1)考え方を変える〜旧来の枠組みによる思考からの脱却〜

還暦でライフネット生命を創業し、2018年1月より立命館アジア太平洋大学(APU)の学長を務めている出口治明さん。新著『還暦からの底力〜歴史・人・旅に学ぶ生き方』は、自身初の人生指南の著書として、年齢にとらわれず考えるべき前向きでアグレッシブな内容で共感を呼び、ベストセラーとなっています。

人生100年時代、そしてコロナの時代に、私たちはどのような考え方で進めばいいか。「アフターコロナの時代に変わるべき考え方」をテーマに、大学と、そして地方のあるべき方向性について行われた、ネイティブ株式会社代表・倉重との対談を、3回に分けてお送りします。第1回は、旧来の枠組みにとらわれない考え方について。

「年齢性別フリー」が、これからのあたりまえに

倉重:還暦からの底力〜歴史・人・旅に学ぶ生き方』が大変な反響を呼んでいますね。私も拝読しまして、大変感銘を受けました。何冊も著書を読ませていただいている“出口フリーク”の私にとっては、まるでベストアルバムのような本でして…(笑)

出口:(笑)読んでいただきありがとうございます。

倉重:「還暦」というタイトルですが、「還暦になったらどうしろ」ということは全く書いてなくて、むしろ「年齢は関係ない!」というメッセージがそこかしこにあって…。
そういうふうに受け取ったんですが、間違ってないですか?

出口:それでいいんじゃないでしょうか。
僕は「年齢・性別フリー」ということをいつも申し上げています。

倉重:なるほど。

出口:この本はご存知ですか?面白い本です。
「炎上CMでよみとくジェンダー論」 瀬地山 角 (著)


炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)
倉重:いや、まだ拝読していないです。最近の本なんですね。

出口:はい。この本ですごく面白い指摘があります。

倉重:はい。

出口:「男と女は違うけど平等」というような、いわゆる「異質平等論」は良くない、と書いているんです。

倉重:というと…?

出口:これは、人々の多様性を男と女という2つの箱に押し込めようとする、抑圧的な発想に直結すると。

倉重:ああ!そういうことですか。

出口:だから「男と女は違うけど平等」という考え方は、俗に言う「男らしさ」や「女らしさ」を許容してしまっているんですよ。

倉重:なるほど、なるほど。

出口:そうじゃなくて、人間はぜんぶ違うわけだから、個人差は、性差を必ず超えるということが大前提じゃなきゃいけない。
これは年齢についても言えるんです。個人差は、年齢差を必ず超えるわけですよ。
だから、「異質平等論」のような考え方は、実は間違っているんですよね。

倉重:「男女」とか「年齢」とか言った瞬間に、枠にはめちゃってる、ってことですね。

出口:そうです、高齢者とか男性・女性という「箱」に押し込めている。
特に、この「男性と女性は違うけど平等」という考え方だと、LGBTの生きる余地がなくなります。

倉重:うん、うん、うん。そうですね。

出口:このことで、「異質平等論」が、すごく歪んだ考えであるということがよくわかりますよ。

倉重:なるほど。おっしゃるとおり、LGBTという言葉が一般的になって、生きにくい人がこんなにたくさんいたんだなというのが、我々もごく最近になって気づいたというか。ここ数年特にそうなんじゃないかと思うんですけれども。

出口:Googleのような先進的な企業は、採用のときの必須情報は3つだけなんです。

倉重:そうなんですか。なんでしょう?

出口:「今何をしているんや」「過去何やってきたんや」「これから何したいんや」。

倉重:なるほど!(笑)

出口:国籍も年齢も性別も顔写真も要らない。そういうものは全部余計なバイアスだということがわかりますよね。

倉重:わかります、すごくわかります。

出口:「男と女」とか「高齢者と若者」とか、そういう枠組みを捨てなきゃだめです。

倉重:今、出口さんがいらっしゃるAPUは、まさにそんな雰囲気なのかなと想像します。

出口:APUは、学生が約6000人でそのうち半分が外国人留学生。90以上の国や地域から来ています。地球の縮図みたいですよね。

倉重:すごいですね…。著書の話に戻らせていただくと、年齢関係なくと言いつつ「還暦から」と書いてあることが逆説的というか、「還暦とは生まれ変わること」と書かれているので、人間はいつでも生まれ変われる、スタートできるというメッセージを受け取ったものですから、まだ年齢に私がこだわっているのかもしれないですけど、「若い人に読んでもらいたいな」と思って、「30−40代が読むべき本だ」という記事を書いてしまったんですけど。

出口:はい、どうぞどうぞ。(笑)

アフターコロナの時代において、考えるべきこと

倉重:今回、いろいろとおうかがいしたいことがあって、順番におうかがいしていきたいんでが、はじめに出口さんのお考えを聞きたいのが、今回のコロナです。
「コロナが人類の歴史にどう影響するのか」という点を、歴史家でもいらっしゃる出口さんに、大局観でどのように位置づけていらっしゃるか、お聞きしたいと思っていました。

出口:コロナは自然現象ですよね。

倉重:はい。そうですね。

出口:あたりまえですが、ウイルスは何十億年も地球に住んでいる。たかだか20万年しか住んでいないホモサピエンスに比べれば、大先輩です。

倉重:確かに。

出口:普段は森の奥に住んでいるんですが、何かのはずみで人間に会えば、パンデミックは必ず起こります。100年に1回くらい、あるいは、50年に1回くらい。

倉重:はい。

出口:新しいウイルスなので、薬やワクチンができるまではステイホーム以外の方法はないわけです。

倉重:そうですね。

出口:下火になれば、「ニューノーマル」といって、手洗い・マスク・ソーシャルディスタンシングを守って町に出ていく。また蔓延すれば、「ステイホーム」に戻る。
だから、ウィズコロナの時代は、ステイホームとニューノーマルを行ったり来たりする以外の方法はないと思ってます。

倉重:なるほど。

出口:アフターコロナになれば、ワクチンや薬ができれば、コロナはインフルエンザ並みの感染症になるわけです。ニューノーマルは必要ありません。

倉重:うん、うん。

出口:だから、まずウィズコロナとアフターコロナで時間軸を分けて考えるということが、一番大事なポイントです。戦略が違うわけです。

倉重:なるほど。そこを整理しきれている人がどのくらいいるかということですね。

出口:はい。その一番の失敗が、「秋入学」(注:大学の入学時期を4月から9月に変更する試み)です。

倉重:この機会に変えるべきだという議論が巻き起こりましたね。

出口:このコロナの状況をいちばん不安に思っているのが、高校3年生です。

倉重:そうですね。ほんとに。

出口:せっかく知事会などで秋入学の機運が盛り上がったのだから、追加で「来年の秋入学を大学にやらせる」といえば済むわけです。2回受験のチャンスができるのだから。

倉重:うん、うん、うん、そうですね!

出口:APUは20年前からやってますけど、統一試験の結果を見て、春と秋の2回、大学が選抜すればいいだけです。これはほとんどコストをかけずにできます。

倉重:なるほど。

出口:文科省がやれと言えば、動かざるをえません。

倉重:はい。

出口:小学校から高校までは、来年は春入学は変えずに、まず大学だけ秋入学を足す。5年くらいかけて様子を見てから全体を考えますよと言えば、この問題は済むのではないでしょうか。

倉重:なるほど。

出口:時間軸を分けて考えることができないので、「小学校からぜんぶ一斉にやろう」と大がかりなことを考えたから、そんな大変なことはできへんということになって、「秋入学」という素晴らしいアイデアが、葬られてしまいました。

倉重:そもそも「秋入学」のもっとも大きなメリットは何でしょうか?

出口:僕は、「春入学」は制度的な拷問に近いと思っています、20年前から。
日本は18歳のときの入学試験が人生に大きな影響を与えるでしょう?

倉重:はい。

出口:「春入学」は、必然的に統一試験が1月末〜2月に行われる。厳寒期です。
倉重さんが受験生のお子さんを持っていらしたら、心配でしょう?

倉重:確かに、私自身の大学入試も2年連続大雪でした(笑)。大変でした。

出口:ですよね。何で18歳にそんな可哀想なことをやらせるのか。こういう議論こそが、本当にやらなければいけないこと。「時間軸を分けて考える」という当たり前のことを、誰も指摘しないので、ああいう結果になるわけです。それに春・秋の入学を導入することで企業の通年採用も取り組みやすくなります。

倉重:コロナの影響で今年の受験生はとても不安でしょうが、来年度に秋入学もあるとなれば、かえって2回受験のチャンスがあってラッキーと思えるかもしれないですね。

出口:そうですよ。2回入試があれば、コロナのことを心配しなくていいじゃないですか。こういう当たり前の発想ができないことが、この国が疲弊している証拠ですよね。

倉重:なるほど。本当にそうですね。

出口:もう一つ付け加えれば、アフターコロナの時代は元に戻るかといえば、戻らないと思います。

倉重:そうですか。それはどういった理由で?

出口:リモコン効果があるからです。

倉重:リモコン?

出口:テレビのリモコンはご存知ですよね。

倉重:はい、わかります。

出口:倉重さんはたぶん記憶にないと思いますが、僕の子供時代には、テレビにはチャンネルが付いていた。回していたんです。

倉重:ギリギリ記憶あります。回してました。

出口:リモコンがマーケットに出たときに、どんな議論が行われたかといえば「こんな横着なものは売れるはずがない」と。「手で回せばよいだけだ」と。

倉重:そうだったんですか!

出口:今はどうかといえば、リモコンのないテレビは無いです。

倉重:無いですねぇ。(笑)

出口:人間は横着なんで、一回便利になったものは戻らないんです。

倉重:たしかに。それは痛感します。

出口:だから、テレワークや、オンライン授業もそうですが、詰まるところ紙の追放ですよ。稟議とか典型ですよね。ハンコはなくなると思います。それから通勤時間も、当然必要なくなりますよね。

倉重:はい。

出口:オフィスの制約も同じです。僕の臆病な友人は、八ヶ岳の別荘から出てこないんだけれども、「仕事には困っていない」と言っています。

倉重:ははは。

出口:この3つの制約というのは、改革を生む可能性があるわけです。

倉重:それは我々も非常に痛感しています。今回一番驚いたのが、自治体の方との会議もオンラインになったことです。打ち合わせだけでなく、プレゼンもオンライン。まぁ将来そうなればいいなと思っていたんですが、10年くらいはかかるんじゃないかと。それが半年もたたず実現したので、本当に驚いています。

出口:僕は楽観的にみていますが、これからが勝負だと思っています。「必要条件」は生まれたわけです。ただ「十分条件」が生まれるかどうかが鍵を握っている。

倉重:はい。秋入学の件のようにならないようにということですね。

出口:社会のDX化、ITリテラシーが高まったと言っても、「世界から10周くらい遅れている日本が、5周遅れになったくらいで喜んでいてはダメだ」という厳しい意見はありますね。

倉重:はい、はい。

出口:大企業のトップでも自らテレワークして、「生産性が上がったんだからこれからはこれを標準にする!」と言っている人もいるわけです。でも逆に、古い会社では「トップが会社に出社しないと社員の士気があがらない」という人もいるわけです。

倉重:そうですね。

出口:こういう会社は、社員の7割はテレワークなのに、幹部は全員出社するわけです。社長がオフィスで陣頭指揮を取っていたら、社員は出ざるを得ないでしょう。

倉重:うん、うん。

出口:だからテレワークひとつにしても、どちらのタイプが多いかによって、本当に社会の改革につながる「必須条件」が揃うかどうかが決まるんです。

倉重:なるほど。

出口:コロナが自動的に社会を変えると思ってはだめです。「必要条件」を「十分条件」に転化するためには、我々自身がどういう社会を作りたいかを議論して、改革の方向に舵を切らなければ、油断していたら、元に戻る可能性も十分にあります。

倉重:確かにそうですね。

出口:それがやっぱり、「秋入学」の反省点です。

倉重:「秋入学」は、もう可能性は全く無くなったんですか?

出口:今からでも、新しい総理が高3生のことを考えて秋入学をやらせると言えば、すぐに実現できると思っています。

倉重:そうですよね。私も本当に同感で「秋入学」は企業の新卒一括採用を一気に変える可能性があると思います。

出口:でも、経団連の会長はそれで良いと言ってるんですよ。

倉重:新卒一括採用こそ、日本の起業の多様性の無さを生み出す元凶の一つじゃないかと思います。

出口:経団連すら「秋入学への移行を支持する」と言っているのに、これはやっぱりリーダーの見識や、メディアの発想の貧困さですよね。「時間軸で分けて考えましょう」と、その一言をなぜ誰も指摘しないのか、という話です。

倉重:わかります。すごく共感します。まさにピンチはチャンスなんだけど、本当に変革を推し進めるのは、コロナじゃなくて我々自身ということですね。

次に、出口さんならではの、起業家目線での大学運営について、少し聞かせてください。

→次回は、「教育を変える〜地域における大学のミッションとAPUの取り組み〜」です。
第二回はこちら
アフターコロナの日本の“出口”戦略 〜立命館アジア太平洋大学 学長 出口治明さん(2)【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

第三回はこちら
アフターコロナの日本の“出口”戦略 〜立命館アジア太平洋大学 学長 出口治明さん(3)【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

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立命館アジア太平洋大学 学長 出口治明(でぐちはるあき)
京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相互会社を経て2006年にネットライフ企画株式会社(現ライフネット生命保険株式会社)を設立。2017年会長職を退任。2018年より立命館アジア太平洋大学 学長を務める。
近著に、「還暦からの底力〜歴史・人・旅に学ぶ生き方」など多数。
twitter:@p_hal

【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。