グローバル化が進めば進むほど、その地域にしかないモノの価値が高まる。当たり前といえば当たり前だが、さまざまな制約から実業化しづらいこの概念をかたちにしようと奮闘する地域小売が沖縄にある。百貨店「デパートリウボウ」スーパーマーケット「リウボウストア」、コンビニエンスストア「沖縄ファミリーマート」の3業態に加え、空港にも店舗を持ち、卸売専門会社を含めた12社のコングロマリット リウボウグループだ。グループを率いる糸数剛一社長に、世界と向き合う地域の売り場「樂園百貨店」の背景と戦略を伺った。

記事のポイント

  • 地域とのネットワークと商品開発力で、“独自性のある地域完結型のビジネス”を構築
  • 「リゾートハイ」こそ沖縄の地域資源
  • 地域小売が腹をくくり、小規模だからこそできるスピード感でチャンスを増やす

キーワードは「独自性」と「地域完結型」

この夏、那覇の一等地に建つデパートリウボウの一角に「樂園百貨店」が登場した。ナショナルブランドがテナントの大多数を占める中、「沖縄のいいモノ 日本のいいモノ 世界のいいモノ 体にいいモノ」を軸に、リウボウのバイヤーチームがセレクトした高品質・高価格の商品が並ぶ。「地域完結型」へと舵を切ったリウボウグループの未来を占う、社長肝いりのプロジェクトだ。

2018年7月リフレッシュオープンした樂園百貨店

このShop in Shopの企画を指揮した糸数剛一社長は、力を込めてこう語る。
「地域の事業者は、独自性を持った地域完結型のビジネスモデルを構築しないと生き残れません。逆に、地域における仕入れのネットワークとそれをベースにした商品開発力があれば、10倍の規模の事業者が参入してきても恐れることはない。これまでのように、県外や海外からいいものを持ってくるだけでなく、地元のいいものを見つけて磨いて外に提案することで、どこにも真似できない店になり、世界じゅうからお客さんを呼べる。その先駆けとして、この売り場をつくりました。」

仕入れ先との強固なネットワークと商品開発力で独自性のある地域完結型ビジネスを構築する。このモデルにぴったりとはまる商品に「特産離島便」がある。離島のお母さんたちが島で獲れる素材で手づくりした島の味を、おそろいの瓶詰めにしてコンビニの商品としては高単価で販売しているオリジナルのお土産商品。1つ780円〜という価格にもかかわらず、沖縄ファミリーマートで順調に売り上げを伸ばし、樂園百貨店でも一番売れている。糸数社長の見立てどおりの展開だ。

※「特産離島便」については「地元の特産品を地元の小売業者が売る戦略の功。3年目で売上1億円を突破した事業創造」もお読みください!

「今はもう、たとえコンビニエンスストアであっても、金太郎飴型の店づくりではダメ。たしかに、本部の論理では金太郎飴型の仕入れが一番利益率が高いんですよ。仕入れ先に対して、ひとつの商品を全国で1万店舗に入れますよ、だから安くしてくださいという取引ができますから。でも、消費者はもっとずっと成熟しています。もちろん、商品レベルではいつもと同じものが安心で、それを買います。でも、店を選ぶポイントはいつもと同じ商品があるかどうかじゃない。そこにしかない自分の好きなものがあるか、という視点で店を選んでいくわけですね。つまり、消費者のニーズに応えようとすると本部の論理が崩れるんです。めんどうくさいし、大きくは儲からないかもしれないけど、5%でも10%でも独自性のある品揃えをして、『ファミリーマートが好き』じゃなくて『ファミリーマートの◯◯店が好き』と言わせなきゃだめ。それができれば、隣に超ディスカウントの超巨大チェーンが来ても生き残れると、口を酸っぱくして言っています。」

糸数剛一(いとかず ごういち)氏

そのためには、独自性のある商品を持つつくり手との強固な信頼関係が欠かせない。糸数さんの大号令のもと、沖縄ファミリーマート商品部長やプロフェッショナル採用されたデパートリウボウのバイヤーチームは、つくり手ネットワーク構築を急いでいる。こうした取り組みは株式会社ファミリーマートの澤田貴司社長も高く評価し、全国のファミリーマートに先進事例として掲げられている。

地域の生産・製造者を守る責任

成熟した消費者に選ばれる独自性の高い店づくりは、リウボウだけでなく地域の一次・二次産業者の生き残りや盛り上がりにもつながる。独自性の高いモノが売れることが証明されれば、つくり手はつくり続けることができるからだ。

「東京や海外のグローバル企業は、規模の力で安価な商品を市場に投入してきますが、地域小売の役割はしかけられた価格競争に乗ることではありません。地域の生産者に別の土俵を用意することで、安心していいものをつくってもらうことです。」

その土俵がデパートリウボウの樂園百貨店であり、沖縄ファミリーマートの特産離島便の売り場だ。糸数さんは、ただ商品を仕入れるだけでなく、生産・製造事業者にも働きかけていく考えだ。

「製造そのものを僕らがするわけではないですが、『このやり方でこれだけ売れています』と示して投資を促すなど製造現場にも積極的に関わっていかないと商売ができないと思っています。例えば、タイなんかから『自分たちが食べるアジアン野菜を沖縄でつくって売ってくれないか』という商談がくるんです。物流コストがかかって高くなるじゃないかって言うんだけど、『環境汚染がひどくて自分たちの国でつくったものは信用できない。Made in Japanなら安心して食べられるから高くても売れる』と。」

そういった情報をシェアすることで製造者と販売者がタッグを組めば、地域経済を守り育てることができる。逆に、タッグが組めなければ、成長が見込めないばかりか衰退の一途を辿るのみ。糸数社長が、地域完結型のビジネスモデルを「何がなんでも成功させなきゃいけない」と意を決している背景には、強い危機感がある。

「すごくいいものをつくっているのに、『跡継ぎがいないから自分の代でやめる』と考えている事業者が日本中にいます。それは、商売の先が見えないから。大手流通の言い値で全部買われてしまってつくっても儲からなかったら、そうなりますよ。でも、いい販路があって、儲かる値段で注文がどんどんきたら、絶対ビジネスとして面白いんだから、息子さんなり娘さんなり、それ以外でも『私がやります』という人がいくらでも出てくるはず。だから僕ら地域リテーラーは『僕らならこの値段で売れます。だからつくり続けてください』と訴えていかなきゃいけない。」