三重県御浜町に住むと、太陽を反射してキラキラと眩しい海が見える。砂利の浜からは、波が押し寄せてくる度に「カラカラ…」と心地よい音がする。そして、この町に住むと、初めて知ることがある。
海は、見る度に色が変わり、幾重にも青があることを。
太平洋、熊野灘。この海の側、御浜町で9月上旬から収穫されるみかんは、青い。
手に持つと、青い色とは裏腹に、そのころんとした丸い優しい見た目に癒される。
食べてみると、酸味と甘みの程よいバランスが、初めて食べる者を虜にする。
甘味と酸味の絶妙なバランスを持ち、暑さ残る9月にぴったりの超極早生温州みかん。約3週間ほどしか流通しない、奇跡のみかんだ。
パリに似た、御浜町の暮らし
この奇跡のみかんを生み出す御浜町の朝は、どこかパリの朝に似ている。
パリジャンのモーニングルーティンは、近所の馴染みのパン屋に行って、バゲット(パン)を買うこと。老若男女、子供まで、毎朝買いに行く。それが日常であり、パリの文化でもある。
三重県南部にある御浜町でも、そんなパリの朝の一場面と似た日常がある。「年中みかんのとれるまち」御浜町のモーニングルーティンだ。
みかんと無人市のある暮らし
御浜町には、朝早くから車を走らせ、いきつけの無人市(無人販売所)でみかんを買う日常がある。
無人市は町内に点在しており、おもに道路沿いで車のアクセスの良い場所で見かけることが多い。
無人市で販売されているみかんは、いずれも市場には出回らない「規格外」とされているものがほとんど。形が不恰好だったり、小さすぎるもの、大きすぎるもの、傷があるものなどだ。
でも味に関しては、スーパーで売っているものに負けないくらい美味しい。種類や量にも寄るが、一袋200円ほどで販売されており、みかんの隣にある貯金箱にお金を入れて、持ち帰る。
御浜町のみかんの収穫時期は9月〜5月上旬。御浜町の特産品である「超極早生温州みかん」は9月上旬から町の無人市に並び出す。
そして9月下旬〜10月にかけては極早生温州みかんが流通する。
「こたつみかん」でおなじみの冬の「温州みかん」は11月〜12月が旬だ。そのあとは様々な種類の中晩柑が続き、「年中みかんのとれるまち」だけあって、1年を通してみかんを楽しめる。
色々なみかんを試す内に、品種や育てている農家による微妙な味の違いがわかってくる。そうして、お気に入りのみかんを見つけることができるになる。
毎日違う場所のみかんを楽しむもよし、お気に入りのみかんをリピートするもよし。
毎日みかんに出会える幸せは、この町、御浜町に住む人々の特権だ。
とにかくお手頃価格で、色々な農家のみかんを試すことのできる無人市。複数購入して、家に持ち帰って食べ比べを楽しむのもおすすめだ。(季節によっては、みかん以外にも野菜が並ぶこともある。安く野菜が手に入るのも、田舎暮らしの魅力だ。)
御浜町ならでは、みかん交換会のある暮らし
御浜町には他にもみかんの町ならではの独特の文化がある。
「自分の家で育てているから食べて」といって、親戚をはじめ、会社の同僚やご近所さんからみかんをもらう機会がとても多い。「これ何て名前?」「この間もらったみかん美味しかったよ」といった、みかんをきっかけとしたコミュニケーションが多いのも、御浜町民の特徴だ。
移住者で、なかなかみかん農家と直接ツテがなくても、大概どこかしらで繋がったりするのも、御浜町ならではかもしれない。
今日もまた、御浜町の無人市に、 一台、また一台と、車がひっきりなしにやってくる。
この町の日常には、みかんが溶け込んでいる。そして、御浜のみかんは、今日もささやかな幸せを運んでくれる。
海青し、風青し、みかんも青し
年中みかんのとれるまち、三重県御浜町。
▼愛知県から移住して、みかん職人になった寺西さんの物語▼
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