2020年2月に入って、思わぬ事態が世の中を暗く包んでいます。
新型コロナ・ウイルスによる感染が世界的に広がりを見せ、現時点ではまだその出口が見えていません。あれだけ大勢いた外国人観光客の姿も目に見えて減り、経済への影響への懸念も広がってきました。こうした状況下で、1つ注目しておきたい思わぬ変化のポイントがあります。それは、特に在京の大企業やIT企業を中心に「テレワーク」が急速に広まってきているということです。
テレワーク(もしくはリモートワークとも言うのですが)とは、ITツールを活用し、オフィスに縛られることなく自宅やコワーキングなどで仕事をすることです。
言うまでもなく、この状況下で満員電車で通勤するリスクが急速に高まったため、大企業でもやれる企業から進めています。実はそもそも、東京オリンピック・パラリンピック期間中、特に会場周辺の企業は国からテレワークを推進し、混雑緩和への協力を依頼されていたので、多くの企業がそれを準備していました。思わぬところでそれが大幅に前倒しになったというわけです。このことは、小さな事象のように見えますが、よくよく考えるとかなり大きな変化の起点となる可能性があるのではと感じます。同時に、特に地方にどういう影響があるも含めて、考えてみました。

ここから本質的・本格的な「働き方改革」が始まる。

この状況下で、先人を切って思い切った「テレワーク」体制を敷いたIT企業があります。それは従業員4000人を抱えるGMOインターネットグループです。その従業員の大部分を対象に、1月下旬の早い段階から自宅勤務に切り替えたことは、大きなニュースになりました。
(参考:朝日新聞デジタル「新型肺炎予防で在宅勤務に GMO、従業員4千人対象 )
またそれに呼応するように、クラウドファンディング大手のCAMPFIREなどのITベンチャーのみならず、Yahoo!JAPANや、KDDI、NECやNTTなどの数万人、数十万人を対象にしたテレワーク推進策が進んできています。

こんな状況の中、先のGMOの熊谷社長がTwitterで以下のような投稿をされて、それが更に話題になりました。

[出典:熊谷社長Twitter https://twitter.com/m_kumagai ]

普段から影響力のある方だけに、自分もその熊谷社長の投稿をライブで拝見し、「ああー。これは大きな話題になるな」と直感的に感じました。…と思っていた矢先に、さらにさらに熊谷社長とも関係が強いホリエモンこと堀江貴文さんが、話題のご自身のYoutubeチャンネルで、更にこんな動画を流されました。

ホリエモン・チャンネル(登録者数 約95万人) より

是非動画を御覧いただきたいのですが、ホリエモンはこの熊谷社長の論点からさらに深掘りして、「本格的なテレワーク導入は、企業の余剰人員をあぶり出す可能性がある」という、堀江さんらしい鋭くも過激な主張です。つまり、オフィス勤務を当たり前としている場合と、テレワークとの一番の違いは、「本当に成果をだしている人材が誰なのか」が、残酷なほど浮き上がらせてしまうことだということ。表現はともかく、我々のようなベンチャーでしかも地方にチームが分散している働き方をしているものにとっては、その指摘には全くもって納得です。役割と成果が明確になるテレワークの推進は、間違いなく能力があって貢献度の高い従業員にとって有利です。逆に、存在感や時間的なコミットメントで「働いている感」を出していた人にとっては、非常に厳しい環境となるでしょう。もちろん全ての業種や仕事がそうなるとは言えません。ただ、いわゆる「ホワイトカラー」的な仕事の大部分は、この影響を避けられないと思います。

また堀江さんの論点を逆から捉えて、従業員の側からの会社と関係性についても考えると、これも大きく変わるはずです。同じ場所や同じ仲間と常にリアルに接することで自然と生まれる帰属意識やロイヤルティは想像以上に強固なものです。一時的にせよ、そういう「引力」から解き放たれつつ仕事をするという体験は、これはまた非常に大きなインパクトを働く側にもたらすはずです。

即ち、今回の出来事は、想像以上に「自分と仕事」や「自分と会社」というテーマを改めて考えるきっかけにつながると思うのです。

こうした流れは、ともすると休暇のとり方や勤務時間などの”枝葉末節”にとらわれがちだった「働き方改革」を、より本質的なものに変質させるかもしれません。
「人生100年時代に、自分はどう生きていこうか。」「自分もそろそろ、先を見据えてライフ・シフトするべきタイミングではないか。」そんなことに思いを馳せる人が、より増えてくるはずです。

この変化が地方にもたらす影響

こうした状況は、関係人口を増やそうとしている地方にとっても、大きな転機になるはずです。
もちろん、だからといっていきなり地方移住が増えるわけではないでしょうし、この病災に”乗じて”直接的に何かを仕掛けるべきというわけでもありません。
しかしながら、仕事の仕方や、会社との関係など、人生を俯瞰した様々な命題をそれぞれが捉え直す人が増えることは、少なくとも「関係人口」を増やしたい地域にとっては、今まで出会えなかった人たちとの接点が増える場となることは間違いありません。言ってみれば、特定の場所や組織に縛られてきた多くの人たちが、世の中との「新しい関係性」を追い求める時代になるということです。その「新しい関係性」の中に、「地方」という選択肢は必ず入ってくるはずです。

もともと、時代の大きな流れ自体は、人生100年時代を意識した人々によって様々な価値観が変化し、こうした変化の方向に入っていました。しかしこうした思いがけない社会的なインパクトのある出来事は、往々にしてその流れを加速することがあります。思えば、東日本大震災はもちろんそうでしたし、大手代理店で起こったあの悲しい事件もそうでした。今回の新型コロナウイルス・ショックも、テレワークの普及とセットで、将来振り返ったときに、こうした価値観の大きな岐路となった出来事として語られるのではないでしょうか。

思わぬきっかけで加速しはじめた、ライフ・シフトのきっかけとなるこの流れは、関係人口を増やしたい自治体はもちろん、社員を「関係人口化」していきたいと考え始めた企業(参考コラム:「先進的な大企業が「地方創生」を手がける本当の理由」)は、この変化を見据えて手を打つ必要があるのは確かでしょう。

長くなりましたので、こうした状況下で特に地方がまず準備すべきことについては、次のコラム[関係人口を増やしたい地域が今こそ準備すべき「3つ」のこと。]で考えてみたいと思います。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。