■世界最大級の渦潮が有名な四国の玄関口「徳島県鳴門市」では、家庭菜園・アルバイト・兼業等、形態や規模を問わず農業を生活に取り入れながら、農業以外の仕事・ライフワーク・得意なことといった、自身のライフスタイルに合わせたX(=天職)で世の中に貢献する新しい生活様式「半農半X(はんのうはんえっくす)」を応援しています。

 

■令和8年度半農半Xシェアハウス事業 第1弾の鳴門らっきょ編では、(株)おてつたびと鳴門市とで連携し、参加者のみなさんにシェアハウスで交流していただきながら、半日は特産品の鳴門らっきょの農作業、もう半日はフリータイムの鳴門暮らしを約2週間体験していただきました。

 

プロローグ

徳島県鳴門市鳴門町大毛島。

リゾートホテルが立ち並ぶ大毛海岸へと向かうトンネルをくぐると、らっきょうの香りを含んだ風が車内に吹き込んできた。

ここは、ブランド野菜「鳴門らっきょ」の生産地。

5~6月にかけて旬を迎える鳴門らっきょは、現在収穫の真っただ中だ。

 

抜けるような青空が広がったこの日、砂地に広がるらっきょう畑の片隅で、“移住を考える人”と“すでに移住した人”の対話が始まった。

 

話を聞くのは、埼玉県在住の会社員・相澤 哲平(あいざわ てっぺい)さん。

50代を迎え、「このまま会社員人生を続けるのか」「以前から持っていた就農への想いをカタチにできないか」と模索する中で、鳴門市の「半農半X推進シェアハウス事業」に参加した。

 

迎えたのは、東京都出身で、現在は鳴門市でらっきょう加工品の企画・販売を手がける藤井 隆行(ふじい たかゆき)さん。

 

農業の厳しさも、地方で生きる面白さも知る先輩移住者の言葉に、相澤さんは何を感じたのだろうか。

 

収穫後のらっきょ畑で向かい合う相澤さん(右)と藤井さん(左)

 

 

第1章|「このままでいいのか」——50代、会社員としての迷い

Q. 相澤さんが今回鳴門市の半農半Xシェアハウス事業に参加された理由を教えてください。

相澤さん:
「すぐに今の生活を辞めるわけじゃないんです。でも50代になって、“このままサラリーマンを続けるだけでいいのかな”って考えるようになって」

相澤さんは、長年サラリーマンとして働いてきた。

朝起きて職場に行き、仕事が終わると帰宅する―――

そんな生活を続ける中で、“地方で生きる可能性”を探っていたという。

 

「ずっと農業に興味があったんです。子どもの頃、祖父の畑を手伝っていて。枝豆とかトマトを採って食べた記憶がずっと残っていて・・・今は、“その土地の特産品を育てたい”という想いを強く持っています」

畑の土の匂い。夏の夕暮れ。もぎたて野菜の青い香り。
その原風景が、50代になった今、再び心を引っ張っていた。

 

相澤 哲平さん

 

第2章|「農業だけでは難しい」先輩移住者が語るリアル

Q. 実際に鳴門へ移住してみて、どうでしたか?

藤井さん:
「いや、農業は本当に大変ですよ。正直、“憧れだけ”では続かないと思います」

そう笑いながらも、藤井さんの言葉には現場を知る重みがあった。

 

春はらっきょう、夏はさつまいも、秋は選別作業、冬はわかめ。

 

大毛島の農家は一年を通して休みなく動く。作業は手仕事も多く、収穫は天候に左右されることも少なくない。

「農家さんは日々の作業に真剣に向き合っている分、新しい挑戦にまで手が回りにくい現実があります。」

一方で、藤井さんは“生産だけではない関わり方”を見つけていた。
現在は、ワインに合うらっきょうのピクルス開発やOEM製造、マルシェ販売、百貨店催事などを個人事業として展開している。

藤井さん:
「僕は“作る”より、“魅力を伝える”ほうが好きだったんですよね」

 

藤井 隆行さん

 

Q. 「らっきょう×ワイン」という発想はどこから?

藤井さん:
「仕事でオーストラリアにいた頃、ワインを飲みながら“らっきょうって合うな”と思ったんです。
でも、鳴門市は日本有数のらっきょうの産地なのに、僕が訪れた3年前には、道の駅にもどこにも“地元のらっきょうを使った加工品”がほとんど売られてなかった。

そこで、『ないなら自分で作ってみよう』って。」

 

その行動力が、今の仕事につながっている。

 

藤井さんが企画・製造・販売する鳴門らっきょピクルス『らっきょとワインと私』

 

第3章|鳴門で感じた、人との距離の近さ

Q. 鳴門の人たちとの関わりはどうでしたか?

藤井さん:
徳島って、おせっかいなくらい面倒見がいいんですよ」

 

藤井さんが鳴門らっきょの加工品を作ろうと決めた3年前。

藤井さんの想いに呼応するように、出会った人から加工業者を紹介され、農家につながり、創業支援とも出会った。

2週間の滞在中だけで、藤井さんの中には“事業の輪郭”が見え始めていたという。

「“あの人に聞いたら?”って、どんどん人をつないでくれるんですよね」

隣で聞いていた鳴門市職員も頷く。

 

鳴門市職員:
「この事業の目的のひとつに、”鳴門の日常を知ってもらう”というものがあります。実際に鳴門の人と出会い、交流し、鳴門の町で暮らす人と共に生きていく感覚を知ってほしいんです」

 

半農半X推進シェアハウス事業参加者の1日は、半日が農業、半日が自由時間。
だからこそ、海を見たり、町を歩いたり、人と話したりできる。

都会にはないゆったりとした時間の流れを感じながら、地元の人と触れ合えるのも、この事業の魅力のひとつだ。

 

らっきょの袋詰め作業をする相澤さん。同じ空間には袋詰めや箱詰めの作業をする地元の人もおり、仕事を通してたくさんの人との出会いがある

 

Q. 相澤さんは、鳴門の印象をどう感じましたか?

相澤さん:
「すごく“いい空気”だなと思いました。海もきれいだし、人もフレンドリーで」

畑に吹く風。

静かな海辺。
夕方になると、空がゆっくりオレンジ色に染まっていく。

「“ここで暮らす”っていうイメージが、少し湧きましたね」

 

ウチノ海の夕日

 

第4章|家族、仕事、収入——移住の前にある現実

Q. 移住を考えるうえで、不安はありますか?

相澤さん:
「やっぱり家族ですね」

相澤さんには、高校生と中学生の子どもがいる。
もし移住するとしても、すぐに家族全員でという形ではない。

「妻には、“なんで徳島なの?”って言われます(笑)」
埼玉県でも農業はできる。

それでも鳴門に惹かれる理由は、“農業だけじゃない魅力”があるからだ。

相澤さん:
「温暖だし、海もあるし、鳴門らっきょやなると金時などの有名な農産物もある。ここでなら、“何かできそう”って感じるんです」

一方で、藤井さんも当初は単身移住だった。
「うちも最初は、“絶対来ないだろうな”と思ってました」

だが、少しずつ事業の形が見え、暮らしの基盤ができていく中で、家族も鳴門へ来ることになった。

 

青空の下、話が弾む

 

第5章|「まず動いてみる」ことで見える景色

Q. これから移住を考える人へ、伝えたいことは?

藤井さん:
「とにかく、その地域に出向いて、そこに住む人々に会ったほうがいいですね」

ネットの情報だけでは分からないことが、現地にはたくさんある。

その土地にどんな可能性が眠っているのか。
それは、実際に足を運ばないと見えてこない。

「“旅の恥はかき捨て”くらいでいいんですよ。まずは思い切って飛び込んでみること

その言葉に、相澤さんも笑いながら頷く。

相澤さん:
「今回実際鳴門市に来て、それは強く実感しています。今日はこうやって藤井さんとお話ができて、目指そうとしていた“農業には、生産者以外の関わり方”もあるって分かったのがとても大きかったです」

 

農家になる。
加工に関わる。
販売する。
地域をつなぐ。
地方との関わり方は、一つではない。

 

空を仰ぐ相澤さんの目線の先に、これからのビジョンが映っているように感じられた

 

エピローグ

「移住」と聞くと、大きな決断のように感じる。
仕事を辞めること、家族のこと、収入のこと。考え始めれば、不安は尽きない。
今回の対談で印象的だったのは、藤井さんが語っていた“地方とのかかわり方は一つではない”という言葉だった。

畑に立つだけでなく、加工や販売、企画など、自分の得意なことを地域と掛け合わせることで、新しい仕事や暮らし方は生まれていく。

 

そしてもうひとつ、この町には“人との距離の近さ”がある。
「あの人に聞いてみたら?」と自然につながっていく関係性は、都会では得がたい安心感かもしれない。

 

相澤さんにとって、今回の滞在はまだ“決断”ではない。
けれど、海風の吹く畑で交わした言葉の数々は、これからの人生を考える大きなヒントになったはずだ。

 

地方で暮らすこと。働くこと。
その形は、一つじゃない。
鳴門には、“自分なりの関わり方”を探せる余白が、確かに残っていた。

 

■相澤さんが参加した『半農半X推進シェアハウス事業~鳴門らっきょ編~』第1弾の様子をまとめた動画はこちら!

 


■藤井 隆行さんが運営する“鳴門らっきょのもやい舎”のWEBサイトはこちら

https://moyaisha.comachicart.com/

 

■鳴門らっきょに関する記事はこちら

■令和7年度 半農半X推進シェアハウス事業体験レポートはこちら