【特集の主旨】
緊急事態宣言延長の中、徐々にではあるが地域別に出口の模索が続いている。まだ全面復旧からは程遠いものの、アフターコロナ時代の地方自治体や地域事業者がどう動くべきか、考え始めている人も少なくない。その一助になればと思い、様々に語られ始めている情報をできる限り重ね、僭越ながら私達の経験値や考え方も折込みながら、自治体や地域の事業者が考えるべき課題や取るべき戦略を、できる限り考察してみた。


第一段として、まずは近年、地方自治体の最大の課題ともいえる「関係人口」創出について、このコロナショックの影響と今後の課題を探っていこうと思う。

急速に高まる「地方」への意識


アフターコロナ時代に地方への関心が高まるということについては、意義を唱える人は少ないだろう。
2ヶ月以上かけて刷り込まれた「三密回避」のトラウマは、そう簡単に人の意識から抜けるとは思えない。
またこうした意識を持ち続けることが、「新しい生活様式」の根幹をなしていると言われているからなおさらだ。
まずは生活環境の面で、「密」である都市部から「疎(そ)」である地方への意識が高まるのは間違いない。加えて大きな変化が起こったのが、「働き方」だ。
テレワークが驚くほどの速度で普及し、それを経験したかなりの人が通勤ラッシュのナンセンスさに気づき、同時にオフィスに集うことなくある程度の仕事がこなせることに覚醒した。
もちろん全てがそうとは言えないが、都会の近く住むことの価値は大きく減衰したと言えるだろう。
同時に、これから押し寄せるであろう強烈な不況の波は、生活コストが高い都会の生活から、一定規模の人数を強制的に引き離すことも考えられる。こうしたことは、今まで何とかして関係人口を増やしたいと苦心してきた地方自治体にとって、(語弊があるかもしれないが)想像だにしなかった「大好機」になるはずだ。一方で、コロナショックによって難局を迎えるのは地方も同じ。というか、経済的には地方の方が苦しくなる可能性も高く、都会が地獄で、地方が天国になるわけはない。
それでもやはり関係人口の拡大は、地方にとっての活路であり、実現すべき必須課題であることに変わりはない。ではこの状況の中で、地方自治体はそのためにどんな戦略をとるべきだろうか?

入り口が変わって、全く別のシナリオになる


私達は、これまでいくつかの自治体の「関係人口創出」の戦略策定に携わってきた。
当然、地域によってその特徴を生かした戦略シナリオは違う。ただ一つ共通していたのは、その「入り口」だ。今までは、全くのゼロから地域への関心を持つ最初の入り口となるのが、ふるさと納税を含めた「地産品」との接点と、その地域に赴くきっかけとなる「旅行」だった。
人はやはり行ったこともない地域に関心を寄せることは稀だし、旅行や食べ物などでの物理的な接点は「関係構築」の第一歩として欠かせない。特にコロナが収まった後は「国内旅行」からその需要が戻ると予想されていて、それはそれで変わらずチャンスのいとぐちとなりうる。しかし私は、アフターコロナではもう一つ大きな関係人口への「入り口」が開くのではないかと考えている。それは「仕事」だ。
といっても、地方の仕事を求める人が押し寄せるというわけではない。(もちろんそれもゼロではないだろうが。)
ターゲットは、前述のテレワークに馴染んだ都市ワーカーだ。彼らの中からは、その仕事を持ったまま「必ずしも都会に住まなくてもいいのでは?」と考える人たちが、相当な数現れるはずだ。東京都では現時点で働く人の50%がテレワークを経験しているとの調査もある。
しかも今後、オフィス環境も見直しも進み、不況によるワークシェアリングも進むとも言われているので、その数は益々増えると予想されている。このテレワーカーこそが、地方にとっての金鉱脈になりうる。この新たな関係人口潜在層をどう受け止めるかが、自治体にとって大きな岐路になってくるだろう。

「テレワーカー」が関係人口の主役に


実は、栃木県や茨城県などの首都圏近隣の自治体では、テレワーカーやパラレルワーカーをターゲットにした関係人口や移住促進策は既に進められていた。ただそうした人材のパイがなかなか膨らまなかったのが悩みだったのだが、それが一気に解消し、都市近郊地域は移住促進を含めた関係人口戦略が急速に進めやすくなるはずだ。週に数日だけ出勤すればいい人は、都市部から近郊に急速に移動いくかもしれない。さらにその広がりは、必ずしも大都市圏近郊以外の地方都市にも波及するだろう。今はまだ職種が限られているが、例えば企画系やマーケティング/PR職の人材など、インターネットさえあればWeb会議とパソコンでこなせる専門性のある人材は、そうした都会の仕事を持ち出しやすい。仮に1社だけに雇われずとも、複数の会社でその専門性を発揮し、さらには同時に地方でもその役割を担えれば、職業としても安定し、地方でも活躍できる、これ以上無い「金の卵」どころか「金の親鶏」ともいえる人材になるはずだ。
実は、これまでも地方で活躍している人の中には、そうした専門性やスキルを持って地方で活躍している人が、もう一定以上存在している。しかもそうした人材こそ、地方に足りていない、喉から手が出るほどほしい人材なのだ。さらに今後は、例えば人事や経理、総務など、どの企業にも必要な役割すら「テレワーク」化がすすむ。それは今までなかなか抜け出せなかった紙やハンコの文化が、コロナショックでようやく脱却できる道筋が見えてきたからだ。様々な業務のクラウド化が進み、いわゆるホワイトカラーと呼ばれていた多くの労働者が、その度合いはともかく、テレワークを交えた働き方になっていく。と同時に、その人達は、出身地かどうかは関係なく、どこかの地域に「戻って」くる可能性があるのだ。そもそも「地方創生に関心が高い人だけを関係人口にする」べきかというとそうとは限らない。地域と「どう関係するか」は、むしろ人それぞれであるべきだ。そういう意味でも、様々な職種の人が、テレワークをきっかけに地域に関わるほうが、自治体や事業者にとっても今まで以上にメリットが大きいはずなのだ。

鍵となる「テレワーカー」受け入れ戦略


こうなるとやはり、鍵となるのは地方側の受け入れ体制をいかにスピード感を持って構築するかだ。自治体でも事業者でもそれは同じだろう。まず必要となるのは、その最初の接点における環境整備だ。関係人口として地域に関わりをもつきっかけ自体を「オンライン化」するのは、当然必須になる。
例えば、今までリアルで開催していた移住や関係人口関連のイベントは、オンラインで開催するべきだろう。これは今年度はしばらく大人数の集会が開催しづらい面からも必須の対策になる。
同時に、そうした接点をもった人たちと継続的な関係を維持する仕組みも、やはりオンライン化していく必要がある。昨今急速に広まっているオンライン・サロンやコミュニティがその手段のひとつになるだろう。その上で、地域外の人材が移住促進や関係人口創出そのものに関わる仕事も、「テレワーク可能」にすべきだろう。自治体や事業者の支援をする仕事や、契約社員、さらにはできることなら地域おこし協力隊(※注)のような仕事も、その対象にするのが理想的だ。もちろん、必要に応じて定期的に実際に来訪してもらい、地域の環境やその事業課題を肌で感じてもらうことも重要だ。その上で、何かしらの役割をもって継続的な関係性を維持できれば、それはもう一気に「無くてはならない関係人口」になるはずだ。仕事の内容は、必ずしも「地方創生」文脈のものでなくてもいい。大切なのは、居場所を問わない「仕事」をいかに多くそろえるかが、関係人口創出の最大のポイントになってくるということだ。そのためには地域の側も、そうしたWeb会議などのオンライン・ツールを積極的に取り入れる必要がある。もう躊躇している時間はない。ただし、そのために今までの社内や庁舎内のネットワーク環境や、セキュリティ対策を全て構築し直すべきかというと、実は必ずしもそうではない。機密性の高い重要情報や個人情報など、全てを管理する完璧なインフラを、時間とお金をかけて再構築するべきだというような話とは、論点は全く別なのだ。
極端に言えば、関係人口の担当部署だけ新しいタブレットPCと、社内ネットワークとは別のWIFI環境を用意し、新しいメールアドレスと基本的なツールさえインストールすれば、それで事足りる。要するに既存の環境とは別に、新たにネットにつなげる環境さえ用意できれば、まずは目的は十分果たせる。都市部のテレワーク人材と、Web会議ができオンラインで仕事を進められればそれで十分なのだ。
コスト的にも、それほどかかる話ではない。下手したら一人あたり、数万円程度で済む可能性もある。話しをすり替えて、大規模な予算の提案を持ってくるような企業や人には、逆に注意したほうがいい。それでも「そういうことに詳しい人材が身近にいない」という人がいるだろう。でも、それ自体も「かなり疑わしい」と私は思う。
実際に仕事でWeb会議をしょっちゅうやっているフリーランスの人や、パソコンやスマホに詳しい人は、声をかければ周りに一人や二人いるはずだ。そういう人に少し手伝ってもらって、レクチャーを受けさえすれば、本当は誰でも簡単にできることなのだ。でなければ、ここまで広まっていない。要するに一歩踏み出す気持ちがあるかどうかの問題なのだ。このことに気づいている地域は、既に加速している。というか、以前からそこに気づいて動き始めている地域も、実は相当数ある。コロナショックは、地方が今までいかんともし難いと感じてきた「地理的なデメリット」を一気に吹き飛ばしてしまった。
今まで最も難易度の高かった「関係人口創出」は、一夜にして「やればできる」課題に変貌したともいえる。
この流れをいち早くとらえ、動きを加速し、まさに「オンライン化」する地域こそが、生き残る術を獲得していくはずだ。

文:ネイティブ倉重

※注:地域おこし協力隊の採用は、住民票を移すことが必要条件になっている。それでもテレワーク可を条件にすることで、より良い人材を確保できる可能性が高まると筆者は考えている。

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。

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