では、玉椿旅館の来るお客さんはどうやって玉椿旅館を知って来るのだろうか。

大きく整理すると以下の三通りになるという。

  • 角島など観光の目的地があり、その宿泊先として発見する
  • 川棚温泉自体が目的地であり、その中で発見する
  • リピートまたは知り合いの紹介
  • 近年、山口の観光スポットで人気なのが、角島だ。川棚温泉から車で40分ほど行くと、エメラルドグリーンの海の中を一直線に伸びていく角島大橋があり、南国と見紛うばかりの白い砂浜、夕陽に浮かび上がる灯台のシルエットなど、SNS映えする風景を目当てに多くの観光客が訪れている。また、そこからもう少し足をのばせば、アメリカのテレビ局・CNNが発表した「日本の最も美しい場所31選」のひとつに選出された、山口県長門市にある元乃隅稲成神社がある。目の前に広がるコバルトブルーの日本海の絶景と、ずらりと並ぶ朱色の鳥居が生み出す神秘的な風景が、こちらも角島同様多くの観光客の目的地となっている。

    山口でも有数の景勝地である元乃隅稲成神社

    次に、川棚温泉自体が目的地になる場合。福岡をはじめ、九州各県からの宿泊客は多い。距離的にはそんなに離れていなくても、関門海峡を渡って九州から本州へ渡る道程が、旅心を誘うようだ。東京など関東方面からは、本州の端であるという山口県の立地が決め手になっていることが多く、経由して九州方面へ足を延ばすケースも珍しくない。関西・四国の人々にとってはドライブ旅行圏内に入るようで、マイカーで訪れる宿泊客が多くなる。川棚温泉自体旅館数が少なくなっているので、川棚温泉内での競争は激しくない。そんな事業環境の中、国登録有形文化財であることや、”お相撲の旅館”という玉椿旅館ならではの特色が興味を惹き、集客につながっているのだという。

    最後に、リピートについて。玉椿旅館は老舗旅館だけあって、過去に多くの人が宿泊している。その人達が知人に紹介したり、家族を連れて来てくれるのだという。ホテルだとシングル、ツインなど、人数が決まっているが、和室だと人数の融通がきくので、みんなで一つの部屋に泊まることができる。親子三世代での利用が多いのも、純和風旅館ならではの特徴だ。

    登録有形文化財のサインプレート

    「お相撲さんがつくった旅館として、メディアなどで取り上げていただける機会は多いですが、お相撲がキーワードで来られるお客さまは少ないですね。うちの旅館の特色ではあるものの、お客様に還元できる価値としては弱いので、それはそうかなあと思います。でも、全体の数パーセントであっても、お相撲がキーワードでいらしゃる方がいて、そういった方々って、一般の方と違ってうちだけを目的にものすごい遠くから来てくださったりするんですよね。あとは、ホームページを見たり、どこかでパンフレットを手にしたりしてくださった方が、お相撲さんのキャラクターが可愛いから来ましたというケースも結構あります。このキャラクターは、数年前に旅館の年賀状を作るときに消しゴムハンコで彫ったもの。お客さまのために自分で作ったものなので、どんな形であれ、興味を持っていただくのは、すごく嬉しいです」

    藤井さんが自分で作ったお相撲さんのキャラクター。ホームページやグッズ展開している