地方はまだ”迷って”いる?

「ワーケーション」というワードが急速に使われはじめて半年くらいは過ぎただろうか。各地で様々な動きが見られているし、2021年は日本のワーケーション元年だという人もいる。
実は、このNativ.mediaへの検索流入ワードも、2回目の緊急事態宣言前までは「ワーケーション」が1番多かった。ありがたいことに、今もこちらのコラム記事が「ワーケーション」での検索上位に上っている。地方自治体や観光事業者からの注目は益々上がっていると言っていいだろう。感染者数はやや落ち着いてきたと言え、まだ緊急事態宣言中でもあり、今までのように声高に観光客を呼び込む施策がしづらい中での、ある意味数少ない打ち手の一つという側面もある。しかし同時に、まだまだ「実際に何をしたらいいのかピンとこない」という自治体や事業者も多いのではないか。そもそも「仕事」と「バカンス」は今までは真逆の概念だった。それをあたかも「同時に」こなせるとも取れるこの「ワーケーション」という言葉が、なかなか腑に落ちないのは無理もない。そんな中で、あのDiscoverJapan3月号が真っ白な表紙でこの「ワーケーション」を特集した。そのタイトルにも、「生き方を変える?」「地域を変える?」と「?」を2つも使っている。もしかしたら自分自身の頭の中の「?」と知らない間に符合して、思わず手に取られた方もいるかもしれない。自分にも少しそういう部分もあったかもしれない。しかしこの特集は、ある意味そうした疑問に、実に明快な「解」を与えてくれるものだった。

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「ワーケーション」を通じて地域が発信すべきメッセージとは?

こうした質の高い写真と記事を改めてじっくりと読み進めるといつも感じるのが、雑誌というメディアのコンテンツのクオリティの質の高さだ。役割や性質が違うとは言え、正直(自戒の念を込めて)Webメディアとはまだまだ大きな差が感じられる。物理的に手にとってページをめくる感覚などにも支えられているだろうが、それにしても書き手の描く世界観へのいざなわれ方は、今現在の多くのデジタルメディアは、未だそのレベルに到達できていないかもしれない。

もともとそのクオリティに定評があるこのDiscoverJapan が取り上げたこの「ワーケーション特集」。写真も記事もやはりその地域の魅力が溢れ、さすがという感じなのだが、やはりすごいなと思ったのはそこではない。

というのは、そのメッセージに一貫していたのが、ワーケーションを通じて発信すべきなのは、地域で実現できる「生き方」そのものだということだからだ。

「ワーケーション」という、日常と非日常の新しい接点を通じて、「こんな生き方はどうですか?」「こんな人生もありなんじゃないですか?」「仕事と人生の関係を、こんなふうにしてみるのはいかがですか?」…みたいなことが伝えられる。そのお手本やアイデアの素は、各地域が長い間培ってきた生活文化が素になっている。自分たちが大切にしてきたものが、アナタの人生や仕事にもお役に立つんじゃないですかと、提案できる。そんなチャンスが地域に舞い込んているというのが、今なのではないかと。そういう思想や主張がこの特集の基盤となっている。

これについて、自分も本当に強く共感できる。だからこそこの「ワーケーション」という言葉が単なる流行りで終わってほしくないし、観光が関係人口創出との重なりを生み出す大きなきっかけになると考えている。しかし、なかなかそれを表現するのは難しい。でもこの特集は、それを本当にうまく表現している。雑誌という媒体の編集力やコンテンツ力は、やはり尊敬するし、できるものなら少しでも近づいて行きたい。

日本各地の様々な先進事例が紹介されている。読んでいると、今すぐ行きたいところばかり。しかしそれはビジュアルや施設のレベル云々ではなく、その背景から感じられる、仕事への向き合い方や、もっといえば「これからどういう人生を生きていくべきなんだろう?」という根本的は問いかけにある。また同時に、これからはどの地域でも、そういうメッセージを発信できる可能性があるということも感じさせてくれる。

自治体の関係者や、関連事業者の方々はもちろん、「ワーケーション」というキーワードに関心のある全ての方におすすめしたい。

 

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。