A級グルメの町として知られる島根県邑南町。「A級グルメ」とは、食材と食文化が豊かな邑南町が主導し、地域の食を地域外(都市部)で販売するのではなく、地域に訪れてもらい食を体験してもらおうという構想です。

「ここにしかない、ここでしか味わえない」魅力的な食体験を中心におこなわれるまちづくりとして、全国からも注目される取り組みのひとつとなっています。

そんな邑南町に、新しい食の名物が誕生しました。

よしもと住みます芸人と地元企業のコラボで生まれた「食べる醤油」

今回発表されたのは、食べる醤油「おおなんの宝」。醤油ともろみそをベースにした「食べる醤油」で、ごはん、野菜、お肉と、何にでも合うことが魅力です。

商品開発を主導したのは邑南町に在住の「島根県住みます芸人」の奥村隼也さん。よしもと住みます芸人とは、お笑いを中心に日本のエンタメを牽引する吉本興業の取り組みのひとつで、2011年から実施されている地域密着型のプロジェクトです(*後述)。

エリアによって様々な密着のかたちをとっており、島根県の住みます芸人のひとりである奥村さんは、邑南町の地域おこし協力隊というかたちで着任しています。

邑南町のA級食材がふんだんに使われた逸品

今回完成した食べる醤油「おおなんの宝」は、邑南町の老舗醤油店 垣崎(かきざき)醤油店の木桶を使い1年半かけて醸造された醤油をベースに、「石見(いわみ)和牛」と「石見ポーク」の2種類の製品が開発されました。

主食材の牛・豚共に、邑南町が全国に誇るブランド肉です。その他にも、しいたけやにんにく等、邑南町産のこだわりの素材を用いて、まさに邑南町の宝を詰め込んだ逸品となっています。

地域おこし協力隊だからできたこと。商品開発から物販へ

今回の異色コラボレーションは、芸人である前に、調理人として10年の経験がある奥村さんが地域おこし協力隊として着任した際に、垣崎醤油店より、なにか一緒にできないかという打診があったのが始まりだそう。

その後、商品開発のプロジェクトが立ち上がり、両者だけでなく、地元生産者や地元レストランを巻き込みながら、町の新しい名物を作るプロジェクトへと発展していきました。

地域おこし協力隊というメリットを活かし、コラボレーションの輪がどんどん広がり、その結果、全国に自信をもって発信できる商品開発につながった事例だといえます。一企業とのコラボから、町全体へのコラボへという流れは、今後も広く期待されるかたちでしょう。

9月からは一般販売が予定されており、地元商店の他、ネット販売はふるさと納税の返礼品として採用されるそうです。

島根県邑南町発「にっぽんA級グルメの町連合」が目指す新しい地域産業作り

邑南町が取り組んできた<地域の「食」を通じて地域の誇りを掘り起こす「A級グルメ」構想。>は、「にっぽんA級グルメのまち連合」として、現在日本各地の5自治体に広がっています。

ノウハウの相互移転・共有を通じたまちづくりのかたちとしても注目されるA級グルメ構想ですが、今回の「住みます芸人×地域おこし協力隊×地元企業×町」というコラボレーションのモデルも、今後他地域での展開に期待がもてます。

合わせて注目したいのは、情報発信の手段が豊かになっていることです。2015年以降、さらにスマートフォンが普及し、通信環境も整備された結果、月間動画視聴時間は5年間で約4倍にも成長しています。中でも注目したいのはYouTube。従来動画で情報を届けるというところには、様々な制約がありましたが、今や普通にある機材を用いて、独創的なコンテンツを準備し、魅力的なプレゼンテーションを行う環境が整っています。

今回取り上げた「島根県住みます芸人」の奥村隼也さんもYouTubeチャンネルを開設し、芸人という強みを活かし、情報発信をおこなっています。

今までは、素材の魅力発信、商品開発、新商品の情報発信として、それぞれが独立しておこなわれていたことが、動画メディアを通じて一気通貫にできるようになってきたといえるでしょう。

従来より注目されてきた、地元の資源に新しい視点を交えながら、新しい商品開発を通じた地域の魅力発信のモデルに加えて、地元からのダイレクトな情報発信チャンネルを強化するという連携が実現しています。今後、このかたちを参考にした取り組みが増えていくことが期待されます。

よしもと住みます芸人とは?

「あなたの街に“住みます”プロジェクト」により、各地域に赴任する芸人を指す名称。このプロジェクトは、吉本興業が「地域密着型プロジェクト」として、2011年4月より開始した取り組みで、よしもと所属の芸人を全国47都道府県に派遣しているもの。

「観光名所・特産品のPR」や、地域のイベントの盛り上げ役として期待され、様々なメンバーが活動をおこなっている。邑南町のように、地元企業とコラボレーションしたり、自治体と共にイベントを企画するといった展開も見られ、地方を盛り上げる活動のひとつとして注目されている。