【特集の主旨】
ようやく徐々に街に人が出てくるようになってきた。来週からは自治体間の移動も解禁になる予定だ。一方で、”新しい生活様式”という言葉は飛び交うものの、まだその実態をつかめている人は多くはない。そんな中でもウィズコロナ、アフターコロナの時代への対応を模索が始まっている。
様々に語られ始めている情報を重ね合わせ、私達の経験値や考え方も折込みながら、自治体や地域の事業者が考えるべき課題や取るべき戦略を考察してみた。


6月19日に県境をまたいだ移動が解禁される見込みとなって、私自身も少しづつ出張の予定が入り始めた。やはりテレワークだけでは対応できないこともある。…というのは嘘ではないが、正直心の中では安堵と嬉しさも感じている。

そんな気持ちをいだきながら、久しぶりに宿を予約しようと思ったときに、ふと感じた事がある。

それは、「このホテルのWiFiは、Web会議に耐えられる速度の回線だろうか?」ということだ。

このニーズは、おそらく自分だけでなく、今後多くの出張ビジネスマンが感じることだろう。そしてこのポイントを更に深堀りしていくと、宿泊事業者や他の観光事業者が注力すべき一つの手がかりも見えてくる。

 (※前の記事「【特集】アフターコロナの地域戦略〜(5)リアルとオンラインで事業を「両立」させる3つのポイント〜」はこちら。)

「あればいい」ではなくなったWiFi設備

出張の予定を考えていて大きく変わった点がある。それは日程の途中途中で「Web会議」が予定されていることだ。このコロナ禍の中でテレワークが急速に進み、我々の会議は以前から社内会議の8割以上がオンラインだったのが、対外的な会議もその多くがオンラインで済ませられるようになった。

これは本当に大きな変化で、この点は今回のコロナ禍の中で唯一「良かった」と言える。その効率の良さについて一旦味を占めてしまえば、誰しもが戻ることはないだろう。むしろこれからは「是非お会いしたい」と軽々しく言いにくくなるはずだ。

なので当然、出張の合間にもオンライン会議が挟まってくる。となると心配なのは、行き先で落ち着いてそれができる場所があるかということだ。

一番考えられるのは、やはり宿泊先の部屋に戻ってというパターンだ。

ここで心配になるがWiFiの回線速度だ。これまでも何度となく「あればいい」程度の速度のWiFiで、オンライン会議どころか、メールやSNSのやりとりすら「もどかしい」経験をした記憶がある。一方で、どのホテルの案内にも今どきは「WiFi装備」は標準で、その質までは見分けがつかない。

実は不安になって予約したホテルに電話で問い合わせてみた。ところがいきなり「オンライン会議に耐えられる回線速度ですか?」と聞かれても、ホテルのスタッフはなかなか明確には答えられないようだった。まあ無理もないかもしれない。どのくらいの速度だと大丈夫なのかの知識もなければ、回線速度を計測する手段すら一般的な知識とは言いにくい。また実際の速度は、宿泊者が同時にどのくらい使うかにもよるので、「絶対大丈夫」とも言いにくい。

ただ、これからはそれでは済まないだろう。むしろ「高速回線でオンライン会議もスムーズ!」のような宣伝文句が競うように使われるはずだ。もちろん「絶対大丈夫」を求めることは難しいだろうが、テレワーク拠点としても耐えうるという主張は、宿泊事業者にとっては非常に重要なアピールになってくるだろう。

いよいよ実現味を帯びてきた「ワーケーション」

更に深堀りして考えていくと、このポイントが出張と旅行を緊密につなげていく可能性があることに気づく。つまり、時々仕事をしながら旅行するという、いわゆる「ワーケーション」が現実味を帯びてくるのだ。

少し前から広がっていた「ワーケーション」、すなわち「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を同時に境目なく成立させようという考え方について、正直にいうと個人的にもかなり懐疑的だった。とはいえ出張の多い自分の経験では、確かに何度か出張と休暇をつなげ、出張先の地方の観光地に家族を呼び寄せて、そのまま休みに入ったということも何度かあった。しかしこうした経験は、地方出張の多い自分ですらそれほど多くもないし、ましてや普通の仕事でごくたまに出張するサラリーマンにまで普及するとは思えなかったのだ。

しかし、このコロナショックによる劇的な変化があった今となっては、決してそうでもない。

例えば、飛び石連休があったとしよう。せっかくなら家族と近場でもいいから2泊3日の旅行にでもいく絶好のチャンスだ。以前なら諦めていたこの機会も、これからは「休みの間の平日」には、オンライン会議を交えたテレワークで済ませられる予定にしてしまえばいい。その日だけは他の家族とは別行動になるが、夜には仕事からも開放され、美味しい食事と温泉に・・・なんていう事が容易に考えられるようになったのだ。

これこそ、これから起こる現実的な「ワーケーション」だろう。しかもマイクロツーリズムには決して珍しくないシチュエーションに違いない。またこれがきっかけで、以前から大きな問題だった大型連休などに観光客が集中する傾向も、徐々に緩和されるきっかけになってくるかもしれない。そう考えると、これは本当に大きい変化の入り口になるだろう。

受け入れ側の対応が大きな鍵

これに対して、まずは宿泊事業者は「落ち着いてテレワークができる環境」を用意する必要があるだろう。先に触れたWiFi環境の充実は言うまでも無いが、仕事をするスペースを容易すれば十分かというとそうではない。静かな場所で、話し声が人に筒抜けにならないよう「Web会議」ができる場所はどうしても必要なはずだ。これを施設によってどう準備するかが大きな鍵になってくる。

実はこのことは、最近地方都市でも数多く広がってきた、いわゆる「コワーキング・スペース」でも同じだ。実はオンライン会議ができる施設を十分に持っているところは多くはない。施設内に電話ブースのような狭い個室があるところは見かけるようになった。ただし、例えば1時間の会議を日に2~3回こなすような時には居心地が悪い事が多い。今まで「コワーキング」はその名の通り「仕事上の新たな出会いの場」が大きなテーマだったので、仕方ない部分もある。しかし正直いうと実際にはそんなに役に立つ出会いは、そうそう頻繁にはない。一方でオンライン会議のニーズは必須条件になるので、この変化はコワーキング・スペースの形すら微妙に変化させることになるかもしれない。

観光に話を戻すと、この「テレワーク普及」から「ワーケーション」につながる新しい旅行スタイルは、施設面だけでなく様々なサービスにも変化をもたらすだろう。例えば15:00前後が一般的なチェックイン時間すら、再考する必要があるかもしれない。個人的には、仕事から休暇に気持ちをスムースに切り替えるサポートをしてもらえると嬉しいかもしれない。具体的なアイデアは、プロの皆様におまかせすることにしよう。

マイクロツーリズム獲得への具体的な”戦術”を急げ

そ-
星野リゾートの星野代表が、テレビやYoutubeなど様々な媒体を通じて、ウィズコロナの観光戦略を、移動1時間圏内の「マイクロツーリズム」に絞るべきと主張され、その戦略があっという間に広がっている。「インバウンドはここ数年急伸したのは事実だが、実は観光は国内市場のほうが大きい。諦めることなく一緒に頑張りましょう!」というその力強いメッセージに勇気づけられた観光事業者は数え切れないほどいるだろう。本当に素晴らしい方で心から尊敬してやまない。
ただその戦略を戦術に落として実行するのは、当然個々の事業者だ。先のテレワークと観光の接点について、星野代表も同様に言及されていたし、当然すでに着手している事業者もいるだろう。実際に密を回避できる宿泊施設で人気のあるところは、8月の予約が埋まり始めているという話もちらほら聞こえてきた。その対応スピードとオリジナリティをどう出すかにかかって来ている。
今回は、特に観光や交通・飲食業界は本当にひどいことになった。ただそれは、同じ業種ならどの企業もほぼ等しく受けた影響だろう。しかしこのあとに広がってくる「差」は、やはりコロナのせいだけにはできない。これはどんな事業にも言えることだ。正にこれからが正念場だ。自分自身を含め心してかかりたい。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。

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本記事では、テレワーク開始時に需要が高いであろう「オンライン会議ツール」に関して、それぞれをWi-Fiを使わず、モバイルデータ通信をした際のデータ量を確認しました。環境により変動することは前提ですが、おおよその目安にして、テレワークの参考にしてください。