興味があるなんて軽々しく言うのは、農家さんに失礼なんじゃないか。東京近郊のベッドタウンで生まれ育ち、そのまま都内で働くようになった私は、そんな気後れを農業に対して勝手に抱いていました。
普段から食べている野菜や果物がどのように作られるのか。学んでみたいという気持ちはあれど、これといった機会もないまま気づけば今年で40歳に……。そんな農業とは無関係の人生を送ってきた私でしたが、このたび縁あって徳島県鳴門市に2週間ほど滞在。名物である「鳴門らっきょ」作りを体験してきました。
想像以上に刺激的だった初めての鳴門市、初めての農業についてお伝えします。
農業を身近にする「半農半X」の取り組み
きっかけとなったのは、旅行と短期アルバイトを組み合わせた「おてつたび」というサービス。地方で働いてみたい旅行者とピークシーズンなどの人手不足に悩む地域事業者をマッチングするサイトで、鳴門市役所の出した募集をたまたま見かけたのが始まりでした。
5月から6月に行われる農家さんのらっきょう作りを、市の用意するシェアハウスで生活しながら手伝うという内容なのですが、説明の中で気になったのは「半農半X」という文字。なんだろう?と思い調べてみると「半分は農業。もう半分は自分の好きなことや得意なこと、すなわち各自のXを楽しむライフスタイル」とのこと。
らっきょう以外にも、なると金時や梨、れんこん、すだちなどの名産地として知られる鳴門市。市役所では兼業農家や家庭菜園など、規模や業態を問わず農業を身近に感じられる暮らしを支援しており、半農半Xの推進に力を入れているそうです。
いいヒントになるかもしれない。ここ数年「半サラリーマン半ライター」として働いてきた私でしたが、勤めていた会社を昨年に退職。これからはライター業をメインに置きつつ、並行して何か別の仕事もできないかと考えているところでした。
正直、農作業には体力面の不安もあったのですが、お手伝いは午前か午後のどちらかだけ。半農半Xらしく、残りの時間は自由に使える内容でした。これなら何とかなるはず! せっかくなら訪れたことのない場所へ行き、今しかできない体験をしてみたいという思いのあった私は、募集への参加を決意。まったくの素人でありながら、初めての農作業にチャレンジすることになったのです。
「便利」と「のどか」が両立する鳴門での暮らし
鳴門市に到着しての正直な感想は……意外と都会! 失礼な話ですが、そもそも鳴門どころか四国にも来たことのなかった私は、「不便だけど落ち着く、田舎の生活」をイメージしていました。
しかし周辺にはスーパーやコンビニ、ドラッグストアも多く、非常に便利。滞在中は市から自転車をお借りしていたのですが、車がなくても不便に感じることは一切ありませんでした。むしろ近隣には道の駅や温泉施設、ボートレース場などもあるため、自転車で毎日あちこちに出かけるのが楽しかったです。
ちなみに到着初日には市職員さんが観光スポットを案内してくれたのですが、渦潮はもちろん、歴史あるお寺や酒蔵、美術館や展望台など見所満載。名物の徳島ラーメンや鳴ちゅるうどん、新鮮な海の幸が食べられる美味しい飲食店や居酒屋、すてきなカフェなどもたくさんあるので、観光にグルメにと、退屈する暇もなくオフの時間もたっぷり満喫しました。
海と山、川と畑という自然の景色に囲まれていながら、都市としての機能も十分に兼ね備えるバランスの良さ。地方ならではの人口流出に悩んでいるのが信じられないほど、とにかく暮らしやすい街というのが実際の鳴門市の印象です。
そして何と言っても気候が素晴らしい! 本島と3つの島から成る鳴門市では、各島へ行き来するための渡船が現役で運行中。農園のある大毛島にも自転車ごと船に乗って通勤するのですが、爽やかな風に吹かれながら海の輝きを眺めていると、それだけでやる気が湧いてくるような、鳴門が持つ自然の力を感じる毎日でした。
初めての農業で、仕事への向き合い方を学ぶ
さて肝心のらっきょう作りですが、銀砂と呼ばれるサラサラした砂地での収穫から作業はスタート。その後も付着した砂を落とし、切り子さんと呼ばれる専任のお手伝いさんが担当する根と茎を切り落とす作業。さらに水洗い、粒の選別、そして梱包という一連の工程を体験させていただきました。
機械化された部分もあるものの、その多くが手作業。小さな鳴門らっきょ一粒にどれだけの手間がかかっているか、身を持って知ることができました。
農園の方々は事もなげに作業されていますが、いざ挑戦してみると、どの工程にも熟練の技と工夫が隠れていて唸らされることばかり。例えば袋詰めでは、農園のお母さまが輪ゴムの結え方を実演して教えてくださったのですが、あまりの素早さに初めは何をどうしているのか理解できなかったほどです。
それでも作業を繰り返していると少しずつ上達していくのを実感。切り子作業のサクサクとした音や水洗い中のツルツルしたらっきょうの手触りも気持ち良く、次第に手仕事の楽しさを感じられるようになりました。
そして何より嬉しかったのは、農園の方々が暖かく受け入れてくださったこと。まったくの初心者にも関わらず楽しんで作業することができたのは、農家さんの優しいサポートとお気遣いがあったからに他なりません。
実は今年は春の天候不良が影響し、らっきょうの収穫は不作だったそう。そのためお手伝いも予定より早く終了してしまったのですが、ご配慮により後半は、金時芋の苗付けや糸ワカメの加工作業も担当させていただきました。
一方で、年によっては過剰な豊作によって廃棄が出てしまうこともあるんだとか……。楽しいばかりではなく、思い通りにはならない農業の難しさも垣間見ることとなりました。
また夏になれば、来年に向けて再びらっきょうの植え付けが始まるそう。5月から6月という収穫時期を考えると、成長までに1年近い時間が掛かることも驚きです。
そうした中、日々するべきことを当たり前のように淡々とこなしてく農園の人たち。その働き方に触れ、私自身も目の前のことに全力で取り組んでみようというパワーをもらったような気がしています。
いるだけで自由になれる、鳴門のおおらかさ
約2週間にわたる滞在中には農家さんの他にも、お世話になった市役所の職員さん、同じシェアハウスに住む他の参加者、そして鳴門の魅力を知って移住してこられた地域事業者の方々との楽しい交流にも恵まれました。
多くの出会いを通じて様々な生き方に触れる機会を得られたことは、今後の人生においても大きな意味を持つだろうと考えています。来る前に予想していたより、遥かに濃密で刺激的な旅になりました。
人も自然もおおらかでありながら、パワフルなエネルギーを持った街、鳴門市。農業や移住、旅行や観光に興味のある人はもちろんのこと、自分の生き方や働き方を見つめ直してみたいと考えている人には、ぜひ一度訪れてみてほしいです。
美しい景色と穏やかな気候の中に身を置くだけでも、自由な気持ちになれるはず。もしかしたら想像を超えるような体験が待っているかもしれません。
高千穂 圭吾
1984年生まれ。埼玉県越谷市出身、東京都足立区在住。大学卒業後、都内の出版社へ入社。その後、カナダ留学などを経て、貿易会社に転職。貿易事務の傍ら副業でライター活動を開始する。現在は会社を退職し、フリーランスとして活動中。得意分野は音楽、温泉、ヨガ、飲酒など。
▶関連記事はこちら
・令和5年度① 毎朝「いっちょやってやるか!」と前向きな気持ちに。
・令和5年度② 憧れの地「鳴門」でらっきょう料理の考案を楽しむ。
・令和6年度② それぞれの半農半Xと仲間との楽しい共同生活。
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