【特集の主旨】
自治体間の移動が解禁され、観光地には近隣からの客も少しづつ戻ってきたと思っていたのも束の間、また徐々に感染者数が増えている。ウィズコロナ生活の出口が近くないことを思い知らされ、毎年繰り返される水害のニュースと重なって、暗澹たる気分が社会を覆っている。多くの人がまだしばらく続きそうなコロナとの戦いと、”新しい生活様式”のあり方を模索している中、様々な情報を重ね合わせ私達の経験値や考え方も折込みながら、自治体や地域の事業者が考えるべき課題や取るべき戦略を考察してみた。


この特集で何度も言及しているように、今回のコロナ禍で起こった最も大きな変化が「テレワークの急速な普及」だ。最初の記事「(1)大きく変わる関係人口創出のシナリオ」でもそれに触れ、関係人口創出の入口となると論じた。

このポイントを、地域の人材の課題から掘り下げてみようと思う。

 (※前の記事 [【特集】アフターコロナの地域戦略〜(6)マイクロツーリズムの鍵は「ワーケーション」への対応になる〜] はこちら。)

地方の「デジタル化」の最大の壁は人材

先月6月22日の経済財政諮問会議の場で安倍首相から示された「骨太の指針」は、その冒頭に「デジタル化」という言葉が掲げられた。(出典:日経新聞6月23日「デジタル化へ規制見直し コロナ後にらむ骨太方針骨子」より)。確かに今回はある意味非常に「分かりやすく」海外と比較され、日本のITの遅れが深刻だという認識が広がった。IT化/デジタル化は必要だとは思いつつ、まあいつかできるところまでと思っていた悠長な感覚は、官民問わず吹き飛んだ。ある意味「死活問題」というレベルでその認識が広がったのは、もしかしたらこのコロナ禍での「不幸中の幸い」と言ってもいいかもしれない。とはいえ実態としてその遅れ度合いは深刻で、改善に至る道は前途多難だ。

地方の自治体や企業にとって、その問題の入り口はやはり「人材」に違いない。

職種を問わず多くの人材を都市部に吸い上げられ、育成の機会を作るのも難しい中、こと「IT」「デジタル」という分野ともなれば事態はなおさら深刻だ。

しかし、どうしようもないと思われていたこの課題にコロナショックが思わぬ方向で変化を誘発し、地方にとって大きなチャンスが舞い込む可能性がでてきている。

テレワーカーが「仕事を持って」地方にやってくる

私が考えるシナリオはこうだ。

このコロナの後、本格的な不景気が訪れることは避けられないだろう。都市部の大企業でも、オフィスコストや人件費の見直しが大きな課題になるに違いない。そんな中、ただ単に「リストラ」を断行せざるを得ない状況に追い込まれる会社だけでなく、ほぼ全ての企業がより筋肉質な体質を志向するだろう。そこで着目されるのが、テレワークを最大限に活用した「ワークシェアリング」だ。
今まで例えば600万円の年収で雇用していた従業員の仕事が「テレワークでも実行可能」だとわかった場合、それを250万円×2名のテレワーカーに分割して任せる方が効率的だということは十分ありえる話だ。この場合、要らなくなったオフィスコストの削減分も考えたら、人件費の差額(600万-250万×2名=100万円)以上のコストダウンが見込める。こう考えて組織体制や役割分担を大きく変化させる企業は決して少なくないはずだ。金額については、あくまで極端に説明しやすくしたまでだが、今後こうした動きが広がっていく可能性は非常に高いと見ている。

この場合、当然そうした仕事に従事する側のテレワーカーは、どこに住もうが問題ない。今や都会でなくてはいけない理由が少ないと気づいた人たちにとって、地方移住は一気に現実味を帯びることになる。ただしいくら地方での生活コストが低く済むといっても、さすがに年収600万が250万になっては生活が成り立たない。そこで、同様の仕事を複数こなすパラレルワーカーが増えてくるはずだ。仮に250万の仕事を2つこなせる確証が得られれば、年収500万。実はほとんどの地方で、それで都会よりも豊かな生活が営める場合が多い。更に金額に関わらず地元のために自分の能力を活かせるような仕事ができたり、場合によっては自分の夢だったカフェや民泊などを営むことができたら・・・。忙しいのは間違いないが、実質的な年収も以前と変わらないレベルも不可能ではなく、金額だけでなく内容面から見れば、その人の人生はかつてないほど充実するに違いない。

実は、こうしたライフプランは「絵に描いた餅」ではなく、実際にはすでに実現している人がどんどん出てきている。私の周辺にもそういう人が実際に数多くいるし、各地で出会う人の中にも既にそれを実現している人も、それを目指して頑張っている人も、かなりの数いるのだ。そしてウィズコロナの社会環境の変化の中で、そうした人たちの数は増えていくに違いない。

受け入れ側の対応の3つのポイント

これに対して、地方自治体や地域事業者はどのような受け入れ体制を備えるべきか。それには以下の3つのポイントがあると考えられる。

①まずは「テレワーク可能」な環境づくりを

最初に着手すべきは、当然のことながら、テレワークができる環境を整備することだろう。都市部に比べるとまだまだ地方ではテレワークそのものの普及が遅れているのが一般的だ。オフィス環境はもちろん、受け入れ側の仕事自体も「テレワーク可能」にすべきだろう。そうすることで都市部からのテレワーカーとの接点を広げ、仕事に対する感覚を共有する基盤ができる。

②副業兼業可能な仕事を増やす

前述のシナリオどおり、テレワーカーは複数の仕事をこなすことが前提となる可能性が高い。地方ではまだまだそうしたことを許容する職場や仕事は多いとは言えない。この感覚を早急に変え、特に専門性の高いものだけではなく、できるだけ広い職種や職場で、副業・兼業を受け入れる土壌を作るべきである。

③ジョブ型雇用を推進する

昨今、急速に目にする事が多くなったこの「ジョブ型雇用」という言葉。これはまさしく専門性を持った人材を、そのスキルを基盤に雇用する形で、諸外国ではこれが中心だ。よく日本の「一般職」に代表される「メンバーシップ型雇用」と対比される。(参考:matsurika times「ジョブ型雇用で自分のスキルや能力を最大化」)IT化人材はもちろん、マーケティングや広報、さらには人事や総務、経理などの事務系業務も、実はこうした雇用でまかなえる職業になっていくだろう。自治体職員でも、また地域おこし協力隊などのいわゆる臨時職員的な役割の人材も、こうした考え方で雇用する制度を早急に整えるべきだ。また民間企業も、特に規模が小さい企業ほど、この雇用によって今まで大きなハンディキャップだった採用における地理的なデメリットが大きく改善できる可能性すらあるのだ。

以上の3つを同時並行ですすめることで、都市部からのテレワーカーを効果的に呼び寄せることが可能となる。できれば「移住」を前提とせずにこの受け入れ体制をすすめることが、まさに関係人口と、人材供給の両面を同時に解決する鍵となるに違いない。

地方自治体の「面」の訴求が鍵

そ-
こうした考え方で雇用環境の整備する機運は、早晩各地で広がっていくだろう。既に私自身が見聞きする周辺でも、あちこちでそうした動きの兆しが見え始めている。そうなってくるとやはり大切なのは、一定の広さの「面」でその動きや活動を広く知らしめることだろう。できれば単独の市町村ではなく、複数の自治体が一体となった地域や、あるいは県などのより広い「面」でのプロモーションが理想的だ。

決して煽るつもりは無いのだが、現実問題としてこうした動きも含めて「地域へのフォローの風」が吹く反面、どうしてもそれを受けようとする側の「地域間競争」にならざるを得ないのもまた事実だ。地域毎の特色をうまく取り入れ、都市部の人材から地方への関心が急速に高まったこの時期にいかに早く動ける、またそれを少しでも大きく広げられるかが鍵となるだろう。そしてそのスピードやセンスが、将来の地域の人材面の「格差」を生む岐路になる可能性は十分にある。

文:ネイティブ倉重

【著者】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
愛知県出身。早稲田大学 第一文学部 社会学専修 卒業。金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門ベンチャーに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングや、ブランディング戦略、サイトやコンテンツの企画・プロデュースに数多く携わる。関連会社役員・事業部長を歴任し、2012年より地域の観光振興やブランディングを目的としたメディア開発などを多数経験。2016年3月にネイティブ株式会社を起業して独立。2018年7月創設の一般社団法人 全国道の駅支援機構の理事長を兼務。

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移住や2拠点・多拠点生活など様々なスタイルで、地方で新しい生き方をスタートさせる人が増えたり、オンラインコミュニティを活用し、地方から多くのつながりを作る事例も生まれています。対談やインタビューから見えてくるリアルな声をお届けします。