狙うは「リゾートハイ」マーケット

さて、こうした独自性・地域完結型戦略が実を結ぶには、地場の商品を高価格で売る販路をつくらなければならない。

地域のいいものを誰に売るのか。出口をつくるのに欠かせないプレイヤーとして糸数さんが注目しているのが、沖縄を訪れる国内観光客や外国人旅行客。入域観光客数は右肩上がりで、2017年度に957万9900人を記録し、5年連続で過去最高を更新した。このうち、269万2000人が外国人で、そのほとんどが台湾、韓国、中国本土、香港、タイといった近隣のアジア諸国の人々だ。
日本のものに安心・安全のブランド価値を感じながら、リゾートに来た!という高揚感と潤沢なお土産需要を持つマーケットが、向こうからやってきてくれている。これを生かさない手はない、という考えだ。

糸数さんは、「リゾートハイ」と呼ぶこのマーケットこそが、生かされるべき沖縄の地域資源と位置付ける。その考えは、「樂園百貨店」の英語名「RESORT DEPARTMENT STORE」にも現れており、「リゾートハイ」を沖縄の、そして日本じゅうの良質な生産・製造者の生き残りと成長につなげるミッションを語る。同時に、自社の成長においては、世界のいいモノを沖縄に集め、日本人観光客に売るビジネスも志向している。

「樂園百貨店の売り場を移植したポップアップショップをタイなどで展開しています。まだ本格展開するにはアイテム数も供給力も足りないのでポップアップショップで様子を見ているわけですが、目的は売ることだけではない。買い付けるためにも『沖縄』『リウボウ』『樂園百貨店』の知名度を上げなければならないので、出て行っているわけです。むこうでは、『日本市場にチャレンジしたいなら、700万人ちかく日本人が来ている沖縄で商品を売ってみませんか』という話をしています。うちは百貨店・スーパー・コンビニ全部あって、本土とも業界のつながりがありますから、どこでも試せる。それで実績ができれば、うちの何十倍もの規模の大手小売が飛びついてきますよ、と。これをアジア各地で言い回っていますが、みんな食いついてきますよ。」

交易で栄えた琉球のアイデンティティ

目指すはアジアの交易のハブ。このビジョンは、沖縄県が掲げるビジョンでもあり、かつて独立国家だった琉球王国の姿に重なる。

「究極の沖縄らしさというのは、僕は『チャンプルー文化』だと思います。こんなに小さな島国が、植民地にならずに独立を保てたのは、『世界中と交易しているから、そちらのモノを買うし、よそのモノやお金を流すよ』と言って、植民地化しないほうが得だと思わせていたから。沖縄が『チャンプルー文化』なのは人がいいからじゃないし、沖縄人にとってグローバルはかっこいい言葉じゃない。実は真逆で、小国のしたたかな生存戦略です。」

速く動ける小ささ。地域の仕事の面白み

大きなビジョンを掲げてスタートした「樂園百貨店」は、まだまだ発展途上。糸数さんによれば、現在の670アイテムから最低でも3000アイテムまで持っていかなければ商売にならないと話す。そのために必要なのは、生産・製造者ファーストの考え方だという。

「つくりきれないかもしれないリスクや売れないかもしれないリスクを、生産・製造サイドではなく小売サイドが取らないといいところとは手を組めない。小売が腹をくくらないとだめなんです。」こうした考えは流通業界で徐々に広まっているものの、ビジネスの現場ではなかなか流通ファーストの慣例を変えられていない。

これを変えるのも、地域小売の役割だという。
「これだけ価値観やライフスタイルが多様化している中、出してみないと何が売れるかわかりません。特産離島便のヒットを例にとっても、初めは1000個だけ用意して、試しにファミリーマート1店舗で売ってみたところからスタートしています。それなのに、東京の大企業は、売り場に出るまでに何人も決済者がいて、『本当に売れるのか』『供給体制は十分か』と会議室で数字をこねくりまわしている。消費者は自分の欲しいものを知らないから、アンケートなんて参考にしてもしかたがないし、生産者だって売れるとわかれば変わるのに。出してみて売れないリスクをとりたくないから、そうなるんです。」

その点、自社の規模であれば小さく素早く動ける。これは、どの地域にも当てはまる地域事業の強みだろう。
「とにかくスピード!大企業の東京本社には優秀で専門性の高い人がたくさんいます。勝てるポイントは、8割のクオリティでいいからとにかくスピード感をもって動けること。売れなかったら社長である自分が責任をとるので、どんどん動いてもらいたいと言い続けています。」


(筆者コメント)
躍動感あふれるお話しぶりで、地域リテーラーの存在意義や沖縄という地域の発展性を描き出す糸数剛一社長。こうした話をあちこちでしていると、『一緒に仕事がしたい』と、国内外の実績のあるバイヤーたちから熱視線が集まるそうだ。沖縄という地域の独自性や優位性を明確に定義し、生産地としても消費地としても魅力的に発信する存在であること。地域リテーラーとしてリウボウが目指すあり方を、社長である糸数さんが先陣を切って実践していると感じた。
10月23日には、「樂園百貨店」に隣接して「樂園CAFÉ」もオープンし、モノを見つけ、選び、買う、という現在の機能に味わうという機能が加わった。高速で進化するデパートリウボウに、これからも注目していきたい。

取材・文:浅倉彩

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