ひろしまサンドボックスが新しい展開を見せている。これまでは、提案者が課題を設定し、解決策を提案するスタイルだった。今回初めて、広島県が課題を設定・提示し、それに対する解決策を試す実証プロジェクト事業を募集している。

県が解決策を求めているのは、道路の安全を確保するための「法面崩落の予測」、「除雪作業の支援」、「路面状態の把握」という3つの分野だ。

広島県ではこれまで、道路の安全確保に関しては、点検要領に基づく点検やパトロールにより現地を確認し、状況に応じて補修対応などを行ってきた。しかし、平成30年に起きた法面崩壊による人身事故や豪雨被害を受け、被害の発生を予測し、事前に事故を予防するという、既存の手法では困難とされてきた「未来を予測する」という課題に挑むことに。そこで、ひろしまサンドボックスの枠組みを活用し、既存の土木技術に新たな発想やテクノロジーを加え得る事業者の発掘に乗り出した。

本記事では、募集している3つの分野について詳報する。

分野1 法面の変化を敏感にキャッチし崩落事故を予防する

広島県は現在、複数の業者に業務を発注し、県管理道路約4,200kmを週に一度パトロールしている。監視を強める必要がある法面のある道路延長は1,140km。法面崩落の予測を始めるきっかけになったのは、昨年起きた崩落事故だった。広島県の管理する道路の法面が崩壊し、人が亡くなってしまったのだ。

「法面の崩落を予測する技術は確立されておらず、崩落に関しては住民が通報してくれたり警察から連絡が入ったり、実際に起きた後に対応しているのが現状です。」
と話すのは、土木建築局道路整備課の飛田祐典さんだ。

予測ができれば事故を未然に防ぎ、住民の安全を確保することができる。しかし、土木技術の領域だけでは、予測は極めて困難というのが一般的だ。
「湯﨑知事は最先端のデジタルテクノロジーを使えば予測できるのではないか、と。土木や道路維持管理の常識を書き換えるべく動き出しています」

例えば、法面の写真を定常的に撮影し、画像解析技術により石の角度などの変動に気付くことで崩落を予測する方法や、石にセンサーをつけ、その動きよって異変をキャッチする方法など、法面の状態の変化に気付けば崩落の予測に繋がるのではないか。人の目では気付かない変化の発見や、ベテラン技術者が感覚的にとらえていた危険度の判断を、IoTやAI等のデジタル技術によって定常化・精緻化することが期待されている。

分野2 熟練者にしかできない除雪作業を誰にでも託せるようにする

除雪作業は、道路が雪で埋もれた状況で除雪機械を運転して行われる。ここで問題になるのは、マンホールや歩道と車道を隔てるブロックなどの突起物だ。突起物に当たると機械が故障するため、これらの位置を細かく把握している熟練者が運転席に座り、巧妙に避けている。また、道幅の狭い道路で除雪機を運転するのも素人には難しい技。除雪作業は、職人芸によって支えられているのだ。

「除雪の作業は現場をよく知っていなければできないので、現在は近隣の地域に住む人が担っています。そもそも雪が積もる地域は山間部に多く、そういった地域は高齢化が進んでいて若手のオペレーターが少ない。熟練のオペレーターもいつまで除雪作業ができるかわからない。担い手不足は、喫緊の課題です。」

そこで、デジタル技術によって誰でも除雪機械を操縦できるようにできないか。これが、2つ目の課題だ。例えば、突起物の位置情報を登録しておき、音でオペレーターに教えてくれたり、GPSで現在地を知らせ、道幅の狭い部分を通るときに注意を促すなどの技術を想定しているという。

目指すのは、免許取りたての学生から高齢者、その土地に住んでいない人など、誰でも除雪作業ができるようになることだ。

分野3 道路の陥没を予測し、パンクをなくす

広島県では、道路の舗装面の陥没(穴ぼこ)によってタイヤがパンクする事故が年間数十件発生している。先述した道路パトロールの際、陥没に気づくことができればその場で埋める作業を行っているが、パトロールは一週間に一度という頻度のため、その間に急に穴ができると、パンクを防げない。

「週に1度のパトロールのほか、ひび割れやわだちの状態、道路の平坦性などの状態をチェックする路面性状調査を5年で一巡させることとしています。これに、5年間で2億5000万ほどの費用を予定しています。陥没を予測することに加えて、安全性を担保しながらこの費用を抑える方法を模索しています。」

陥没によるパンク事故が起きた場合、県道の管理者である県は、損害賠償責任が問われる。こうしたリスクを回避するという意味でも、陥没予測へのニーズは高い。

「例えば、バス会社とコンソーシアムを組み、県道を常に走り回っているバスに小型カメラをつけ、舗装面の状態をデータ化してわずかな変化を発見するなど、デジタル技術があってこその発想を求めています。」

ITテックカンパニーにとって未開拓の巨大市場

土木業界に「予測する」という新しい概念を持ち込むという不確定要素だらけのチャレンジをする事業者に対して、飛田さんは次のように語る。

「道路の維持管理は、広島県だけで年間約140億円の市場です。今回の募集は、土木業界とIT業界の垣根を取り払うことで革新的な技術を生み出せる端緒だと捉えています。募集している我々自身が、IoTやAI等の最先端のデジタル技術で何がどこまでできるのか未知の領域。でも、そこに踏み込むことが何かに繋がるのではと、ある意味でワクワク感を持って楽しみながら、一方で我々の理解を超えた未知と遭遇する覚悟をもって、この募集を世に送り出しています。」

委託の上限額は、初年度いずれも500万円で「法面崩落の予測」は4件、「除雪作業の支援」が2件、「路面状態の把握」は2件の選定枠を設けている。令和2年度に実証実験を行い、各分野1件に絞り込む。令和3年度以降は、「法面崩落の予測」に1,000万円、「路面状態の把握」に2,000万円、「除雪作業の支援」に500万円をかけ、ブラッシュアップする計画だ。

ひろしまサンドボックスを担当する商工労働局イノベーション推進チームの尾上正幸さんは、「過去を検索する企業にはYahooやGoogle、今を検索する企業はtwitterやFacebookなどが既にあります。これからのIT業界は、未来を予測できることが新たな価値創造のフィールドだと言われています。ひろしまサンドボックスとしては、未来を予測することで地域のリアルな課題を解決したいと考える企業をサポートしていきます。」と結んだ。

募集期間は12月6日(金)まで。
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取材・文:浅倉 彩