【特集の主旨】
緊急事態宣言延長の中、徐々にではあるが地域別に出口の模索が続いている。まだ全面復旧からは程遠いものの、アフターコロナ時代の地方自治体や地域事業者がどう動くべきか、考え始めている人も少なくない。その一助になればと思い、様々に語られ始めている情報をできる限り重ね、僭越ながら私達の経験値や考え方も折込みながら、自治体や地域の事業者が考えるべき課題や取るべき戦略を、できる限り考察してみた。


第2弾としては、コロナショックで最も大きな影響を受けている領域のひとつ、「観光産業」について、このコロナショックの影響と今後の課題、そして対応すべき戦略や手法を探っていこうと思う。最初に考えたいのが、比較的早く戻ってくる可能性のある国内観光客についてだ。

 (※前の記事「アフターコロナの地域戦略〜(1)大きく変わる関係人口創出のシナリオ〜」はこちら。)

激変する観光ニーズとその市場

星野リゾートの星野佳路社長が、ホリエモンこと堀江貴文さんと今後の観光産業について対談されている動画が公開され、非常に参考になる議論が展開されている。やはり観光客として戻ってくるのは、①近隣顧客 ②大都市圏顧客 ③海外顧客 の順になるだろうとのこと。この予測をもとにまずは国内観光について考えてみよう。

NewsPick【堀江貴文×星野佳路】日本の観光業復興プランを考える(フル動画はこちら

ここで指摘されている、短期的な国内観光産業のマーケットの変化のポイントは以下の3つだ。

  • 26兆円の日本の観光市場の内、国内観光は約21兆円を占める規模。
  • 当面海外旅行に行けない層も、国内観光客として戻ってくるはず。
  • まずはこの国内客が近隣旅行をするマイクロツーリズム市場を狙うべきだ。

また星野社長は、このマーケットの観光客が求める新しいニーズは「三密回避」だと断言されている。
例えば今まで目玉だったビュッフェのようなサービスは、三密回避の視点からはむしろ求められない。それに代替する「部屋へのテイクアウト」などは、むしろ理解され求められると。こうした星野社長の視点や分析はさすがの説得力で、ここを起点として更に考えてみたい。

マイクロツーリズムで求められるのは何か

コロナショックで変化した日常。そこに発生した新たなストレスが、感染への不安が常態化することだろう。星野社長が指摘している、観光客が求める新たなニーズ「三密回避ニーズ」は、正にこれに対応するものだ。「日頃から心の負担となっている感染の不安から、一時でもいいから逃れたい。」このニーズを満たす観光とは、どんなものだろうか。

まずは、今までの至れり尽くせりの接客サービスへのニーズも変化するだろう。星野社長もおっしゃっているように、できれば家族やグループなど「自分たちだけ」でゆっくりしたい。他の観光客やスタッフとの接触時間も減らしたというニーズに対応するサービスが増えるだろう。そしてそれは、工夫次第ではむしろ事業者側にも人件費などのコスト減につながる可能性がある。

施設面でいうと、いわゆる「借り上げ別荘」や「コンドミニアム」のような施設が好まれるかもしれない。
例えば、弊社が関わりの深い瀬戸内地域でいうと、せとうちDMOが開発・運営に関わる広島・庄原市にある古民家宿泊施設などは、言ってみれば日本一”密ではない”環境といっても過言ではないくらいの人里離れた場所にある。自分たち以外「誰とも会わない」空間が、素晴らしい景色の中に広がっているのだ。

また、いわゆる民泊などにもそういうニーズに応える施設が数多くある。例えばこちらの尾道市にあるCieraも、以前から短期の貸別荘のように利用する旅行者に人気があるという。こちらも「密」の「み」の字も無い環境が楽しめる。

こうした施設は、今まではどちらかというと大々的なプロモーションなどが難しく、多くの顧客に知られるというよりは、「知る人ぞ知る」ものが多かった。アフターコロナ時代には、こうしたスタイルの宿泊施設が今まで以上に求められるようになるかもしれない。

こうした「三密回避ニーズ」を満たす顧客に提供するサービスとして更に求められるのは、今まで気づかなかった地域の魅力に触れてもらうことだろう。やはり「食」がその代表的なものだ。例えば、こうした施設に、地元ならではの食材をふんだんに使った鍋やバーベキューセットがセットになっていたら、これはもうオプションとして非常に魅力的だろう。少々値段がはっても、利用する客は少なくないのではないか。願わくば、その魅力をしっかりと説明し理解してもらう手段があれば理想的だ。以前であればそれをスタッフが料理の提供時に説明していたのだろうが、それをメニューに詳しく書くのか、また動画などで分かりやすく見せるのか、様々に工夫する余地はありそうだ。

交流人口を関係人口に近づける必要性

[総務省が示す関係人口の概念図: 【コラム】関係人口とはより]

前述のようなニーズに対応する観光サービスの姿を想像すると、今までと大きく変わっている面に気づく。
これまで観光客に求められていたのは主に「非日常」だった。つまり日常では体験できない感覚や雰囲気をいかに味わえるかが、正に旅の醍醐味だったのだ。しかしアフターコロナ時代の観光に求められるのは、むしろ「異日常(いにちじょう)」と言うべきだろう。かつてなくストレスフルになった日常とは異なる、感染への心配が無い日常が味わいたいのだ。例えば旅先の特別な体験や景色などで「非日常」感に没入していても、一瞬でも「密」を感じてその不安が蘇れば台無しなのだ。この観光客の心理に対して、しばらくの間はかなり配慮が必要になるに違いない。
実は「異日常」を観光に取り入れる考えは、ここ数年あちこちで議論されてきた。というのも、サステイナブルな地域づくりの観点からみた観光のあるべき姿を求める動きが起点となって、一見客からリピート客重視に変化し、必然的に長期滞在でゆっくり楽しんでもらう観光モデルの模索が始まっていたからだ。これは正に、交流人口から関係人口へ重心を移すことと同義だと言える。アフターコロナ時代の観光は、観光客との関係性をより中長期的なものにしていくことが極めて重要になってくるのだ。

地域が一体となった観光対策


そうなると、観光産業自体がますます地域が一体となって取り組むべきものになってくるといえるだろう。
個々の観光施設や観光スポットだけの視点で顧客を捉えるのではなく、地域全体が「顧客思考」を持って面で対応することで、地域全体で迎える観光客を効果的に「関係人口化」することができる。
時間とともに感染の拡大はある程度収束し、それほど遠くない時期に緊急事態宣言の解除が行われるだろう。
それと同時に、観光業や飲食業など強烈なダメージを受けた業界に対し、国を上げた復興支援策が動き始めるだろう。観光需要喚起を目的とした「Go Toキャンペーン」と言われる事業に約1.7兆円もの予算を投じるという報道もされている。こうした事業に対しての期待は大きい。ただ、それを一時的な需要喚起だけに終わらせず、こうした対策を機会に来訪した観光客に対して、できれば地域の側で何かその「関係性」をつなぎとめる施策を講じたいものだ。具体的にどういう施策かは一概には言い難い。おそらくポイントは、単なる「お客様扱い」だけに終わらせず、何かしらその地域への「関わる」ための余地・余白を提供することだろう。地域側の活動やアイデア、場合によってはその苦労や紆余曲折を見せてもいいのかもしれない。旅行先として来訪した地域に、もしかしたら「自分も関われるかもしれない」と思わせられたら、しめたものだ。そうした施策を考えている地域は、確実に存在する。
厳しい状況は続くだろう。しかし一つだけ言えるのは、「観光・旅行」は決して無くなりはしないということだ。これは自論でもあるが、「食欲」などと同様に「旅欲」も人間の根本的な欲求であるはずで、今まさに私達はその渇望を強烈に感じている。それを本質的に突き詰めるための変化が、コロナショックによって極端に短時間で起こっているとも言える。激しすぎる変化は辛いのはもちろんだが、ここ数年各地で議論されてきたことを早急に実現するのだと覚悟を決めると、また違った景色が見えてくるかもしれない。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。

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コロナショックの影響が特に深刻なのが、このインバウンド観光だろう。厳しい状況ではあるが、ここでくじけるわけにはいかない。末席ながらその一端に関わってきた者として、期待と希望も込めながら、アフターコロナのインバウンド観光ついて考えてみたい。