肥料・農薬の販売、ビニールハウスの環境整備など、グリーンビジネスを展開する大信産業株式会社(http://www.taishinkk.co.jp/)。

2017年からドローン事業を立ち上げ、新たなビジネスの柱として力を入れている。今回のプロジェクトではドローンとあわせて衛星データも駆使し、農地状況や生育状況を把握。それらの情報を活用することで農業分野における効率化・スマート化を促し、地域全体の生産性向上を図る。

IT企業や行政と連携することで生まれる新たな可能性とは―。尾道市を舞台にした実証実験から、農業の未来が見えてくる。

良好なチームワークがプロジェクトの要。尾道市役所にて

―ドローンと衛星データの活用を始めた経緯を教えてください。

―田中 「耕作放棄地をドローンで撮影できないだろうか」という話を、尾道市農業委員会事務局の市川さんからいただいたのがきっかけです。その背景には農業従事者の高齢化や後継者不足の問題があります。耕作放棄地を増やさない取り組みとして、農業委員会では農地パトロールを毎年行っていますが、農業委員さん自体の高齢化も進んでおり、暑い8・9月のパトロールは体力的にもつらい。道路が崩れて人が立ち入れない農地もある。そこでドローンを活用できないだろうかということでした。

ちょうどそのころサグリ株式会社が開発した耕作放棄地診断システム「ACTABA(アクタバ)」を知り、これも役立つのではないかと考えました。ACTABAには衛星データが使われています。そこでドローンとあわせて活用することをご提案したのです。

「ドローンを新たなビジネスチャンスに」と田中さん

―双方を最適活用することで課題解決を図ろうと。

―田中 そうです。農地パトロールに関しては、事務局が現地で委員さんたちにACTABAの使い方を指導しました。今までは大きな紙の地図を持って歩いていたのが、タブレット型端末になり、ナビ機能も付いている。慣れてしまえば、とても便利です。

またACTABAが優れているのは、耕作放棄地率をあらかじめ設定しておくと、AI(人工知能)が「ここは耕作していないよ」というのを選択してくれる点です。初めから農地が絞り込んであるため、「計画的に調査しやすい」という声が委員さんからは聞かれました。

一方、当社ではACTABAを使って水稲の生育診断も行いました。尾道と世羅の圃(ほ)場において衛星データによって一枚一枚を診断した結果、収量の多いグループと少ないグループで差があることがわかりました。ただそれがどういう差なのか、どんな管理をすれば収量が多くなるのかといった分析はこれからです。いずれは農家の方がアプリを使って生育データがリアルタイムでわかるようなものを作りたいと思っています。

柑橘への応用を「発見」した市川さん(左)と髙橋さん

次のステップへとつながる実証実験だったようですね。

―田中 はい。すでに現場の声によって早々に改良された部分もあります。最初は圃場が緑色だけで表示されていたのが、判定によって色分けされるように改善されました。これはIT企業ならではのスピード感です。

また、そもそもなぜ耕作放棄地がわかるかといえば、5月と7月の画像を比較してAIが判断しているためです。田植えをしたばかりの田んぼと、稲が大きくなった田んぼでは、得られる波長が違います。しかしこれは水稲だからできることであって、柑橘のような常緑の畑ではできないと思っていました。ところが「柑橘でもできるのではないか」と、事務局の市川さんと髙橋さんが発見しました。耕作放棄地率を上げていろいろ試してみると、柑橘でもちゃんと判断できるパーセンテージを見つけたのです。

もちろん当面は水稲での運用を考えていますが、いずれは柑橘などにも応用していくことが可能になるでしょう。

現場の声をすぐにフィードバックして色分け表示に

―このプロジェクトがこれからの農業を変えていくと思いますか。

―田中 広域な判断は衛星データでやる、詳細なデータがほしいところはドローンでやる。それぞれの強みを生かした形で耕作放棄地や水稲の生育診断に関するサービスを提供するのが、このプロジェクトです。

農業は今後、大型化していきます。管理する枚数も非常に多くなってくる。そうすると、それぞれの圃場に合った管理をしていくことが大事になってきます。今回の技術によってそれが可能になれば、収量や品質の安定化につながるでしょう。

農地パトロールについてはできるだけ省力化して、農業委員の皆さんには担い手確保や農地流動化を促進するなどの本来業務に注力していただければと思います。すべてデジタルデータとして残るため、この辺にはどのような農地があるのかといった情報も活用できるはずです。

私たちの取り組みは県のほかの市町や、あるいは他県からも注目されています。ACTABAの適合率は現在9割台ですが、今後AIが学習するにつれて精度もより上がっていくと思います。


尾道市農業委員会事務局 農地係専門員・髙橋知佐子さん、事務局長・市川昌志さん

<プロジェクトパートナーからのコメント>
スマートシティを掲げる尾道市では、さまざまな課題解決にデジタル技術を活用していこうとしています。それは農業分野においても例外ではありません。農業委員も高齢化していますが、スマートフォンを使っている人は多く、むしろ強い関心を持っています。
ACTABAは画面をタップするだけで難しい操作もないため、使ってみた感触は概ね良好でした。山の向こうの農地とか害獣の防護柵があって先に進めないようなところは、ドローンを飛ばして確認することができます。従来1日かけて行っていたところが、1~2時間で済む。これは大変な省力化であり、農地パトロールの業務をスムーズにしてくれるものです。
(尾道市農業委員会事務局 事務局長 市川昌志/ 農地係専門員 髙橋知佐子)

取材:戸川盛之 撮影:岸副正樹