「地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋」、第二回は、広島県の湯﨑英彦知事です。
通産官僚、ITベンチャーの起業家を経て広島県知事という異色の経歴で、就任以来、アグレッシブな試みを次々と実行されてきました。広島県の目指す新しい地域戦略をテーマにしたネイティブ代表・倉重によるインタビュー記事を、3回に分けてお送りします。
2回目の今回は、広島県が次々と打ち出している新しい施策と、それらが生まれた背景についておうかがいしました。

第一回はこちら
広島県が目指すアフターコロナの地域戦略 〜広島県 湯﨑英彦知事(1)〜

湯﨑イズムが反映した、広島県ならではの事業とその背景

倉重:ITベンチャーの起業家でもあった湯﨑知事ならではの発想ではと思ったのが、例えば、広島県でやられているIT企業向けの取り組み、「ひろしまサンドボックス」(注:最新テクノロジーを活用し、様々な産業・地域課題の解決に向けて共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場)があります。

湯﨑:はい。

倉重:最初にうかがったときにすごく驚いたのですが、「サンドボックス」というのは、なかなか一般には使わない言葉ですよね。セキュリティや試行錯誤を目的としたサーバー上などに構築した特殊なテスト環境を表すような、ITの専門用語だと思うんですけど、これが自治体の施策名に使われるのは聞いたことがありません。非常に驚きましたし、すごい先進的だなと。

湯﨑:そうですか(笑)。

倉重:しかも、「いろいろチャレンジしていいよ、失敗していいよ」っていう発想自体が、自治体のプロジェクトとしては非常に珍しいですよね。一般的な公共の仕事は真逆で、失敗なんて絶対にできないというものがほとんどです。こういった形で県外・国外を含めたIT企業を引きつけようとしていることが、かなりユニークだと思ったんですけれども、このプロジェクトはどういう意図で立ち上げられたんですか?

湯﨑:そうですね、やっぱり広島はIT集積っていうのが不十分だなっていう思いがあって…。もともと広島はやはり「モノづくり」が非常に強いので、そこにITを積み上げていく必要があると思ったんです。これはなかなか簡単ではないんですが、IoTとか5Gとか、特にAIが普及してきてからですかね。デジタルの付加価値が非常に高くなっていって、ただ単に「モノづくり」だけをしていても、デジタルにバリューを取られてしまう、抜かれちゃうと。
ならば、ITを外から広島に集積してもっと高めていかなきゃいけないと戦略転換したんです。そしてそのときに、デジタルの人たちってどんなことを喜ぶんだろうと考えた。来てもらうためにはデジタルの人たちが喜ぶことをやらないと。関心を持ってくれない。

倉重:なるほど…。

湯﨑:IT業界の人たちは、自由に動きたいとか、何か面白いことをやりたいとか、何かワクワクすることをやりたいっていう思いがやっぱり強い人たちなので。

倉重:そうですよね(笑)

湯﨑:それをどう実現すべきかを考えていって、あの「ひろしまサンドボックス」事業ができたんです。

倉重:それがやっぱり発想としてはすごいです。公共の事業としては本当に画期的ですし、思った以上に希望する企業もたくさん集まっているとうかがいました。次のフェーズも既に募集されているそうですね。しかも3年間で10億円という予算がまた思い切ったものですよね。

湯﨑:実は、企画の段階で最初に出てきた予算案は3億円ぐらいでした。

倉重:それでもすごいですね。(笑)

湯﨑:いや、でもこれはもう2桁ぐらいじゃないとインパクトがないんじゃないかと言って、10億にしようと。最初、テーマは何でもいいとしていたんですが、今は行政側から出したテーマを解決するプランや、あるいは企業側からの課題を解決する手段を提案してもらうといった、課題解決型のプロジェクトを増やしています。

倉重:そういう事業を進めながら、知事としては同じIT企業でも、特にどういう会社、どういう経営者に広島に集まってほしいというイメージはありますか?

湯﨑:これはですね、二つあるんですけども。

倉重:はいぜひ。

湯﨑:一つはやっぱり、広島県の特徴の「モノづくり」や「リアル」との融合ですね。この分野のDXっていうのはものすごく重要だと思います。特に日本は、今から純粋なデジタル分野で国際競争力を上げるのは、かなり大変ですよね。やはりシリコンバレーとかが相当先に進んでしまっているので。

倉重:たしかにそれはそうですね。

湯﨑:一方で、逆に今アメリカなどでは、デジタル分野からリアルの世界に入ってきています。Amazonがホールフーズを買収したのがその例ですよね。

倉重:はい、Amazon Goみたいな店舗をやったり。

湯﨑:そうそう。逆に日本はリアルが強いので、リアルからデジタルと組み合わせていく。最後は、モノって絶対必要なんですよね。

倉重:そうですよね。やっぱり。

湯﨑:一方で、モノづくりにおいては、最近は東南アジアや中国が発展してコストも高くなってきているという部分もあります。それをデジタルで効率化した上で国内生産に切り替えて競争力を引き続き保つことも考えられます。絶対なくならないものを強みとして持ちながら競争していく、そういう部分が、広島のこれまでの強みを活用できるという意味でも、非常に必要なことですね。

倉重:なるほど〜。

湯﨑:ただ、それだけだと分野も限られるし次への発展がないので、次世代のデジタルに特化した皆さんにも来ていただきたい。それがもう一つです。

倉重:なるほど…その二つが揃うと強いですね。

湯﨑:はい、そうです。そうすると、やっぱりみんな発想の転換も起きるので、デジタルのビジネスモデルを構築していく皆さん、デジタルのサプライヤーといいますか、そういった皆さんにもいっぱい来ていただきたいなと思います。

あの人から学んだ大胆な“ビジネススタイル”

倉重:そうした発想で進められている企業誘致の施策が、今回また最大で2億円のサポートって出されていて、これまたすごいなと思ったんですけど。

湯﨑:はい。

倉重:この間まで1億円だったのを、今回はなんと2億円!まるでテレビショッピングのような(笑)。ここまで思い切った施策を打ち出されたのは、どういうお考えなんでしょうか?

湯﨑:いや実は、正直言って、これを2億円にするというのは、僕は全く関与してないんですよ(笑)。

倉重:そうなんですか!

湯﨑:職員が、知らないところで勝手に作って勝手に提案してる(笑)。

倉重:そうなんですね。じゃあある意味、湯﨑知事が職員の方に乗り移ってる感じですね(笑)。

湯﨑:うん(笑)。サンドボックスと同じ発想だと思いますけど。

倉重:なるほど。

湯﨑:実はこれいろんなシーンで県庁職員には言ってきているんですけど…例えば広島県は、がん検診をすすめるキャンペーンって、デーモン閣下にやってもらってるんですよ。

倉重:はい、ポスターを拝見したことあります。

湯﨑:かなりインパクトがあるし、最初は「悪魔からこんなこと言われたくない」なんていうクレームがたくさん来たんですけど(笑)。結局インパクトっていうのはすごく大事でした。

倉重:そうですよね。がん検診やれば10万年生きられるかもしれないみたいな(笑)。

湯﨑:そうそう(笑)。それで、その源流はね、実は孫さんに学んだところがあるんです。

倉重:ソフトバンクの孫正義社長ですか?

湯﨑:アッカ・ネットワークス(注:湯﨑知事が創業した会社)をやっていたときには、我々が先行事業者で、Yahoo! BBが後発事業者だったんですよね。

倉重:そうでした。

湯﨑:そのときにソフトバンクがいきなり値段を半額にしてきて!それで、あのモデムを配りまくる“パラソル部隊”って覚えてますか?

倉重:あー!すごかったですね。はい、もちろん覚えてます。

湯﨑:リスクを考えると、普通はあんなことはやらないと思うんですけれど、孫さんは思い切ってやってきたんですよね。そしてその計算どおりに顧客を増やしていったんですよ。それを見て、やっぱり中途半端なことをやってはいけない、やるならやはり一定のインパクトをもってやりきらなきゃいけないって痛感したんです。

倉重:たしかにあれも世の中を変えた大きな施策でしたよね。わかりやすかったですし。

湯﨑:そう、わかりやすかった。

倉重:今回の施策もすごくわかりやすいなと思いました。企業誘致プランを紹介する新しいページも拝見したんですけど、すごくわかりやすいし、これもきっと大きな反響になると思いますが、それ以外にも今後注力されていこうと思っていらっしゃることがあったら、ぜひうかがいたいです。

湯﨑:そうですね。まさに今デジタルの皆さんに広島に集まっていただくとか、あるいはコロナを含む、現在の事態に対応していくためのニューノーマルな環境を整備する。これを、ビジネスモデル的にも技術的にも実現していかなければいけないので、またサンドボックスのような形で、賛同していただける企業をたくさん集めて、社会のいろんな面で実装できるようなものをどんどん作っていく、そんなことをやっていきたいと思っています。

倉重:広島県自体が、ある意味「サンドボックス」的な存在になるということでしょうか。

湯﨑:はい、そうですね。それから、もともと行政の考え方にも実は「規制」を特別に外して自由にするという「サンドボックス」がありまして…。

倉重:いわゆる「規制特区」ですね。

湯﨑:そうですね、今は「スーパーシティ」と言われている、更に強力なものもあります。こうした制度を活用したことも進められたら面白いなと思っています。

倉重:なるほどなるほど。知事のなかで、具体的にこういう分野のこういうテクノロジーで、こういうことをやれたらいいなというお考えはありますか?

湯﨑:そうですね、たとえばドローン。ドローンを活用したいろんなソリューションには、可能性を感じます。

倉重:特に広島は島が多いので、物流や医療分野に活用できそうですね。

湯﨑:そうですよね!

倉重:友人に聞いたんですが、中国の深圳市なんかでは、スピード違反すると警察のドローンが来て、写真を撮っていくらしいんです。それ見てびっくりしたと言ってて。

湯﨑:そうですか!(笑)

倉重:そのぐらい世界は進んでるんだなと痛感しました。こうした世界との差を縮めるためにはやはり人材育成が最も大事だと言われています。この点でも広島県は独自の取り組みをされていらっしゃいますね。湯﨑知事ご自身がどのように学ばれてきたかも含め、次はそのあたりについてもお聞きしたいと思います。

インタビューの第三回はこちら広島県が目指すアフターコロナの地域戦略 〜広島県 湯﨑英彦知事(3)]

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広島県知事 湯﨑 英彦(ゆざき ひでひこ)
広島県出身。東京大学法学部を卒業後、通産省(現経済産業省)に入省。株式会社アッカ・ネットワークスを設立、代表取締役副社長を務めた後、2009年に広島県知事に就任、その後3選を果たす。

【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。