コロナ禍において、働き方の変化が急速に広がっています。緊急事態宣言下で数多くの企業で実施された在宅や遠隔での働き方を意味するテレワークや、その発展版とも言えるワーケーションに注目が集まっています。

ワーケーションは、ワークとバケーションをつなげた造語で、観光地等で休暇とうまく組み合わせながら働くというスタイルを指します。IT企業を中心に広まっており、福利厚生や健康増進の面もあるなど、多様な魅力を備えています。

実際に、企業の対象者に向けてワーケーションの制度導入に興味があるかを訪ねたアンケートでは、「非常に興味がある」「少し興味がある」を合わせると50.4%となるなど、今後の継続的に注目されていきそうです。

ワーケーションを積極推奨。社員から喜ばれる制度設計

ワーケーションを社内制度とし、世間から注目されている企業のひとつが株式会社NAVICUSです。企業のコミュニケーション戦略設計を中心にマーケティング支援を手掛けるベンチャー企業で、社員のほぼ全員がリモートワーク。コロナ禍において働き方や制度を見直し、時代に適応させてきた先進企業だといえます。

「今スタッフが在住しているところでいえば、都心を離れて千葉の流山や、一番遠くで佐賀のメンバーもいますね」と笑うのは代表の武内一矢さん。

「”ワーケーションに許可がいる”ではなくて、どんどん積極的に推していくことが必要と考えたんです」と語るように、ナビカスはワーケーションを支援する補助制度も導入し、ワーケーションを取り巻く空気から変えようとしています。

取り組みの背景や、積極的に推奨してきた中で見えた課題を伺いました。

チームを良い状態にすることが仕事だから、まず自分たちが良い状態になるために導入

そもそものワーケーションを制度化するきっかけとはどのようなものだったのでしょうか。

ナビカスで導入している制度は、ワーケーション手当です。ワーケーションすると、会社から30,000円の支援が月1回まで受けられます。支援額は宿泊・交通費に充ててもOKというものです。

「チームを良い状態にする」というのが私たちの仕事なわけですが、まずは自分たちが良い状態になることが必要だと考えたんですね。

福利厚生を考えた際に、オフィス勤務者だけがうれしい制度をつくってもしょうがない。そこでリモートの人でも利益があるようにするにはどうすれば良いかを考えました。

(武内さん談)

2020年2月から全社リモートワーク体制になり、在宅勤務が続いているスタッフの様子を見る中で、いつもと違う環境でリフレッシュして働こうということで考え出されたのがこの制度。リモートワークを推奨する土台があったということが注目される点でしょう。

リモートワークの課題をコミュニケーションで解決する仕掛け作り

リモートワークは、既に数多くの課題が指摘されています。「オン・オフの切り替えがしづらい」や、「社員同士のコミュニケーションが減る」というのは、特に共有されている大きな課題ではないでしょうか。

ナビカスはこれらの課題を制度設計を通じて解決しているといいます。

リモートワークを推奨する中で、様々な工夫をしてきています。リモートワーク支援手当や、休憩のタイミングを合わす取り組み、チャットで雑談が生まれる工夫など、いろいろと取り組んでいます。

その中のひとつにワーケーションの推奨がありますね。

チームを良い状態にするということを目的に、社内制度やルールを設けることが手段にされているというわけです。その中心となっているのは、コミュニケーションのネタづくりだと、武内さんは指摘します。

社内の話題作りが大事だと考えています。コミュニケーションのネタづくりですね。ワーケーションの様子をツイッターに投稿したり、社内でも話題になったりするんです。そしてそれは外側にも広がっていきます。

波及効果も。コロナ禍で会社が発するメッセージ

社内で話題になっているできごとは、ワーケーションの様子がTwitter等で外部への発信が推奨されていることもあり、会社を超えて外側にも広がっていきます。それはそのまま会社のメッセージとしても受け取られていきます。

大きな企業が、前代未聞の社会状況への対応が問われている中にあって、「コロナ禍にあっても社員のプラスになっていることをやっている」という姿勢は、社会への企業姿勢そのものの発信となっているわけです。

会社のメンバーを通じた会社の様子の発信は、ブランディングはもとより、採用活動にもプラスにはたらいていくはずです。

実践してわかったワーケーション提供施設を見極めるポイントとは

2021年1月時点で、ナビカス社内のワーケーション実施事例は12件。ラグジュアリーホテルや、旅館、キャンプなどで実施されました。

ワーケーション経験者からは、通常の観光とは異なる選ぶ視点が明らかになってきたそうです。

通常の観光以上に、「懸念が払拭できること」が必要だと考えています。

ひとつは業務環境で、インターネット環境は当然だとして、気温だったり、騒音の程度だったりというのも重要な要素です。特に、社内会議とクライアント会議でも求められる環境が異なると考えていて、滞在先がどのレベルで対応できるかということが選ぶ上で重要だといえます。

その他に、目的地までの移動の長さも大きいです。新幹線移動などであれば自己作業にあてられますが、車を運転して行くという場合に、渋滞にはまって動けませんなどの場合は作業時間が大幅に限られることにもなってしまうため、そのあたりの線引が難しいなと考えています。

ワーケーションを推奨する中で、家族同伴というのは社員からも評価されているポイントですが、子どもと一緒に移動した際に、預ける環境等がなかった際に業務に支障が出るというのも想定される懸念ですね。

このような視点は、ワーケーション施設として魅力を訴求する事業者側にとっても大きなヒントになるポイントだといえます。観光であれば、部屋の眺望や設備などに注目があつまりますが、ワーケーションとなるとそれに加えて、いかに仕事をしやすい環境が構築できているかが重要なポイントになるというわけです。

Wi-Fiの設備や、電源まわりは言わずもがな、落ち着いて会議ができるのかどうかなど、利用者目線にたった情報発信が求められているでしょう。特に、自治体もワーケーション需要を取り込もうという方針の中で、ある一定の基準を示すなど、工夫のしがいがありそうです。

ワーケーションを許容する文化をつくるマネージャーの心得

社内で実施されたアンケートまとめ

ワーケーションを実現するためには、当然様々な課題があげられます。武内さんは、広く根付いていくために必要な視点として、「マネージャーの心構え」を重要なポイントとして指摘します。

ひとつの基準として案件が問題なくまわっているならば大丈夫というような基準をマネージャーがもつことではないでしょうか。ちゃんと働いてくれているだろうかという疑いの気持ちや、それがエスカレートしてリモートワークだけれど四六時中監視しているというやり方ではなく、ここまでやってくれれば大丈夫という基準をもつということです。その上で、6時間でしっかり仕上げて、その後は息抜きをするだったり、同じがんばりでもう一案件やろうというのは、社員側の裁量に任せるというかたちです。

やるべきことをきっちりやる。その基準をマネージャーが見るという体制で、リモートワークや、ワーケーションは随分とやりやすくなると思います。

実際にナビカスで導入しているワーケーション手当を利用した社員からはどのような声があがっているのでしょうか。

ワーケーション参加者の声を聞いてみると、満足度は100%、継続意向も100%となっています。そして想像していなかった効果として、社外に自社を紹介する際に、ポジティブに働いているということもわかりました。

身近な人から、知人・友人層まで、ワーケーションを推奨しているということを高評価をもって言及されていることで、会社にとってもポジティブなメッセージを発信することになっています。

武内さんは、「リモートワークは可能性の塊」と指摘しています。ナビカスの取り組みからは、はじめて試行錯誤されるリモートワークの中で、様々な課題が生じる中で、それらの声をきちんと拾いながら解決していき、可能性をかたちにしていく意思を感じます。

社会状況を踏まえて、リモートワークを<やったほうが良い>という状況から、<やりたい>リモートワーク、ひいては理想的な環境づくりをされているといえます。

実際に、ナビカスの取り組みを参考に、リモートワーク推奨やワーケーション手当を導入した企業もあらわれてきたそうです。様々な知見や工夫が共有されることで、ワーケーションを実施する働き手側の精度が高まり、より快適でスムーズな働く環境が作られる。そして、観光のひとつの派生としてワーケーションの場を提供する事業者側にも良いフィードバックが働き、本当に求められる環境づくりが進むという両輪が連動し回っていく状況こそ、いま求められることだといえるでしょう。

様々な取り組みが行われる中で、それらの実態や背景が広く共有されることで、リモートワークやワーケーションがますます魅力的な制度になっていくはずです。

参照リンク: 株式会社NAVICUS(公式サイト)

参考文献: ワーケーションの自社導入に「興味がある」、企業の約5割が回答