移住する前に一定期間滞在して、その土地の生活を体験できる「お試し住宅」。2023年9月現在、福島12市町村のうち9市町村が用意している移住支援制度です。今回は、阿武隈高地の豊かな自然に抱かれた川内村のお試し居住用トレーラーハウス「GEKKOU(月光)」を訪ねました。村の中心部にある年中無休(年末年始を除く)のカフェの隣に位置し、役場をはじめ主要な施設へのアクセスも便利な場所にあります。

コンパクトで機能的なトレーラーハウス

左から西山さん、渡辺さん

このお試し住宅を管理しているのは、一般社団法人かわうちラボ内の川内村移住・定住支援センターです。担当職員の西山舞さんと渡辺静香さんに現地を案内していただきました。

他の市町村のお試し住宅は通常の一軒家が多いのに対し、トレーラーハウスという形態はとてもユニーク。山に囲まれアウトドアレジャー好きが集まる川内村ならではの特徴を、と考えての選択だったそうです。木材をふんだんに使った外装が目を引くと同時に、温かい印象を与えています。

中に入ると一転、真っ白な壁と真っ白なソファのスタイリッシュなインテリアです。新しい室内にも心地よい木の香りが漂っていました。

ソファの向かいには大画面のテレビ。その右の掃き出し窓からウッドデッキに出られます。

奥の寝室にはダブルベッド。定員いっぱいの4名で利用する際はリビングのソファをベッドとして使えるほか、エアベッドを持ち込むこともできます。

バス・トイレは一体型ですが、お風呂のドアをピッタリ閉めれば湿気が漏れない設計になっているとのこと。

キッチンにはコンロと炊飯器、冷蔵庫、電子レンジを完備しています。食器や調理器具は利用者が持参するスタイル。基本的な食材は村内で調達が可能です。

全体的にコンパクトながら、とても心地よく過ごせそうな空間でした。

滞在中は実際の暮らしをイメージしながら行動を

このお試し住宅の対象者は川内村への移住を真剣に検討している人で、移住のための物件探しや村内イベントへの参加、農業体験などの際に利用できます(単なるレジャー目的は不可)。利用は無料で、期間は1泊2日~1週間以内、1組1回までとなっており、川内村移住・定住支援センターに申し込みをすると西山さん、渡辺さんら職員との事前面談があります(オンライン可)。

2023年8月16日の供用開始以来1ヵ月間に4組が利用し、そのうち家族連れ1組がすでに移住を決めたそうです。

「すべて首都圏からのご利用でした。テレワークを前提にネット環境を確認したいという若い単身者もいましたね。見学のみの方も含めて十数件のお問合せをいただいているため、ご希望の日程での滞在を確実にするには早めのご予約をおすすめします」

お試し居住の期間中は特に決まったプログラムはなく、自由に動いていただくのが基本とのこと。バーベキューもできる「いわなの郷」や、昭和の詩人・草野心平ゆかりの天山文庫、Uターン者が新しい取り組みとして最近オープンしたおしゃれな古民家カフェ「秋風舎」などを巡るのも楽しそうです。

「ただ、そういう観光スポットを楽しむだけでなく、実際の『暮らし』をイメージして行動してもらえるといいですね。基本的な食料品や日用品は村内の「 YO-TASHI(ヨータシ) 」や農産物直売所「あれ・これ市場」などの商業施設で揃いますが、大きなスーパーだと車で30~40分かけて田村市船引(ふねひき)町や富岡町、小野町まで行く必要があります。昔から村民は週1回村外へ買い出しに行く生活をしてきたので、滞在中にそういう感覚を掴んでいただけると良いかと思います」

10月から貸し出しがスタートする電動シェアサイクル。自動車を持たないお試し滞在者も、これで行動範囲が広がります

高地にある川内村は、避暑地でもあります。イワナが棲む千翁川(せんのうがわ)の清流、天然記念物に指定されているモリアオガエル繁殖地として知られる平伏沼などの涼やかなスポットが人気です。夏から秋にはいくつものお祭りに加えて、トライアスロン大会やマラソン大会が開催され、県外からも多くの人が訪れます。そうしたイベント参加をきっかけに川内村ファンになる人も少なくありません。

ただ、そのぶん冬の寒さが厳しいのも事実。雪はさほど深くないものの20センチ程度は積もることもありますし、気温がとても低く道路も凍結します。西山さん、渡辺さんは「そんな冬こそお試し住宅を利用して川内村で過ごしてみてほしい」と言います。「移住するということは四季を通じてそこに暮らすということですから」。

美しい平伏沼。詩人の草野心平は川内の自然と人に魅せられ、この村に通ったといいます(写真提供=かわうちラボ)

川内村の魅力は「人のやさしさ」

西山さんと渡辺さんは、いずれも2023年、村外からかわうちラボに転職したそうです。そんなお二人に川内村のどこに魅力を感じたのか尋ねると、「人のやさしさ」という答えが返ってきました。

「地方には閉鎖的なコミュニティもあるかもしれませんが、川内の人はみんな明るくてやさしいんです。お試し滞在中の人が道を歩いていたら、車で通りかかった村の人が乗せてくれて目的地を回ってくれたというエピソードもあるほど、いい意味でおせっかい。移住者を温かく迎える空気があります」

とはいえ、地域社会には都市生活者にとって馴染みの薄い慣習も存在します。移住・定住支援センターでは、そうした暗黙の決まり事を明文化したり、住民との交流機会をつくったりなど、移住者がスムーズに地域に溶け込むための取り組みを企画・試行中だそうです。

「移住したい理由は人それぞれで、都会の喧騒を離れて静かに暮らしたい人もいれば、周囲と積極的にコミュニケーションをとりたい人もいます。個別のニーズに合わせて丁寧にサポートしていきたいですね。ただ、どんな人にも心の底から納得して移住を決めてほしいので、急かすようなことはしません。移住者だけでなく、もともと住んでいる村民も含めてこの村の全員が楽しく暮らせることが大事だと考えていて、そのために両者の間をうまく取り持つのも私たちの役割だと思っています」

なお、移住・定住支援センターでは空き地・空き家バンクの運営も担っており、さらに11月からは無料職業紹介事業もスタートするとのこと。住まい探しと仕事探しがワンストップで可能となり、移住希望者にとってますます心強い存在になりそうです。

川内村への移住に興味のある人は、お試し住宅を利用して、自然と人の魅力にあふれた川内村の「住み心地」をぜひ体感してみてはいかがでしょうか。

村の夜の美しい月明かりと、村のシンボルであるモリアオガエルの鳴き声をイメージしてGEKKOU(月光)と名付けられました

川内村のお試し住宅についての詳しい情報はこちらをご覧ください。
川内村お試し居住用トレーラーハウス「GEKKOU」
https://www.kawauchi-ijyu.com/pages/42/

福島12市町村で提供しているお試し住宅は以下の記事でもご紹介しています。
https://mirai-work.life/magazine/1360/


■移住相談窓口 一般社団法人かわうちラボ(川内村移住・定住支援センター)
住所:川内村大字上川内字町分282-6
TEL: 0240-23-7172
営業時間:8:30〜17:15(お試し居住用トレーラーハウス「GEKKOU」受付・対応時間は9:00~17:00)
定休日:土・日・祝日、年末年始
HP:https://www.kawauchi-ijyu.com/

※所属や内容、支援制度は取材当時のものです。最新の支援制度についてはかわうちラボにお問い合わせください。
取材・文:中川雅美(良文工房) 写真:五十嵐秋音

※本記事はふくしま12市町村移住ポータルサイト『未来ワークふくしま』からの転載です。