1つ前のコラム(参考:新型コロナウイルス・ショックが加速する”思わぬ変化”と、その地方への影響とは?)で、テレワーク(もしくはリモートワーク)が急速に普及することで働き方改革が本質的に進み、関係人口を増やそうとする地域にとっては、その対象となる人のパイが増える可能性があるという話をしました。では地方自治体や地域の企業などは、その流れを受け止めて地方でライフ・シフトを志す人達を少しでも多く向えるために、一体何をすればいいのでしょうか?私は、そのために以下の「3つ」の準備を早急にすべきだと考えています。順に説明していきましょう。

1.まずはテレワーク受け入れ体制をつくる。

前述の通り、都市部でのテレワークがこの流れの起点になっているからには、地方でもそれを受け止める準備が必要でしょう。「受け止める」という表現をしているのは、必ずしも「地方でもテレワークを進めよう」とまでは言っていないからです。地方自治体や地域企業などで、一気に自宅などで仕事をするテレワークが広まるとは正直思えませんし、また通勤通学が大変な都会よりもそのメリットは正直少ないのも事実でしょう。

ただし、少なくとも関係人口創出や移住促進、地域の情報発信やマーケティング業務に関わる部署や担当者は、今こそ「テレワークで地方に関わろうとする人たち」と一緒に仕事をする環境を整えるべきです。もっと具体的に言えば、ITツールを活用し、オンラインで日常的にコミュニケーションできる環境を整え、都市部でそういう働き方に慣れた人たちと繋がって、まさに「関係人口化」することが必要なのです。

さらに具体的に言及すると、以下の3つのツールを使うことが重要だと思います。

①Web会議ツール
・PCやスマホがあれば、いつでもどこでも会議ができるツールです。昨今は無料でも十分利用に耐えるものが数多く出ています。

②ビジネスチャット・ツール
・一言で言えば「仕事専用のLINE」です。メールで仕事を進めるよりも数倍コミュニケーション効率が高まり、世界はもちろん、国内でも急速に普及しています。

③クラウド・ストレージサービス
・ネット上で簡単にファイルを共有できるサービスです。メールでファイルを添付し、あとからパスワードを送るという煩わしさから開放され、情報共有が圧倒的にスムーズになります。
エクセルやワード、パワーポイントのようなドキュメントも、メールに添付して送り合うのではなく、ネット上で同時に大勢で更新できるようにもなります。

この3つが、テレワークを受け入れる為の、いわば「3種の神器」です。いずれも本当に安価に導入できるので、地方でもすでに大いに活用している自治体や企業も出てきています。
しかし、その導入について自治体でよく障害となるのが「セキュリティ」問題。正直、こうしたツールのほうがよほどセキュリティレベルが高く、Windows7のPCのアップグレードを今ころ進めているようなレベルとは比較にならないのですが、それを言っていては導入はなかなか難しいのも事実。そういう場合は、関連部署の人たちだけ、自治体や会社の社内ネットワークに繋がっていない別のものでも、最悪構わないと思います。社内PCとは別に、BYOD(Bring Your Own Device)といって、私用のPCやタブレットで代用する方法でも事は足ります。なんとか既成のルールを回避し、都市部にいながら関わってくれそうな人と、早く繋がる方を優先すべきです。そうした都会の人材も、準備ができた関わりやすい地域とどんどん繋がっていくはずですから。

またこれらのツールについて、更に具体的にどんなものを選べばいいのかについては、こちらのコラム:「テレワークを無料で始めるツールはこれがベスト!〜独断と偏見で選んだ「三種の神器」〜」をご参照ください。

2.移住や関係人口関連のイベントを、ネット上で開催する。

2つ目は、イベントについてです。この新型コロナウイルス流行下で、多くのリアル・イベントが延期や中止になり始めています。もちろん、おそらく数ヶ月後には収まってくるとは思いますが、元々こうしたテーマでのリアル・イベントは、その費用対効果について悩みを持っている自治体も少なくありません。
つまり、開催費はもとより出張費や人件費などの費用の割には、なかなかそれに見合う人数を集めるのが難しいのです。少し前ですが、移住相談会に「サクラ」を呼んでいて問題になったこともありました。(参考:東京新聞:【「いい話」裏にサクラ 移住相談会 外注企業動員】2019.12.16)
もちろん、実際に会って話す価値は大きいので、必ずしも全てをネットに置き換えるのが得策とは思いません。しかし、まだまだ決断まで遠い段階の都市部の人たちと、ある程度の規模で出会うという目的であれば、前述1のWeb会議同様、こうしたイベントをネットで開催することは、今や技術的には何ら難しくありません。また、当メディアの「コミュニティ」のメニューをクリックすると、地域でオンラインのコミュニティやオンラインサロンの取り組みが紹介されています。こうしたオンラインで継続的に集まる仕組みもまた、同様に選択肢として検討すべきです。
このタイミングでこそ、イベントのネット化は真剣に検討すべきポイントになるかと思いますし、おそらく今年はそういう自治体が増えてくると思います。実は私達もそうした相談を受けて動き始めてもいます。

3.観光と物販の二刀流戦略を描く。

今回の病災で改めて痛感したのが、こうした状況下での「来訪観光のみ」に依存するリスクです。災害があると、観光客はあっという間にいなくなってしまいますし、回復には一定の時間がかかる。これはわかっていることですが、「喉元過ぎれば熱さを忘れてしまう」傾向も否めません。

このリスクを回避するには、やはり物販、特にネット通販と観光をしっかりと両立させるしかありません。

当然平時から、この2つをうまく関係づけながら、地域への来訪促進と、来訪しなくても商品が売れる仕組みを作るのが、簡単ではないですが、どの地域でも必要不可欠なのです。
この観点から考えると、「ふるさと納税制度」の活用も、また違った見え方になってきます。もちろん、ふるさと納税は自治体への寄付を集め、自主財源化するのがその主目的ではありますが、なかなか売れない高額商品や、知られていない地産品の顧客開拓としては非常に効果的なしくみです。返礼品として”売れる”だけではなく、人気が出てきたらやはり一般のネット販路で継続的に売れることをゴールに見据えて、地域全体でこの制度を改めて見直し、地産品の販路開拓戦略に組み込んでいくべきです。

関係人口を増やしたい自治体はもちろん地域の企業や様々な組織は、今まで以上にオープンな体制にしていく必要があります。そのためのツールは想像以上に進化し費用もそれほどかかりません。あとは正に「やるかどうか」にかかっていますし、始めているところは、すでに当然のように始めて使いこなしているのも事実です。

都市部にいる関係人口潜在層とうまく繋がるには、こうした足元の準備が大きく影響します。それにはやはり、進化するITツールを躊躇すること無く使いこなす姿勢が強く求められると思います。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。