“阿波のチベット”と呼ばれる那賀町木沢地区。この山深い地域に、Airbnb(エアビーアンドビー)でスーパーホストに選ばれ、外国人が続々と訪れているゲストハウスがあります。それが『ゲストハウス杉の子』です。オーナーの桑高仁志さん(写真右)がゲストハウスをはじめることになったいきさつや、木沢に暮らす思いを寄稿いただきました。

プロフィール/桑高仁志
群馬県伊勢崎市出身。大学では社会福祉を専攻、災害支援やボランティア活動に打ち込む。新潟県中越地震支援を機に新潟県小千谷市に移住。地域復興支援員として中山間地支援に携わったのち、2013年4月に徳島県那賀町へ。地域おこし協力隊の任期終了後、古民家ゲストハウスと合同会社を設立、地域の中の居場所作りと人材育成に取り組む。

おばあちゃんだって地域資源 ~協力隊時の活動~

地域おこし協力隊以前、新潟県の「地域復興支援員」という形で中山間地支援に携わっていました。しかし徐々に“サポーターではなく、地域プレイヤーになりたい”という気持ちが強くなり、新たな地での再チャレンジとして地域おこし協力隊の道を選びました。徳島の知人の紹介もあり、2013年春に徳島県那賀町地域おこし協力隊として移住生活を再スタートしました。
協力隊1年目はまちづくり団体担当でしたが、2年目に今の木沢地区担当になりました。しかし着任と同時に保育園・小学校が閉校、意気消沈する地域の中で“住民は何を望んでいるのか?”それを知るために全戸訪問をしました。


そんな中、出会ったのが平均年齢70才ほどの愛育班*の女性たち。30年続いた地区女性グループの解散式で保健師さんから「この人たちを頼む」と託され、集いの場をどうしていくかを愛育班中心メンバーと話し合いました。女性たちから出たのは「みんなで集まって料理や裁縫、唄を歌いたい」という前向きな夢。そこで“一人ひとりが生徒で先生、娘に戻って楽しめる楽校づくり”を目標に『杉の娘楽校(以下、杉の娘)』がスタート、自分が事務局を引き受けつつ地元と二人三脚で現在に至ります。

主な活動としては月一回のサロンや遠足ですが、マンネリを避けるため提案した年1回の手作り文化祭は地域に笑いを届ける名物行事となりました。保健師に託されて始まったボクと姑30人の不思議な共生関係ですが、その後の地域インターンシップや交流事業に協力してくれるかけがえのないパートナーが生まれた瞬間でした。
居場所の次は、学び手ということで首都圏学生5名による地域インターンシップを企画。地域行事への学生参加や個人史聞き取りを実施し、杉の娘との郷土料理交流や小学校での学生発表会を通して多世代交流の場づくりを図りました。

*『愛育班』…昭和初期、農山漁村の母子の健康づくりを目的に全国普及。木沢では保健師活動のサポートほか地区高齢者の見守りなどに取り組んでいた。

 10年かけてホントの協力隊になる

3年目は、交流の場と自身のナリワイづくりを目標に『古民家再生ゲストハウスづくり』に取り組むことにしました。
杉の娘の紹介で築150年の古民家を借り、首都圏建築学生団体-空き家改修プロジェクトをはじめ地元大工や左官職人の協力を得ながら年6回の建築ワークショップと地道なDIYにより、1年がかりの空き家再生になりました。改装費用は協力隊の活動費や起業経費、ほか国県の補助金で賄うことができました。これらの経験は空き家再生に関する大きな学びになり、ワークショップ時の民泊体験では学生・地域間の繋がりがさらに深まったことが印象的でした。改修と同時進行でゲストハウス運営主体の法人設立を町と協議。比較的設立費用が少なく1人から始められる「合同会社」を選択、“木沢の未来を繋いでいく”そんな想いを込めて会社名・ゲストハウスは『杉の子』と名付けました。また簡易宿泊所と飲食店営業の2つの許認可を取得し、平成28年4月、合同会社・ゲストハウスによるナリワイづくりが始まりました。

これからのナリワイとやりがいの場づくり ~ゲストハウス運営と生き方探し~

協力隊を卒業した現在、「①合同会社の月額報酬 ②出前講師や原稿執筆料 ③草刈りバイト」の複業で生計を立てています。
ゲストハウスは1組限定の一棟貸しとして地元野菜を使った郷土料理を提供、基本は自分が接客(予約管理/清掃/布団/事務全般)、杉の娘のえみこさんが調理と食材仕入れを担当しています。開業2年目に民泊仲介サイト大手Airbnbに掲載したところインバウンド(訪日外国人観光客)利用が急増、年間200人近い外国人が訪れるようになりました。平均4週間のバカンス滞在のインバウンドは連泊利用が多く、当初全力でのおもてなしはせいぜい1組という理由が回りまわって顧客満足度の高い観光案内やホスピタリティ提供につながっています。また築150年の建物や雄大な自然美もさることながら素朴なえみこさんの郷土料理が一番人気で、今後は料理教室の開催等で新たな顧客の取り込みを図っていきたいと考えています。


しかしながらゲストハウス運営はあくまで収入源、一番大切にしているのは杉の娘や学生たちとの交流事業です。ゲストハウスは地域イベント時の学生滞在施設であると同時に杉の娘をはじめとした地域住民との出会いの場、イベントスペースとしても活用しており、これは小学校が担っていた多世代交流の場・拠り所を少しでも補完できればとの思いからです。

全国的に言えますが、高齢化の進む地域はありとあらゆる「後継者不足」です。僕の住む木沢に現役大工はいませんし、電気屋や水道屋も1人だけです。森林・土木・観光関係でも従業員の高齢化が進んでいます。これから地方移住を考える方は「起業」以外にも、僕のような『複業』・手に職をもつ『継業』といった選択肢もあるのではないかなと思います。都市に比べて選択肢が少ない地方は、一人で何役もこなさないといけません。代わりの人がいない分お付き合いや地域の出役など“求められること”は多いですが、だからこそ必要とされる生き方が出来る場所なのだと思います。互いに必要とし必要とされる社会、地元の方がここに暮らしていて良かったと思えるような地域づくりをこれからもお手伝いしていきたいと思っています。

 

ゲストハウス 杉の子
那賀郡那賀町寺内字寺内18番地
宿泊料 大人1名 8000円~(季節料金あり)
問い合わせ
TEL:080-6537-9319 担当;桑高
HP:https://kuwatakared.wixsite.com/suginoko/
メール:gh.suginoko@gmail.com
FBページ:https://www.facebook.com/gh.suginoko/