「地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋」、第四回は、島根県邑南町の商工観光課 寺本英仁課長です。
今回は、コロナの影響と、それに対して寺本さんが取った驚くべきスピード感のある施策について語っていただきました。
1本めの記事はこちら
地域を変化させる力の源とは何か(1)〜島根県邑南町商工観光課長 寺本英仁さん〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】
コロナ禍で激変した都市と地方、密と疎
倉重:A級グルメの活動が軌道に乗り、50軒もの飲食店ができてきた矢先に、コロナでしたね。
寺本:そうなんですよ。
倉重:相当厳しい状況だったんじゃないかと思うんですが…。
寺本:いやー、これ、きたか!と思いましたよね。うまく行ってたんで、これはちょっとやばいなって思いましたよね。本当に。
倉重:実際に、お客さんは来なくなったんですか?
寺本:4月、5月は全然駄目でしたね、でも実は、今(インタビューした12月初旬)は、去年よりもたくさんのお客さんが来ています。
倉重:そうなんですか!?
寺本:復活してますね。
倉重:やっぱり、3密じゃないイメージもあるし、実際にそうだからですかね?
寺本:はい、そうですね。あと、もともと夜に営業する店舗がほとんど無かったんで。
倉重:そうか!そうおっしゃってましたね。ランチ中心のお店がほとんどだと。
寺本:昨年対比で上回っているお店もあると聞いてます。「A級グルメ」は強いねって思いましたね。
倉重:もともとインバウンド観光客にも依存してなかったですしね。
寺本:インバウンドは全然いなかったですから、全く影響は無いですね。マイクロツーリズムではないですが、やはり広島県の人たちに足繁く来ていただいています。ただ宿泊はやっぱり駄目ですね。日帰り客が中心です。
倉重:ステイホームで缶詰になってたから、近くの邑南町に行ってちょっとおいしいものでも食べるか!…みたいな感じなんでしょうね。
寺本:1時間くらいかけて車で行って帰ろうという人が多いです。
倉重:なるほど、道中も、現地も「密」でもないし。安心だと。
寺本:そうですね。「適疎(てきそ)」、適度な疎。過疎じゃないですよ、適疎です。
倉重:なるほど。適疎っていうんですか!知りませんでした。時代は変わりましたね。
「疎」であることがメリットになる。こんな大逆転って考えられなかったですよね。
寺本:ですよね。昔は「東京から来た人かっこいい!」という感じてましたが、これからは 「東京?あんな密なところに住むのは…」っていうことになりそうですよね。(笑)
コロナ禍中での町内の支援策
倉重:コロナ禍中に、邑南町としてはどんな支援策を実行されたんですか?
寺本:まず、やっぱりまだ住民活動も以前と同様に回復しているわけではないんです。回復はしていないけど経済動かしていかないといけないんで、まずはマイクロツーリズムからやってこうと思ってるんですよね。まずは邑南町民に、できる限り外食のすすめとか、町内観光をやってもらうということ、それから、近隣の浜田市に対して、5万人の都市ですけど、邑南町に来ていただくような仕掛けを作ったり、そしてもうちょっと足をのばすと来られる広島にPRしています。
方法としては、例えばケーブルテレビを使おうと思っているんですよ。
倉重:ほお。それはなぜですか?
寺本:ケーブルテレビは思っているよりも安価でPRできそうなんです。30万人くらいの広島市民が見てるんですよね。30分番組で一週間、ずっとCMを流しても数十万円くらいです。比較的年代の高い人を中心に、やはりよく見られているようなんですよね。ケーブルテレビって、いいなと思って。
倉重:確かに見ますよね。本当にローカルなお店が紹介されるような番組も、意外に見ちゃいます。やっぱり近所の情報だから「あれ?あんなところにそんなお店があるんだ!」みたいな発見があったりして。
寺本:ですよね。他の自治体ではあまりまだ取り組まれていないようですので、邑南町は先に取り組んでみようかと検討中です。
倉重:へえ…さすがですね!
寺本:そういう形で少しずつ、広島市や近隣自治体を中心としたマイクロツーリズムのプロモーションで、なんとか来年度いっぱいまでしのぎたいなと思います。
倉重:先日テレビでも言ってましたが、専門家の中でも少なくともあと1年ぐらいはウィズコロナが続くんじゃないかという意見も多いようです。
寺本:そうですよね。なんとかその期間はがんばらねばと思います。
倉重:先日出版された新著『東京脱出論』の中にもありましたが、かなり早い段階で町内の人に支援金を配る対策で奔走されたそうですね。それもそういう狙いなんですか?
寺本:そうです。すぐにやったのが、感染予防対策を行う飲食店に20万円を補助しますとか、国の持続化給付金の対象にならない(売上減が49%から20%までの)事業者に対して一律20万円を支給しますとか、そういう対策でした。
倉重:なるほど、出し方が本当に的を射てますね!
寺本:さらに全町民に1万5000円の商品券を発行しますという対策もやりました。またとにかくお金に困ったら、事業者か個人かにかかわらずとにかくここに来てくれという相談窓口を商工観光課に作りました。
倉重:そこまでやられたんですね。ワンストップの窓口を作るというのは、特に寺本さんらしい。やっぱり「町民目線」ですよね。
寺本:特におじいさんおばあさんは、どの場合にどこにいけと言われてもわかりませんからね。たらい回しにされるのは嫌ですし。唯一課長になってよかったなと思ったんですが、自分の課でやると手をあげたら、できちゃいますからね(笑)。 とにかくお金のことに困ってたら、なんでもいいから来てっていう窓口は大事ですね。そこで悩みを聞いて、関連部署と繋げてあげられますからね。
倉重:それ、さらっとおっしゃいますけど、本当にすごいことなんじゃないかなと思います。はじめの頃は町民の30%くらいは、補助金があるということすら認識してなかったそうですしね。
寺本:わからないですよね。やっぱり特に高齢の方にとっては。
「行政のスピード感」を出すポイント
倉重:そうですよね。それを町民目線で、わかりやすい入り口を作ってあげると。「保険の窓口」みたいなものですものね。
寺本:そうそう。役場ですから、安心感もあるでしょうしね。それに邑南町では、スピード感を大切にして、今年は臨時議会含めて、合わせて9回も議会が開かれているんですよ。
倉重:へええ。それ本当にすばらしいですね。
寺本:そう。だから、決して「行政はスピード感が無い」というわけではないんですよね。それに、一度組んだ予算でも、執行率が悪ければ、期の途中でも予算を組み替えて、別の施策に切り替えるなんてこともありました。
倉重:そこまでのことをしている自治体って、あまり聞いたことがないですね。
寺本:そうなんです。国の施策も色々出てますから、町の施策と重なったり、周知が行き渡らないこともありました。そういう状況も把握していましたので、アンケート調査を行って、その状況を数字で明確に示して、11月に臨時議会開いてもらって、期中に始めた補助金を停止して、別の対策に回したりしたんです。普通は有り得ないんですよ、期中に補正であげたけものを、年度の途中で補正して落とすってことは。
倉重:そうですよね。そこまでされたんですね。
寺本:そうなんです。その予算で、非接触型の電子決済を普及させる対策に回したりしました。そういうことはやってほしいっていう声を聞いて、普通はやらないんですけど、そういうことをタイムリーにやっていくってことが僕は大事なんじゃないかと思うんですよね。
倉重:なるほど。何かITとかデジタルとかって、やっぱり地方は苦手だとか、なかなか進まないんだろうっていう一般的な感覚がありますけども、全然リードする人がいれば違うんですね。
寺本:キャッシュレスって今までは地方ではなかなか進まなかったんですけど、今回一気に広がっていますね。人口1万人の町という規模も、ある意味動きやすいですから、
倉重:そうですね。さすが、相変わらずすごいですね。寺本さんだからこそという部分も大きいですね。
寺本:このコロナ禍中にたまたま課長になって、予算を企画できる立場になれたのも良かったなと思いますね。
倉重:ここ数年のご活躍からの信頼感もあったんではないですか?
寺本:そうだとしたら嬉しいんですが、でもやっぱり根拠がなかったら駄目なんですよ。ちゃんとアンケートも取ったり、しっかりすることによって周知されてるけど、こういった事情で、使う人がいないよ、という説明をちゃんとすれば、次いいことに使おうよっていう話になるわけですよ。
倉重:なるほど。そこが行政を加速させるポイントなのかもしれないですね。しっかりと根拠を出せば、いくらでも動けるのが行政だということですね。
寺本:だからこそ、町民の声をどれだけ声きけるかが大切になってきますね。
次は、今後変わっていく都市と地方の価値について、そして話題を呼んでいる寺本さんの新著についても語っていただきます。
<インタビューのハイライト動画はこちら>
3本めの記事はこちら
地域を変化させる力の源とは何か(3)〜島根県邑南町商工観光課長 寺本英仁さん〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】
寺本英仁(てらもと えいじ)
島根県邑南町役場職員。1971年島根県生まれ。<A級グルメ>の仕掛け人として、様々な試みを行い、全国の自治体から注目される存在に。『NHK プロフェショナル 仕事の流儀』ではスーパー公務員として紹介された。
2018年には『ビレッジプライド 「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、2020年に藻谷浩介氏と共著の『東京脱出論』を出版。
【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。