高知県高知市の中心地、高知駅から徒歩5分に位置する株式会社SHIFT PLUSのオフィスには、PCに向かうおよそ100名の若者の姿がある。SHIFT PLUSは、高知県が推進するIT・コンテンツ産業集積計画の一環である企業誘致施策を活用し、東京に本社を置くIT企業 株式会社SHIFTと株式会社オルトプラスが設立した合弁会社だ(現在は株式会社SHIFTの100%子会社)。基幹事業は、ソーシャルゲーム開発会社を顧客とするゲームの品質保証(テスト業務)とカスタマーサポート。これをキャッシュエンジンに、行政と情報交換をしながら地域の課題を抽出し、地域の課題をITの力で解決する新規事業も次々に展開している。地元出身の若者から「こんな仕事が高知にあるなんて」と喜ばれる同社の取締役で、初代代表取締役の松島弘敏さんに、地域スタートアップの創業期についてお話を伺った。

* Iターン・Uターン・国際就職など多様なバックグラウンドからジョインした若手メンバーのインタビューも合わせてお読みください。
高知のローカルベンチャーSHIFT PLUSで 働く3人の若者、それぞれの情熱と言葉
中国、バングラディッシュから日本の高知へ 国際就職を促すSHIFT PLUSの多様性

記事のポイント

  • 成功パターンが決まっていない地方だからこそオルタナティブを生み出せる
  • 行政との距離の近さが新規事業の後押しに
  • 多様な働き方を提供する企業として、いろんな価値観を持つ仲間と働きたい

成長を続ける規模・業容・人材

ー2015年4月の設立以降、3年半の事業運営で従業員数は100名を超え、売上高も200%に迫る高成長を遂げられています。2017年9月には増資も。この急成長の要因をどう見ておられますか?

とにかく営業をして、クライアントを増やしました。クライアントは東京にいるので距離をデメリットに感じたこともあったんですが、社員もお客様もだんだん慣れて。今は東京営業所に2人営業担当者がいますし、距離はさほど問題にならないですね。むしろ、『高知視察ツアー』を営業の戦術として組み込んで、クライアントに高知に来ていただいています。東京だとオフィスに行くだけですが、高知に来てもらえば必然的に泊まることになり、夜はがっつり飲みます。それで仲良くなり、そこから先の受注率は8-9割です。これは、現場のみんなが元気に挨拶してくれたり、積極的にコミュニケーションをとる中で『この人たちなら安心してまかせられるな』と思っていただけることが大きいです。

また、僕らは社会に大きなインパクトを与えることをビジョンに掲げて仕事をしています。なので、中長期でお付き合いいただけるビッグクライアントも取りに行きます。営業力、営業戦術に加えて、そもそものビジョンが大きい、というのも成長の要因だと思います。

株式会社SHIFT PLUS 取締役の松島弘敏さん

ーおっしゃるように、「高知を変える」「高知から日本を変える」ということをコーポレートサイトでも謳っておられますし、社員の方々からお話を伺った際にも「高知を変える」というワードがたくさん出てきました。

経営理念は、高知出身の元弊社会長の武市智行氏(元スクウェア代表取締役社長・会長)に大きく影響を受けています。ゲーム業界で知らない人はいないほどの著名経営者である武市さんと初めて飲みに行ったとき、話が面白すぎて興奮して3日ぐらい寝られませんでした(笑)。

実は、会社ができてから半年間は、私自身いち営業マンから急に経営者になって、「代表って何すればいいんだろう?会社ってどうやってつくっていったらいいんだろう」と考えながらも、とにかく目の前にあることにがむしゃらに取り組む日々を過ごしていました。その後の半年、ちょっと余裕が出てきたときに、改めてSHIFT PLUSの経営理念について考え、色々な葛藤や苦悩を乗り越え、設立1年かかってようやく、経営理念ができました。

ー経営理念はどんなふうに導き出していったのでしょうか?

関係者の皆さんがいろいろおっしゃる中で、代表の自分は何がしたいんだろう?と掘り下げました。考えて考えて、「自分の幸せは、自分が正しいと思えることを死ぬまでやり続けられることだ」と思ったんですね。その正しいと思えることが、社会全体を見渡したときに地方創生だと思いました。東京にはたくさんプレイヤーがいる。ところが、高知には少ない。自分は別に働く場所にこだわりはない。だったら、自分はプレイヤーが少ないここ高知で頑張ろう、と。

それから、資本主義をアップデートしたいという思いも芽生えました。今の日本は、経済はそれでもまだ、徐々にではあるけれど成長しているじゃないですか。だけど、人々の幸せが増えているかというと、僕の感覚では自信を持ってYESと答えられる人って少ないのではないかと思っています。だったら、どうしたら社会の幸せの総量を増やせるだろうと考えたときに、もっと主体的に自分の働き方とか暮らし方を選択できる社会を作るべきだな、と思って。

都市部って人が集まってるからすごいエキサイティングでいろんな機会があったりするんですけど、逆にそれが可能性や視野を狭めてるところもあるかなと思うんです。スタートアップの作り方とか、資金調達の仕方にしても、都市部には都市部のやり方があるんですが、一方でそこにはまりきらない人もいるんですよね。いっぱい働いて鬱になったりする人もいるじゃないですか。だから、本当は都市部のやり方だけがすべてじゃないんだろうなって、高知で暮らす1年の間に思うようになっていきました。

高知で働き暮らす人たちを見て、平均年収で比べたら東京の方が高い。だけど、高知の人は高知の人ですごく幸せそうに暮らしていて。この違いって何だろうなって自分の中で考えたときに、人はそれぞれ、当たり前の話ですけど、価値観があって。その価値観に応じてできるだけ多くの働き方とか暮らし方のパターンがあって、それを各自が選べる方が絶対幸せになるんだろうなというふうに考えるようになりました。

オルタナティブを生み出す場所は、地方の方がいいと思うんですよ。なぜなら都市部はもう成功パターンが決まっていて、その成功パターンを目指す人で飽和状態です。例えば会社の起こし方とか成長のさせ方を例にとっても、求められるものや指標が結構明確にあります。一方で、地方はまだそこらへんに未成熟な部分が残されている。だから、地方の方が新しい会社のあり方とか、働き方を作りやすい。だから高知で自分がそれをやる。しかも、人口減少が特に進んでいる高知でできれば、地方の可能性を証明することになると思ったので、そこに必然性を感じて、今の経営理念「地方にワクワクする仕事を増やし社会をより豊かに」に至りました。