「地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋」、第二回は、広島県の湯﨑英彦知事です。
通産官僚、ITベンチャーの起業家を経て広島県知事という異色の経歴で、就任以来、アグレッシブな試みを次々と実行されてきました。広島県の目指す新しい地域戦略をテーマにしたネイティブ代表・倉重によるインタビュー記事を、3回に分けてお送りします。
1回目は、コロナによって起こった変革について湯﨑知事の捉え方をうかがいました。

コロナによっておこった変革をどう捉えるか?

倉重:まだまだコロナ禍の最中ではありますが、一方で広島県や瀬戸内地域は、感染者とか死亡者が、もちろん単なる数の比較の問題ではありませんが、さほど多くはなかったように思います。それを含めて、現時点で知事がこの大禍をどのように受け止められていらっしゃるかっていうのをまずうかがいたいと思います。

湯﨑:はい、もちろんコロナっていうのはですね、まずはやっぱり健康に対する脅威でありますから、保健的な観点から言うと、これはよく比較されますけれども100年前のスペイン風邪に匹敵する、100年に一度の大災禍であるっていうことは間違いないですね。

倉重:そうですね。

湯﨑:これがやはりそういう性質からくる経済的・産業的なインパクトっていうのは非常に大きいものがあると思うんです。社会的なインパクトという観点から言うと、これもまたよく言われていることですけども、おそらく本来進んでいたさまざまな社会的、技術的変化を、コロナが大きく加速させたと思います。そしてその加速の原動力っていうのは、人々の「気づき」なんだと思うんですね。

倉重:なるほど。「気づき」ですか。

湯﨑:はい。どういうことに気づいたかというと、今のこのデジタルの時代に、それこそ人と会うことの意味がどういうことなのかとか、オフィスで働くっていうことがどういう意味なのかということ。もちろんそれが必要な面もあるし必要じゃない面もあるけど、そのあたりに大きな気付きがあったと思うんですね。

倉重:確かにそうですね。

湯﨑:考えていけば、何もかも東京にないといけない「東京一極集中」ってどうなんだとか…。

倉重:まさにそうです。

湯﨑:今までは、ある意味「密」を作ることによって生産性を上げていこうとか、生産性を上げるために「密」やむなしと思ってやってきたことが、本当にそうなのか、本当は要らなかったんじゃないかとか。

倉重:うん、うん。

湯﨑:そういう考えでやってきて、企業や組織に発生するオフィス賃料などのコストだけじゃなく、個人にも長い通勤時間などのしわ寄せを生んできたとも言えますよね。

倉重:そうですね…。

湯﨑:それが今のような状況で一度「本当に会わなきゃできないのか?」みたいなところが疑問として出てくると、そもそもそういったいわば外部不経済みたいなものについて気づきが出てきた。それによって、もっとデジタルを活用しようとか、あるいはちょっと郊外に住もうとか、それこそ会社ごと東京から移転しちゃおうとか、そういった動きに急速につながりつつあるのかな、というふうに思います。

倉重:お聞きするところでは、知事との会議は県庁内の職員の方との間ですら、かなりオンラインになったそうですが、本当ですか?

湯﨑:いや、もうまさにそのとおりです。そもそもオフィスに来ていてもいちいち集まらなくてもいいじゃないか、自分の机からやればいいんじゃないか、っていうことになって、(会議室の)打ち合わせはたぶん、8割から9割はなくなりましたよ。

倉重:そんなに!すごいですね…

湯﨑:だから僕はますますここから動かなくなっちゃった(笑)

倉重:そうですか(笑) それはでもまさにイノベーションというか、大変革ですよね。

湯﨑:そうですね。それと実は広島県では、これたまたまなんですけど、コロナ前からモバイル化を進めようとしていました。我々は「どこでもワーク」って言っているんですけども、広島県ではそもそも、どこでだって仕事していいじゃないかと、家であろうが出張先であろうが。出張に行ったら報告のために県庁に帰ってこなきゃいけない、そのために1時間運転して戻りますみたいな、そんなのやめちゃえっていう。

倉重:コロナ前からですか?

湯﨑:はい。今年に入ってからは全員ノートパソコンで、外からでも全く同じ環境を作るっていうことを、もちろんセキュリティを担保してやっていたんです。そうしたらそこにコロナが来た。

倉重:そうなんですね。じゃあ先行してたんですね。

湯﨑:そうなんです。だからコロナの影響というよりは、それを進めている矢先にコロナが来たっていう。

倉重:すごいタイミングですね。

湯﨑:すごいタイミング。さすがにまさかオフィスの中でも同じようにやるということは想定してなかったですけど、庁内だってやっぱり集まると密になるでしょう?

倉重:そうですよね。

湯﨑:だから、密になるくらいなら、それぞれの自分の机からやろうよっていう方針にしました。

倉重:我々も広島県をはじめ、様々な自治体の方とお仕事することがずっとやっぱり多くて、このコロナ禍を境にあっという間に「オンライン会議」になりました。こうなると本当にミーティングがすごく入れやすくなります。日本のどこの地域の方ともすぐにお話ができるし、オンラインセミナーを開催しても全国の自治体の方に集まっていただけるんで、本当にすごい変化だなと。10年くらいタイムスリップしたみたいな、そんな感覚すら持ちます。

湯﨑:お互いがものすごく大きな移動コストを払っていたわけですよね、時間的にも、お金的にも。それを全部とっぱらうことができるっていう。

倉重:本当にそうですよね。

湯﨑:もちろん、最終的にはやっぱりお会いしてっていうのはもちろん大事だと思うんですけれど、そのプロセスで全部行かなきゃいけないかっていうとそういうわけではないですから。本当に必要なものを絞り込める。

倉重:そう思います。

起業の経験からくる働き方への感覚

倉重:先ほど「コロナの前から始めていた矢先に」というお話があったんですが、湯﨑知事は通産省の官僚からキャリアスタートされて、その後ITベンチャーを起業し上場まで行かれて、そして知事になられるっていう、もう本当にかなり特別なキャリアを歩まれているんですけど、やはりそうしたご経験が、こうした変化を先読みするのに役立っていたということはありますか?

湯﨑:そうですね、ITベンチャーの起業についてはまさに「通信業」だったので、もともとそういうことを推進していたということはありますね。

倉重:あーそうですね!まさにど真ん中ですね。

湯﨑:でもそれと別に、リアルな体験としてはアメリカでの経験ですかね。1998年から2000年ぐらいまでシリコンバレーで仕事をしていて、そのときはまだ今のようなテクノロジーはないんですけども、アメリカの企業の中ではすでに電話でリモート会議をしていたんですよ。

倉重:はい、はい。

湯﨑:アメリカってやっぱりすごく広いので、そもそも物理的な移動が、日本ほどは無理なんですよね。

倉重:そうですね、なるほど。

湯﨑:それが前提になっていて、チームで私は日本にいるけど、チームのメンバーはシリコンバレーとニューヨークとポートランドでみたいな、そんな環境で働いているので、これはいずれ日本もそうなるんだろうな、というか、もうそうしないと生産性が上がっていかないんじゃないか、っていうのは実感としてありましたね。

倉重:ありましたね、テレカン専用の平たいスピーカーみたいなのが…。

湯﨑:ポリコムです。

倉重:あ、ポリコム!そうだそうだ、思い出しました。

湯﨑:みんな使ってたじゃないですか。

倉重:前職の会社にもありました。懐かしいですね…。そして今はこうやってオンラインでインタビューできるぐらいになっているという….。すごいことですよね。

ビジネスの変革、そしてデジタル・トランスフォーメーション化に向けて行政が果たす役割

倉重:コロナ禍によってそういう動きが加速する中で、いよいよ国レベルでも「デジタル庁」の創設などが急ぐべきという議論もされています。ああいった国の動きについては、知事はどのようにご覧になっていますか?

湯﨑:もちろん推進力になってほしいなと思いますね。例えば行政のDXとか行政のデジタル化ということを考えたときに、まずは、システムにかかるコストを下げていく必要がありますよね。

倉重:はい。

湯﨑:自治体には似たような業務プロセスがたくさんありますから共通化する余地はたくさんあるはずですが、今まではなかなか進まなかったところがありました。それぞれの自治体がプライドを持ってやっていたということもありますからね。

こういう部分については、やはり国のレベルで方向性を出していただければ、進んでいくと思います。

倉重:はいはい。

湯﨑:例えばですが、まだまだクラウド化への抵抗感があるところもありますけど、それを「原則クラウド化にします」みたいな方針を国全体で、地方も含めてやるっていうことになると、そうしたシステムの効率化が進んで、それによって生まれてくる余分の資源、これは人的資源も資金的資源もですね、これを新しいDX(デジタル・トランスフォーメーション)を追求するためにつぎ込めるようになる。国政がそんな役割を果たしていただくっていうのをすごく期待しています。

倉重:なるほど!

湯﨑:もちろん民間DXを進めていくというところでは、経営者の意識転換も非常に重要です。特に中小企業ですよね。

倉重:はい。そこも本当に重要ですね。

湯﨑:そういったことをデジタル庁が旗を振ってやっていただけると、我々も進めやすくなるかなと思いますね。

倉重:国レベルでそういうインフラとか機運みたいなのをきちっと作れると、その上で各自治体がいろいろまた独自のこともやっていきやすくなるということですよね。

湯﨑:そうですね。はい。

倉重:湯﨑知事は、今まさに話題になっていますが、広島県独自の画期的な取り組みを数々実行されています。そういったお話についてもうかがいたいと思います。

第二回はこちら
広島県が目指すアフターコロナの地域戦略 〜広島県 湯﨑英彦知事(2)【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

第三回はこちら
広島県が目指すアフターコロナの地域戦略 〜広島県 湯﨑英彦知事(3)【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

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広島県知事 湯﨑 英彦(ゆざき ひでひこ)
広島県出身。東京大学法学部を卒業後、通産省(現経済産業省)に入省。株式会社アッカ・ネットワークスを設立、代表取締役副社長を務めた後、2009年に広島県知事に就任、その後3選を果たす。

【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。