【特集の主旨】
緊急事態宣言が徐々に解除される中、地域別に出口の模索が続いている。”新しい生活様式”という言葉は飛び交うが、その実態をつかめているひとは多くはないだろう。そんな中でも、アフターコロナ時代の地方自治体や地域事業者がどう動くべきか、考え始めている人も少なくない。
様々に語られ始めている情報をできる限り重ね、私達の経験値や考え方も折込みながら、自治体や地域の事業者が考えるべき課題や取るべき戦略を、できる限り考察してみた。


私達はしばらくの間、コロナの感染リスクを常に想定しながら日常生活をおくり、仕事を進めざるをえない。
この状況はもちろん自治体も同じ。共通する課題は、いわゆる「3密」になりがちなオフィス出勤を避ける仕事の仕方だ。この対策として「テレワーク」が急速に普及しているが、仕事の種類や内容によって可不可はどうしてもでてくる。

一般的に、「自治体などの役所の仕事では、なかなか導入が難しいだろう」と思われている。恥ずかしながら自分もその感覚でいた。ところが、青森県むつ市ではなんと7割も出勤者を減らし、先進的な民間企業と同等かそれ以上の体制を目をみはるスピードで成し遂げている。これはいったいどのように実現したのだろうか?

その様子からは、地域がこれから対峙する壁を超えるためのヒントが見えてくる。

 (※前の記事「アフターコロナの地域戦略〜(3)インバウンドはいつどうやって戻ってくるのか?〜」はこちら。)

7割以上も出勤者を「普通に」減らした青森県むつ市の取り組み

この様子を発信していたのが、5月18日のNHKの朝のニュース「おはよう日本」。ご覧になった方も多いはずだ。

できることなら、NHKプラスという、今年度から始まったNHKの番組ネット配信サービスを是非ご覧頂きたい。(5/25月 午前7:45までこの動画が見逃し配信されている)

(※少しだけ余談だが、このNHKプラスは本当におすすめだ。受信料支払いを確認するためIDを取得する手続きが少し手間ではあるが、それを遥かに超えるメリットがある。放送中の番組はもちろん、過去1週間分の総合とEテレの番組を、PCやスマホから時間と場所を問わず見られるからだ。手続き等の詳細は是非こちらを参照していただきたい。)

その中で語られていた「むつ市」の活動は、実は特別な方法ではなく、なんとも”普通”だったのが逆に興味深い。

まずはテレワークができる部署と仕事を洗い出す。会議は当然オンラインで行うようにする。そして同時に、テレワークの障害となることも整理している。典型的なのが「押印」だ。最近巷で盛り上がったハンコ問題は、お役所的な仕事の象徴として捉えられている。とはいえ役所側にとっては、現状のルールや(おそらく)法律的にもすぐに回避は難しいだろう。多くの自治体がここでひるんでいるかもしれないが、むつ市は違った。書類の共有と実質的な承認手続きはオンラインのツールで行い、週に一回まとめて押印をするという、まさに「コロンブスの卵」ともいうべき方法をとったのだ。

壁を超えて見える世界

当事者の職員の方々の様子も同時に紹介されていた。
下北半島に位置するむつ市は下北ジオパークでも有名。その研究員の方は、集中できる環境をつくれば自宅でのテレワークのほうがむしろ仕事ははかどるとおっしゃいていた。また課長以上の管理職はそれでもやはりオフィス勤務が中心。そのため時差出勤をし、自宅で勤務する職員のハブとなって全体の仕事の効率化を進める役割を担っている様子だった。そうして静かに改革を進める皆さんの表情は、自信に満ちているように見えた。

大前提として、機密性の高い情報や個人情報など役所が保有する重要情報は、自宅に持ち込んだり、従来のセキュリティレベルを下げるようなことは全くしていない。既存の仕組みが、テレワークの推進を必ずしも阻害しないことを見事に証明している。出勤すべきタイミングを必要な時だけに集約してその頻度を下げることで、十分対応可能なのだ。

青森県むつ市は人口6万人弱。他の地方と同じように過疎化・高齢化に悩んでいるはずだ。しかも「市」なので、庁舎の様子からも一定の規模の人数が働いているはず。同時に決して人員的な余裕があるということもないだろう。それなのに、この短期間でここまで見事に対応できているのだ。

若い「リーダーシップ」が成し遂げること

このニュースの最後に、むつ市の宮下市長が登場する。43歳..若い。
市長はその甘いマスクでこう語っていた。

「職員をテレワークにすることで、一部の庁舎内のサービスでお待たせする時間が増えるなど、ご迷惑をおかけしている部分はある。しかし市民の皆さんにはご理解頂いていると思う。
「とにかく庁舎が感染源になるわけにはいかないし、その対応にはスピードが求められている。時間がない中で、まずはやってみることが重要。」

その言葉には説得力があり、本質的で、それをやり遂げるための意志とリーダーシップに満ち溢れている。その行動力とそれを実行する職員の皆さんの努力が、従来の「お役所」イメージを超えることを実現しているのだ。

やれることからやる組織が生き残る

そ-
想像を超える変化の中で、日本各地で様々な試行錯誤が行われている。悩んでいるのは、当然自治体だけではなく、民間も同じだ。
同じような条件の中でも、できる・できない、やれる・やれないの「差」が生まれている。残酷なのは、こうした非常時ではその「差」が、今後の組織の死活問題につながりかねないということだ。
この「差」がどこから生まれるのかは明確だ。それはこの「むつ市」の例からもわかるように、なにか特別な方法やアイデア以前に、とにかく「やれることをやる」というシンプルな姿勢が、全ての起点なのだ。
「常識に縛られない」というのは言うのは簡単だ。しかしどんなに小さな常識でも、一歩踏み出してそれを超えるというのは、誰にとっても負荷のかかることだ。しかし今こうした事態の真っ只中にいる私達は、その勇気をどれだけ持てるかを試されている。そこから目をそらさないことが本当に重要だということを、むつ市の皆さんから改めて学んだ気がした。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。

次に読んでいただきたい記事はこちら↓

アフターコロナ時代は、明らかに「リアル」だけに依存するのは困難になるだろう。第二波、第三波という短期的な懸念ももちろんだが、この機にオンライン化を一気に加速し、競争力を高める同業他社が増えるのは目に見えているからだ。民間事業者はもちろん、地域や自治体にとっても同じことが言える。