世界最大級の渦潮で知られる徳島県鳴門市。

ここに、それぞれの想いを胸に集った6人の若者がいた。

見知らぬ土地で働き、暮らす7日間。

初対面の彼らの心を繋いだのは、ささやかなアクシデントと、互いを思いやる温かい気持ちだった。

これは、短いけれど濃密な交流の記録。

 

◇鳴門市で「暮らしながら働く」おとなのおしごと体験

 

徳島県鳴門市では、移住コンセプト「半農半X」を掲げ、移住交流を推進しています。

その一環として令和8年3月、「おとなのおしごと体験」が実施されました。

市内の食品製造・加工事業所の人手不足解消とUIJターン促進を目指すこの事業。

全国から集まった参加者は、1週間の滞在中、シェアハウスで暮らしながらフルタイムで働き、鳴門市での生活を体験します。

今回参加したのは、愛知、長野、滋賀、愛媛などから集まった10代から30代の男女6名。

 

大学生、転職活動中の社会人など、背景は様々。彼らが過ごした、短いけれど忘れられない7日間が始まりました。

 

道の駅くるくるなるとでの1枚

 

◆始まりは、夕暮れの自転車練習

 

初日、高速バス乗り場や駅からピックアップされた6人は、一台の車で宿舎へと向かいます。

車内では、年齢が近いこともあり、すぐに会話の花が咲きました。初対面とは思えない和やかな空気の中、シェアハウスに到着です。

 

荷物を置くと、まず一つの部屋に全員が集合。自己紹介や参加の動機を語り合ううちに、さらに打ち解けていきます。

そんな中、一人の参加者が不安そうに切り出しました。

 

「実は、自転車の運転に自信がないんです……」

 

滞在期間中、鳴門市での主な移動手段は自転車。

一番遠い職場までは約5kmほどの距離があり、自転車運転は必須です。

スタッフはバスの時刻を調べるなど、万が一の策を準備していましたが、その心配は不要でした。

 

「じゃあみんなで練習しに行こうよ!」

 

誰かの一言で、6人は一斉に外へ。

日が暮れ始めた駐車場で、即席の自転車教室が始まりました。

 

※画像はイメージです

 

全員でサポートし見守る中、数十分後には安定して走れるように!

 

そして、そのまま6人で自転車を漕ぎ、鳴門の街へ夕食に繰り出したそうです。初日から生まれた強い絆。最高のスタートが切られました。

 

◇「仕事終わりに寄るね!」それぞれの現場、ひとつの想い

 

移動日と休業日を除くと、実質3~4日間のおしごと体験。参加者は2人ずつ3つの事業所に分かれ、それぞれの現場へ向かいます。

 

  • 有限会社ことらや(和菓子製造): 加藤さん、武田さん
  • 株式会社丁井(食品製造): 棚橋さん、鈴木さん
  • 株式会社マリン大王(水産加工): 有山さん、窪池さん

 

武田さん(左)と加藤さん(右)(有限会社ことらや)

棚橋さん(株式会社丁井)

鈴木さん(株式会社丁井)

窪池さん(左)と有山さん(右)(株式会社マリン大王)

 

 

特産「鳴門わかめ」の収穫最盛期と重なった株式会社丁井の二人は、ある日、早朝から海に出て収穫作業を体験。その分、仕事が早く終わりました。

 

「今日、お仕事終わるの早いから、仕事帰りにお店に寄るね!!」

 

そう言って、棚橋さんが向かったのは、和菓子製造の「ことらや」。

残念ながら、加藤さんと武田さんはお仕事が忙しく会うことはできませんでしたが、二人が働いているお店の雰囲気を感じられ、人気の和菓子も購入することができました。

 

「うちは無理だからね」

 

また、水産加工の「マリン大王」で働く有山さんからは、やんわりと断られたそう。

それもそのはず、工場内は徹底した衛生管理下。部外者は立ち入ることができません。

それは、食の安全を守る企業の真摯な姿勢の証でもあります。

 

4日間という短い期間の中、互いの仕事に興味を持ち、労い合う。

そんな温かい交流が、彼らの間にはありました。

 

◆旅先で出会う、それぞれの文化

 

体験期間の中日(なかび)には、鳴門市の魅力を巡る「鳴門プレミアムツアー」が開催されました。

四国八十八箇所一番札所の霊山寺や大塚国際美術館、うずしお観潮船など、名所を巡る一日です。

 

四国八十八箇所一番札所の霊山寺を訪れた時のこと。

愛媛県出身の武田さんが、山門脇の「参拝俳句投稿箱」を見つけました。

 

「あ、俳句の投稿箱だ。投稿しよ~」

そう言うと、ごく自然にペンを取り、さらさらと一句詠み始めます。

ものの数分で書き上げ、投函するその姿に、他の参加者もアテンド役の市職員も驚きを隠せません。

「かっこいい!」「愛媛では普通なの?」と感嘆の声が上がります。

 

俳句が日常に根付く文化で育った武田さん。

彼女にとっては当たり前のことが、他の人には新鮮な驚きとして映ります。

 

また、世界最大級の渦潮を楽しめるうずしお観潮船アクアエディでは、海外生活経験のある鈴木さんが外国人観光客とスラスラと英語で会話する一幕も。

多様な背景を持つ人々が集う観光ツアーは、鳴門市の魅力あふれる観光資源と相まって、私たちが持つ「あたりまえ」を揺さぶり、視野を広げてくれる豊かな出会いに満ちていました。

 

アオアヲナルトリゾート内バイキングレストラン「阿波郷土料理 彩」でランチを楽しんだ後の1枚

 

道の駅 くるくるなるとで、自分たちがおしごと体験をしている事業所のおかしを見つけました!

 

鳴門市ドイツ館にて

 

大塚国際美術館にて

 

 

◇またね、と交わすピザの夜

 

あっという間に過ぎた7日間。

最終日の夜、シェアハウスの一室で「お別れピザパーティー」が開かれました。

各部屋から料理や食器などを持ち寄り、テーブルにはデリバリーのピザが並びます。

 

そこにもう一品。

株式会社丁井で働いた鈴木さんが、会社からおすそ分けしてもらったという新鮮な「鳴門わかめ」を手に、「これで刺身を作ります!」と腕を振るってくれました。

コリコリとした歯ごたえと磯の香りが口いっぱいに広がり、歓声が上がります。

 

食べやすい大きさにわかめを切る鈴木さん

 

ピザ以外にも、持ち寄ったおかしや料理などがところ狭しと並ぶ

 

乾杯は棚橋さんが持ってきてくれた阿波番茶で!

 

棚橋さんご持参の阿波晩茶で乾杯し、7日間の思い出話に花を咲かせる6人。

「和菓子づくり、奥が深かった」

「ワカメ収穫、大変だったけど楽しかったな」

「次はプライベートで来たいね」

 

就職や生き方を模索する中でこの体験に参加した彼ら。

ここで得たのは、仕事のスキルだけではありません。

 

偶然の出会いから生まれた絆と、温かく迎えてくれた地域の人々の記憶。

そして、鳴門という「また帰ってきたい場所」。

名残惜しさはありつつも、その表情は晴れやかでした。

この濃密な7日間が、彼らの未来をきっと豊かに照らしてくれるはずです。

 

さよならではなく、「またね」と笑い合う声が、鳴門の夜に響いていました-----

 

最終日、お別れの前の宿舎での1枚

 


■鳴門滞在中の様子を収めた動画はこちらから!