「新しい旅と暮らしのライフスタイル『バンライフ』」をテーマに、本社が神奈川県にある、「キャンピングカー」と「車中泊スポット」のシェアリングサービスなどのプラットホーム事業を展開するCarstay株式会社(https://carstay.jp/ja)。
「キャンピングカーを購入したけど、利用するのは年に数回程度で、もったいない」「遊休地や施設の駐車場の一部を何かに活用できないものか」・・・こうした双方の悩みの解消に貢献してきた。
コロナ禍、キャンピングカーでの旅行スタイルは、密閉・密集・密接の「3密」を避けることができ、旅の新たな移動手段や「動くホテル」として需要が高まっている。
こうした状況のなか、「バンライフ」による滞在型の観光を定着させ、観光消費の増加を促進する、Carstay株式会社の取り組みを営業責任者の野瀬勇一郎さんに聞いた。

Carstay株式会社 営業責任者 野瀬勇一郎さん

どのような想いで「D-EGGSプロジェクト」に参加されましたか?

野瀬 今後、どのようにして事業を全国に拡大・定着させていくかが課題でした。どの地域がいいのか、いろいろと考えていたときに、以前、神奈川県三浦半島で実証実験を行った折に知り合った人物が「ひろしまサンドボックス~D-EGGSプロジェクト」にも関わっていたことから、この取り組みを知り、応募することにしました。早速、広島県について調べてみると、海側は「しまなみ海道」をはじめ観光資源が豊富な半面、山側は観光地として認知度が薄いことが分かりました。その理由は、二次交通の問題と宿泊施設が少ないことが要因だと分析。長期滞在する観光スタイルが比較的実現しにくいという課題が見つかりました。もともとキャンピングカーは車中泊滞在するためのツールなので、滞在型観光には一番向いています。そこで、シェアできるキャンピングカーを増やし、車中泊できる場所を増やせば、キャンピングカーのユーザーはもちろん、地元の方々にキャンピングカーの利用促進にも。結果的に、滞在型の観光を増やすきっかけづくりになるはずです。

実証実験の期間中、三原市役所他近隣のショッピングモールなどでキャンピングカーの展示イベントを行った。

広島県内で、あえて三原市を選んだのは、なぜですか?

―野瀬 今回のプロジェクトの誘致に手を挙げた自治体は幾つかありました。その中で、選ぶ判断基準にしたのが、キャンピングカーに対応できる道幅の広い道路が整備されているかどうか、海と山の両方の自然があるかどうか。とりわけ、地元で熱心に音頭を取ってくれる人がいるかどうかが重要でした。私たちプラットフォーマーは、移住して活動を継続していくことはできませんから。そう考えたときに、三原市経営企画課の清水さんに出会い、熱量のあるこの人なら一緒に進められると感じました。それが三原市を選んだ理由です。

フィアットのキャンピングカー。運転席を回転してテーブルを囲めばリビングに早変わり。

実証実験について教えてください。

野瀬 当初は、三原市を代表する祭り「三原やっさ祭り」を実証実験の場にと考えていました。参考にしたのは、徳島市の「阿波踊りキャンプ」です。阿波踊りの1日の来場者10万人に対し、宿泊施設が受け入れ可能な人数は最大で6000人と、ほとんどの人が泊まれずに帰るという状況を少しでも滞在型に転換するために、車中泊やテント泊を可能にするのが「阿波踊りキャンプ」です。同様に「やっさ踊りキャンプ」に200台、300台ぐらいまとめて車中泊してもらい、翌日も三原の地に滞在してもらうことで経済効果への影響を調査するのが狙いです。宿泊需要の高いときに実証実験するのが一番理にかなっていますから。ところが、コロナ禍で「三原やっさ祭り」が中止になり、方針転換。女性がキャンピングカーでの三原市の旅をどう捉えるのか、どう発信するのか、面白いと思うのか、多くの人々に共感を呼ぶのかなどを確認するために、広島県在住のカメラガールズ5人に、1泊2日の三原のキャンピングカーの旅を体験してもらいました。カメラガールズは、1万人のインスタグラマーが登録されているポータルサイトです。加えて、モニタリングツアーを3週連続で催しました。

キャンピングカーを通して、持続可能な車旅・車中泊・バンライフを介した観光・交流を提案するモニタリングツアー(佐木島)/画像提供:Carstay株式会社

モニタリングツアーはどのような内容ですか?

野瀬 1つは、佐木島でのキャンピングカーユーザー向けの離島体験。募集は、私が約2万人のキャンピングカーのユーザーに向けて、フェイスブックやインスタグラム、ツイッターやSNSへ投稿しました。参加したのは16組・45人。そのうち約7割が広島県在住、3割は静岡県浜松市、愛知県一宮市など県外からで、体験終了後にインフルエンサーとして伝えてくれる人たちでした。島では、カヤックやテントサウナを楽しむなど自然を満喫。バーベキューでは、地鶏や海産物を堪能していただきました。清水さんには佐木島および三原市のPRに協力していただきました。ほかの2つは、フォレストガーデンを利用したグランピングの雰囲気の中での車中泊体験と、農業体験と佛通寺での車中泊体験。どれも三原市にある施設を利用した「宝物探し」です。

イベントがきっかけでCarstayの事業を知り、イベントやモニタリングツアーにも参加しているインターン生。

あなた方の取り組みは、社会にどのようなインパクトをもたらしますか?

野瀬 キャンピングカーの文化が定着すれば、日本の旅はさらに楽しくなります。キャンピングカー登録のない車中泊に使われている車は全国で150万台から200万台。キャンピングカーの10倍以上です。そう考えると、日本に広げていく価値は十分にあります。今までは集約型の観光でしたが、今後は分散型の観光に。二次交通や宿が十分でない所に価値を与えることで、観光資源がより生かされるのではないでしょうか。それは私たちプラットホームがあるからできることです。これを広島県や三原発で実践し、中国地方へと拡げ、全国のスタンダードにしたいですね。

「キャンピングカー文化が定着すれば、観光資源がより生かされる」と熱く語る野瀬さん。

三原市内の事業者との連携を教えてください。

野瀬 今後、Carstayとしては、地域の体験を提供する三原市の株式会社KOTOYAと代理店契約し、最終的には株式会社KOTOYAに事業を任せます。カメラガールズも私たちが運用するよりも、地元に根付いた企業に任せたほうがいいと思います。地元で展開するプロジェクトは、地元の事業者が受け継がなければ絶対に定着しません。シェアリングも、彼らが集めてきた車や車中泊をする場所の売り上げが上がれば、彼らにパーセンテージが入るメリットがあります。私たちの役目は足がかりをつくること。この事業が定着するには、3年はかかると思います。来年こそ「三原やっさ祭り」で実証実験をやりたいですね。これで終わってはDXをやっている意味がありません。


三原市経営企画部経営企画課 総合企画係 係長 清水逸司さん

三原市には観光スポットが幾つもありますが、点在しています。それらをキャンピングカーがつないでくれるのではとの期待を込めて「ぜがひでも三原市で」と手を挙げました。佐木島でのモニタリングツアーにも家族で参加。イベントが各地で行われるにつれて市民の関心度も徐々にアップ。今回のプロジェクトがきっかけで、三原市の魅力を多くの人たちに知ってもらい、市内の事業者の事業収入につながればいいですね。Carstayさんにとっても、キャンピングカーで楽しめる場所が増えて、ウインウインの関係に。そうなれば定着に拍車がかかるのではないでしょうか。

広島県三原市で「三原車内寝泊計画(みはらしゃないねとまりけいかく)」について:

https://carstay.jp/ja/news/615667b7fb8f46f4b73e72e9

取材:舟木正明 撮影:岸副正樹