「相馬広域こころのケアセンターなごみ(以下、ケアセンターなごみ)」は、南相馬市、浪江町、飯舘村、新地町、相馬市で暮らす人の、心のケアを行っている組織です。看護師や保健師、社会福祉士など、医療・福祉関係の職種の方が日々、地域と医療との間で住民と向き合っています。
「言い過ぎかもしれないけど、ここで仕事をすれば、どこでも食っていけます。どこでも必要とされる人材になれる可能性が広がると思います」
そう話すのは、精神科認定看護師で、設立当初からセンター長を務める米倉一磨さん。そのゆえんは、「病気の治療」だけではなく「自助する力をつける」ことに伴走するから。南相馬市の事務所にうかがって、ケアセンターなごみならではの活動を聞いてきました。
何かあったら駆けつける「心の救急隊」
ケアセンターなごみの主な役割は、心のケアを必要とする人の地域生活をサポートする「個別支援」や、引きこもりの人が社会生活に復帰するための通いの場を作る「集団支援」など。看護師、保健師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士、社会福祉士などの国家資格を持つスタッフが活躍しています。
米倉さんは、ケアセンターなごみの役割についてこのように話します。
「(支援に)つながりにくい人を、医療や支援につなげる役割が大きいかなと思っています。世の中のスキマを埋める動きですよね。何かあったら駆けつけるような。何だろう…心の救急隊みたいな、そういう感じかな」
「つながりにくい人」とは、米倉さんいわく、障がいや疾患のある人。SOSを出せない、自分では声を出したくない人。支援の情報を知らない人。いわゆる、弱者と呼ばれる人のことだといいます。
「例えば、認知症になりかけていたり、おそらく障がいがある人で、自分では『そこまでじゃない』と思っている人。あとは精神疾患があって、近隣や家族の助けが必要な症状があるけど、支援が届いていない人。そういった方々のもとへ行き、本人の意思を確認しながらサポートする。必要であれば医療につなげる。そうした役割を担っています」
地域と信頼関係を積み重ねてきた12年
さまざまな方からの相談を受けているケアセンターなごみ。震災と原発事故の影響を受けた、この地域特有の課題はあるのでしょうか。そう尋ねると、「社会全体で起こっていることとあまり変わりはない」と、米倉さんは話します。
「SNSやインターネットが普及して便利になりましたが、私が思うに、便利=人とのつながりが薄くなる。身近な人に相談することができない世の中になっていると思うんです。昔は、失敗してもサポートしてくれる人ってたくさんいました。親切だけど、厳しくもあるような、一緒に考えることをサポートしてくれるおじさん・おばさんみたいな。でも、そういう人がいなくなっている。それ自体が問題だと思います。この地域では震災が一つの原因かもしれませんが、世の中全体で、そういう機関や人が減ってきているんです」
相双地域の大きな特徴の一つが、入院治療ができる精神科病院が限られていること。この状況に対応するためには、周りの気づきが必要だと米倉さんは話します。
設立から12年が経ち、ケアセンターなごみには、延べ1,000人から相談が寄せられました。
「震災直後は仮設住宅を回る生活相談員さんとか、ケアマネージャーさんなどの支援者経由で相談が寄せられることが多かったのですが、近ごろはご本人や、ご家族や、その周囲の人から直接相談を受けることが増えてきました。私、断ったことってないんですよ。困難といわれるような問題に向き合い続けているうちに、『ここではこういうことをやってくれるんだ』っていうのが、だんだんと地域に浸透してきつつあるのかなと思います。
この地域では震災があったので、たまたま我々みたいなものがなんとかつなぎ役になっています。しかし、全国的にみると、試行錯誤できていない部分が大きいと思うんですよね。本当は、全国にケアセンターなごみのような場所が一つあると、うまく機能できるじゃないかと思います」
病気の有無にかかわらず、支援できることがやりがい
ケアセンターなごみの一日は、米倉さんがスタッフ全員に入れる1杯のコーヒーで始まります。そして、8時30分から朝のミーティングがスタート。30分から1時間ほど、担当する利用者さんの状況を報告し合ったり、適切な支援について意見を交わしたりする、特に大切にしている時間です。
ケアセンターなごみでは、求人の応募後に職場見学を必須としています。2023年10月に入職した看護師の川野さんと、2024年4月に入職した精神保健福祉士の栗田さんは、見学でこのミーティングが特に印象的だったと振り返ります。「皆さんがすごく自由に発言して、なんでも話し合える空気感があって、働きやすそうだと感じました」と川野さん。
栗田さんは「話すことで頭の中で整理ができますし、いろんな意見を聞くことで新しい方向性に導いてもらえると感じています。一人で抱え込まずに済む。これまで精神医療に携わってきた中でも新鮮で、チームの魅力の一つです」と語ります。
川野さんは神奈川県川崎市の、栗田さんは栃木県の精神科単科病院で勤務し、ケアセンターなごみに転職しました。ともに、個別支援や集団支援を中心に担当しています。
今年52歳になる川野さんは、「残りの看護師人生は地域で働きたい」という思いをかなえるために転職。病院での患者さんとの関わりは退院したら終わりになりがちだったと振り返りますが、入院前の段階から地域で暮らす人々のケアに携われることに、やりがいを感じているといいます。
「個別支援では、健康面などに少しずつ変化がでてきた利用者さんや、気をつけて見てなければいけないポイントに気づけた利用者さんが何人かいらっしゃって。多くのスキルが必要となる仕事ですが、それを学ぶこともやりがいです。ある保健師さんからの話だと、東京ではうちのようなことまでやれる地域資源はなかなかないのだそう。果たす役割は大きいとは思いますし、地域で力を発揮したいと思っている方にとっては、とても良い環境なのかなとは思います」
栗田さんは福島県出身で、大学時代の講義でケアセンターなごみのことを知りました。Uターンして地域に根差した精神医療に携わりたいと入職。「本人だったり、家族だったり、地域の支援者だったり。ケースや人を選別せず、病気のあるなしにも関わらず、困っている人のところに行く支援の仕方は、すごく自由度が高い」と語ります。
ただ、それゆえの難しさも感じているのだそう。「病院勤務時代も訪問看護にも携わっていましたが、ある程度診断や医師の見立てがある状態で行くので、訪問先でどう動くかイメージがつきやすかったんです。でも、ここでは利用者さんに病気があるかないか、能力がどのぐらいあるのかもわからない状態で会いに行くので、自分で一からアセスメントしていかないといけない。難しいけど、やりがいも感じます」
枠を超えた発想ができる人になれる場所
ケアセンターなごみでは現在、看護師、保健師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士、社会福祉士の6つの職種で求人を募集しています。日勤のみで、完全週休2日制。残業も月10時間以内で、ワークライフバランスがとりやすい環境のよう。通勤手当は2キロ以上から全額支給で、福島12市町村内からの通勤はすべて対象になります。住宅手当は1万円で、副業も可能です。
最後に、いまどんな人材を求めているのか米倉さんにお聞きしました。
「ここでの仕事は、利用者さんの能力や、利用者さんの中でいま起こっていることを正確に判断して、どんな支援が成長につながるのか、考え続けることが求められます。ただ『相談してくれてありがとう』だけじゃなくて、時には『ゆくゆくは今できないことを見つめて、変えていくことが必要だよ』と、厳しく接しなければいけない時もあります。働いてみればある程度つかめるとは思うのですが、病院や福祉事業所などの枠を超えた発想ができる人が良いですね。ある人を『助けたい』という思いを、本当にその人に必要な支援を見極めながら、実現していける人材に来ていただきたいです」
ケアセンターなごみの活動に密着したドキュメンタリー映画「生きて、生きて、生きろ。」が2024年5月末に公開されました。この作品では、避難先で息子が自死し、自分自身を大切にできる状態ではない「セルフネグレクト状態」にあった南相馬市の男性に向き合う、米倉さんとスタッフの姿を追っています。
6月9日に福島市で開かれた舞台挨拶で、米倉さんはこんなことを話していました。
「こういう仕事はないほうが良い。それでもやっているのは、関わり方次第で利用者さんの人生が変わるとわかったから。人の人生を良い方向に変える仕事は面白くて、それでなんとか続けてこられたんです」
人と向き合い、人の心を支える仕事は、その地域にいる人でしか担えないものです。利用者一人ひとりに向き合い、ともに歩むケアセンターなごみの仕事に興味をお持ちになったら、まずはぜひ見学の申し込みをしてみてください。
相馬広域こころのケアセンターなごみの求人はこちらでご紹介しています。
https://arwrk.net/recruit/sousouseishinkairyouhoken
■相馬広域こころのケアセンターなごみ 南相馬事務所
2012年1月に設立されたNPO法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会が運営。南相馬市と相馬市の2ヵ所に事務所があり、職員数は約20人。南相馬事務所では、ケアセンターなごみと「訪問看護ステーションなごみ」の2つの事業を展開している。
所在地: 〒975-0007 福島県南相馬市原町区南町3丁目2-7
TEL:0244-26-9353FAX:0244-26-9367
https://soso-cocoro.jp/
※所属や内容は取材当時のものです。最新の求人情報は公式ホームページの採用情報をご確認いただくか、直接お問合せ下さい。
取材・執筆:五十嵐秋音
※本記事はふくしま12市町村移住ポータルサイト『未来ワークふくしま』からの転載です。