたくても、住む場所がまだ少ないのが実情」と田口さんは語ります。町内で整備されている民間の賃貸アパートはまだ少なく、町内で働いている人も多くは町外から通勤しています。
こうした中、町内の主な住まいの選択肢として挙げられるのは、全86戸ある公営住宅の「駅西住宅」です。移住者も対象となる「再生賃貸住宅」と帰還者向けの「災害公営住宅」があり、2024年1月時点で39戸(うち28戸が再生賃貸住宅)が完成しており、36戸の入居が決まっています。2024年5月末には残す47戸(うち28戸が再生賃貸住宅)が完成予定です。2024年2月29日まで入居者を募集しており、それ以降は空きが出ると双葉町役場のホームページで募集が出されます。
駅西住宅は名前の通りJR双葉駅の西側に広がる住宅地で、単身者からファミリーまで幅広い世帯が暮らしています。全戸に広い土間があり、住民同士が交流しやすい設計になっています。一見して公営住宅とは思えないおしゃれなデザインで、ここに惹かれて移住を決めた人も多いのだそう。
今後、町内の企業で働く人が増えれば住まいの需要もさらに高まり、民間賃貸住宅の整備が進んでいくことも期待されます。2025年度には町内にスーパーマーケットや飲食店を含む商業施設がオープン予定で、福島県浜通り最大級のカンファレンスルームを備えたホテルも開業予定。復興の先駆けとなる「働く拠点」として町が整備した中野地区復興産業拠点では2024年2月時点で23件の企業が契約を結び、うち18件が操業をスタートしており、さまざまな職種で求人が増えています。
周辺町村と連携して対応
住まいと仕事の選択肢が限られている中ではありますが、双葉町移住相談センターでは相談者が希望する情報が提供できるよう、周辺町村の移住相談窓口とも連携を進めています。
双葉町を含む双葉郡は、車さえあれば通勤圏は広いです。働く場所は双葉町で、住まいは隣接する浪江町や大熊町、片道20分程度の富岡町に持つという選択肢もあります。イベントがある時に遊びに来るなど、住むだけではない双葉町とのさまざまな関わり方を提案しているのだそう。田口さんは「最終的には移住してもらうことがゴールですが、まずは双葉町のファンになってもらいたい。町のことを知って、気に入ってもらって、町と関わってもらうことを移住相談員としての“最初のゴール”にしています」と話します。
双葉町のファンを増やしていく取り組みの一つが、ふたばプロジェクトが実施している「おためし来町」のプログラムです。2024年1月末には、1泊2日で町を散策したり、空き地を活用したまちづくりに関するワークショップを行ったりと、今まさに動き出したばかりの双葉町との関わり甲斐を体感できる内容。今後は、もともと双葉町で暮らしていた方の子や孫などにあたる「町民二世、三世」に知ってもらえるような施策も検討しているといいます。
「震災前に双葉町に住民票があった人は7,000人以上。現在は他の地域で暮らしている方がほとんどですが、お子さんやお孫さんなど、双葉町のことを見聞きしたことがある人の中には、自分のルーツである双葉町のことをもっと知りたい、何かしら双葉町に関わりたいと思っている人もいるかもしれません。そうした方に、双葉町と関わってもらえるような機会をどんどんつくっていきたいです」(田口さん)
一人でも多くの人に双葉町の魅力を伝えたい
田口さんは「双葉町にふるさとをつくりたい、双葉町の再生に少しでも役に立ちたいという思いで移住をしました」と話します。
大学卒業直後の22歳の時に父親が死去。実家を売却したことで、心落ち着くふるさとがなくなってしまったと感じたのだそう。新卒で入社した製薬会社の営業職では、生活必需品である医薬品なのに売り上げが最も重視され、販売すること自体が社会貢献と言われることに疑問を抱いていたといいます。自分が納得できる形で世の中に役立つ仕事がしたいと考えていた2021年、仕事中に通りかかった富岡町で当時立ち入りが制限されていた「帰還困難区域」のバリケードを見た時に、「原発事故でふるさとを離れざるをえなかった原発避難地域の状況と、ふるさとを失った自分の喪失感がシンクロした」と振り返ります。
そこから原発事故の被災地について調べ始め、当時ほぼ全域が帰還困難区域だった双葉町のことを知りました。「ここでまちづくりに携わりたい。そして、ここで自分のふるさとをつくりたい」と感じ、何度も家族を説得。ふたばプロジェクトへの就職が決まり、単身で移住をしました。
「帰還した方と新しく移住してくる方とで尊重し合いながら新しい双葉町、新しいふるさとを作っていきたい。その実現のために、双葉町移住相談センターの役割は非常に大きなものだと感じています。生活はとても充実していますね。ふたたび始まったばかりの町ですが、一人で始めたランニングクラブの仲間も増えていて、少ない人数でも少しずつ、コミュニティができてきていると感じています。一人でも多くの人と関わり、双葉町の魅力を伝えていきたいです」
復興の歩みが始まったばかりだからこそ、一人の小さな動きもまちづくりにつながる双葉町。「移住相談」と身構えなくても、双葉町と関わりたい、将来的には移住を考えたいという人は、ぜひ双葉町移住相談センターに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
■双葉町移住相談センター
所在地:〒979-1471 福島県双葉郡双葉町大字長塚字谷沢町100番地3
HP:https://futaba-iju.com/
TEL:0240-23-7637
メール:info@futaba-pj.or.jp
営業時間:9:00~17:00(土日祝日、年末年始休業)
移住相談の前段階で双葉町のことを知りたいという人は、JR双葉駅の旧駅舎(憩いの場)に足を運んでみてください。
■旧駅舎(憩いの場)
所在地:〒979-1471 福島県双葉郡双葉町大字長塚字町西39-2
営業時間:9:00~17:00 (年末年始休業)
※所属や内容は取材当時のものです。
文・写真:五十嵐秋音
※本記事はふくしま12市町村移住ポータルサイト『未来ワークふくしま』からの転載です。