鍼灸師の森田千裕さんは、2024年7月末に娘さんと共に大熊町へ移住しました。関東での豊富な施術経験を経て、現在は出張施術を中心に、地域の人々の心身の健康を支える活動を展開しています。移住を機に「自分の人生と向き合う余白」を得たという森田さんに、大熊町へ来た経緯、具体的な活動、そしてこの町が持つ独自の魅力について詳しく伺いました。

大熊に移住した理由:自然豊かでのびのびとした子育てをしたかったから
鍼灸師として働いており、来年の4月で10年目を迎えます。鍼灸師を目指し始めたきっかけは、仕事で疲弊していた父にマッサージをしていた経験から、手を使った仕事、体を見ることができる仕事に就きたいと思いました。
また、美容やメンタルケア、スポーツなど、鍼灸師が多様な分野で活躍していることに憧れたことも、鍼灸師になったきっかけの一つです。移住前は関東地方(東京・神奈川)で活動し、新宿の美容鍼灸サロンや銀座の妊活専門鍼灸院、みなとみらいの内科併設鍼灸院などで幅広い臨床経験を積みました。ヘッドスパサロンの立ち上げに関わったこともあります。
大熊町への移住を決めたのは、離婚を機に子育ての環境を変えたいと思ったからです。関東にいた頃、娘はビルの中にある保育園に通っていたのですが、そのような環境とは真逆の「自然があり、子どもがのびのび育つ場所」で育てたいと考えました。色々な場所を調べている中で、学び舎 ゆめの森を見つけ、すぐに見学に向かいました。実際に大熊町を訪れた際、「前進するエネルギー」を肌で感じ、震災でゼロになった場所を自分自身と重ね合わせ、「ここなら人生の再スタートができる」と直感し、移住を決断しました。

ご縁によって紡がれるチャンス
移住後に「ユルメル整体」を立ち上げ、双葉郡内のご自宅や会社の事務所などへ訪問する出張施術を行っています。お客様はママさん、経営者、ご高齢の方など非常に広範囲にわたり、人との繋がりや口コミを通じて仕事を展開しています。仕事柄、さまざまな方とお話しさせていただくのですが、福島の皆さんは本当にあたたかくて、私自身のことも気にかけてくださることが多く、その優しさにいつも支えられています。

関東にいた頃と比べると、「挑戦できることの多さ」も強く感じています。「福島県12市町村起業支援金」にも採択され、都会ではなかなか形にしにくかったことが、さまざまなご縁の中で実現しつつあります。例えば、施術の時に来ていただく服(施術着)の素材について、「これでは癒されない」という違和感を抱いており、もっと柔らかく、着た瞬間から癒されるような服が欲しいと考えていました。大熊町でこの希望を口にしたところ、すぐに双葉町の縫製工場「ひなた工房」様を紹介していただき、現在は、オリジナルの施術着づくりに向けた一歩目を踏み出しているところです。東京では考えられないスピード感に驚き、ご縁の大切さを実感しました。今後は、この服を「ゆるめるケアの服」として、浜通り発の製品として医療施設などへ販売していきたいという構想も持っています。

また、施術活動に加え、地域の方々の健康増進のため、大熊町の交流施設「CREVA大熊」で「今のわたしと出会うセルフケアワーク」というワークショップを企画・開催しています。これは、日々頑張っている地域の方々に向けて、気軽に体を休め、自分の感覚に立ち返る時間を提供したいという思いで始めました。1回目のワークショップは「目をととのえる」をテーマに行ったのですが、男性6名、女性2名の計8名に参加いただきました。当初は女性参加者が多いと予想していたのですが、男性の参加者が多く、驚きました。11月20日に行った2回目では「休養」をテーマにしたワークショップを行いました。中通りから参加してくださった方もおり、町外の方にも関心を持っていただけたことがとても励みになりました。

今後は、このセルフケアワークをさらに拡大したいと考えています。アート、音楽、食といった文化的な要素を取り入れ、浜通りや福島県内の事業者と連携しながら、「五感で癒される」イベントとして大きく展開していくことが将来の目標です。
静けさの中で見つける「余白」
大熊町での生活は、もうすぐ1年半になります。私が感じる最大の魅力は、「人との温かい繋がり」です。移住者と町民の区別がなく、排他的な要素を本当に感じません。移住当初は不安もありましたが、仕事だけでなく、子どもを通じた出会いや日々の暮らしの中で関係が広がり、「ここにいると落ち着くな」と感じる場面が少しずつ増えていきました。
また、この町の静けさから得られる「余白」が、私にとってとても大切なものになりました。都会のせわしない生活から離れ、静かな環境で過ごすことで、「今後の人生をどうしていきたいか」を深く考えるようになりました。物がすぐに手に入らない環境もプラスに働き、衝動買いが減った結果、移住後に9キロ痩せるという予期せぬ嬉しい変化もありました。
一方で、生活の課題として、やはりスーパーマーケットが今はないことがあります。また、私の仕事柄、土日にお客様を受け入れたい場面も多いのですが、こども園以外の託児の選択肢がまだ少ないとも感じています。例えば、土日に習い事をしながら子どもを預けられる場所など、親も子どもも安心して過ごせる「もうひとつの居場所」が増えていくといいなと思っています。

移住を考えている方へのメッセージ
大熊町は、若者の移住者も多くエネルギッシュな町です。やりたいことを周りの人たちに素直に話してみると、応援してくれる人がたくさんいることに気づきます。物が少ないからこそ、新しいことに挑戦できる余地が大きいのも魅力です。今後、社会教育複合施設のような新しい施設も整備される予定で、町内外を含めてたくさんの人が訪れる場所になっていくはずです。
また、自分に本当に必要なものを取捨選択できる環境だからこそ、「自分と向き合う時間」をたっぷりと持つことができます。都会の生活に疲弊してしまった方、人生を見つめ直したい、何かを変えたいと思っている人に本当におすすめの町だと感じています。
特別な覚悟や大きな目標がなくても、ここで暮らすうちに、自分なりのペースで挑戦できる場所だと感じています。ぜひ一度、大熊町に足を運んでみてください。