「地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋」、第四回は、島根県邑南町の商工観光課 寺本英仁課長です。
最終回は今後変わっていく都市と地方の価値について、そして話題を呼んでいる寺本さんの新著についても語っていただきました。

1本めの記事はこちら
地域を変化させる力の源とは何か(1)〜島根県邑南町商工観光課長 寺本英仁さん〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

2本めの記事はこちら
地域を変化させる力の源とは何か(2)〜島根県邑南町商工観光課長 寺本英仁さん〜【地域のキーマンに聞く「新しいニッポン」への道筋】

コロナ禍中のオンライン対談で生まれた『東京脱出論』


倉重:新著『東京脱出論』を読ませていただきました。2020年5月ぐらいにzoomで藻谷さん(藻谷浩介氏:地域経済、観光、人口動態を専門とする地域エコノミスト)と対談した内容で出したそうですね。

寺本:面白かったでしょ?(笑)

倉重:面白かったです。(笑)
私は寺本さんの顔を思い浮かべられるので、余計に。また対談相手の藻谷さんの感覚や価値感にはすごく共感しました。

寺本:僕と藻谷さんが、まず共通して言いたいのは、「共同主観」の中に生きる危うさですね。田舎より都会のほうがいいとか、一番売れているジュースがやっぱりいいだろうとか、どうしても多数意見に引きずられてしまうのが人間です。みんなが考えていることが自分にもいいとは限らないのにね。
このコロナ禍中も、特に初めの段階はメディアが感染者数だけを過度に報道しすぎて、本当に中止すべき重傷者数などに目が向くまで時間がかかったという点を問題視している人もいますよね。もちろん初めての経験なので仕方ない部分もあったとは思いますが、そうしたことに大きな影響を受けた人も多かったのも事実です。もうちょっと、みんな冷静に本質的な観点に立てたのではないかなと思います。

倉重:それは本当にそうですね。

寺本:「共同主観」つまり「世の中の当たり前」だけを盲信してしまう危うさは、もしかしたら生きるチカラを減らしてしまっているのかもしれませんね。

倉重:あと2〜3冊本が書けそうですね!、ネタいっぱいありますね。この本、そこまでは書いてなかったじゃないですか。

寺本:そうそう。実はこの本の前は、ビレッジプライドを題材にし小説を書こうかと思ってたんですよ。(笑)でもこちらをまず出した方が社会的に意義があるんじゃないかって。

倉重:小説ですか!それはまたすごい!気になりますね。どんなストーリーなんですか?

寺本:ビレッジプライドがあまりにキレイに見えすぎたんで、自分の中ちょっと根性汚い部分を主人公にしてみようかなと。(笑)

倉重:マジですか!!それは、ちょっと楽しみなだな〜(笑)

寺本:まだいつ出せるかはわかりませんが、落ち着いたら考えてみようと思います。

コロナ禍で逆転した、都市と地方の価値

倉重:新著にもあったんですけが、邑南町の価値というのが、コロナで大きく変化しているというか、その価値がますます高まっているとお考えのようですね。改めて寺本さんから見て、いわゆる大都市圏のライフスタイルや生活は、どんなふうに見えますか?

寺本:いや、今となっては、何をもってまだ東京にいるんですか?という気持ちもありますよね(笑)。

倉重:はははは。「まだ東京で消耗してるの?」っていうやつですね(笑)!

寺本:いまやこうしてオンラインでインタビューも、会議も、対談して本も出せるわけです。

倉重:まったくですね。我々も各地の自治体の皆さんとも、今やオンラインが普通になってしまいました。信じられないことです。

寺本:やっぱり講演会とかコンサートは、リアルがいいなって思いますけどね。

倉重:それはそうですよね。人の「オーラ」みたいなものは、まだ今の技術ではやっぱり感じられないんですよね。

寺本:何回か会った人となら問題ないんですけどね。初対面が難しいですよね。
でも、東京への出張も5回あったのが1回になるっていう感じですかね。

倉重:そう思います。それは確実に。様々なことがオンライン化されるのは間違いないですね。
地方の行政もしかりですね。ふるさと納税なんかも伸びるんじゃないでしょうか?

寺本:そうなんです。邑南町は、去年のふるさと納税寄付額の実績が1億6千万円ぐらいでした。今年は2億円くらいいけるかもしれません。

倉重:そうなんですか。急速に伸びてますね。やっぱりコロナになって、ふるさと納税の重要性は上がってくると思いますか?

寺本:景気が悪くなるとふるさと納税が集まらないのではという人もいますが、僕はそうはおもわないんですよ。逆に伸びるんじゃないかと。

倉重:私もそう見てます。

寺本:ですよね。やっぱりメリットが大きい制度ですからね。特に高額品や、定期的に送るお米や肉などのセット商品が伸びています。木製の「すのこベッド」なんかも伸びてますね。いいものをつくる事業者が邑南町にあるんですよね。

倉重:そういう地域の隠れた逸品に火を付けるのは、ふるさと納税の役割として重要ですよね。

寺本:そうですね。そこでも「A級グルメ」というブランドをもっている邑南町は有利だなと思います。ふるさと納税でも、薄利多売でやっているところは結構つらいんじゃないかと。

倉重:確かに。そうかもしれませんね。

これからの地方はどう変わっていくのか?

倉重:改めてうかがいますが、アフターコロナというか、コロナ禍があるていど収束した後ってどうなると思われますか?。邑南町はどうなるかっていうところもあるし、やっぱり移住者が増えるのかどうなのかっていうところもあると思うんですけど。

寺本:いや、実際にはそれほど大きくは変わらないと思いますよ。

倉重:そうですか?!それは意外な言葉だな。

寺本:いや、その変化がどの程度になるかということは、実際にはわからないんですけどね。ですが、本にも書いてるんだけど、コロナで世の中が変わるんじゃなくて、コロナがあったことに対して自分が変わらなければいけないんですよね。

倉重:たしかに。本当にそうですよね。

寺本:それに気づく人がどれだけいるかっていうことであって。

倉重:そういうことですよね。

寺本:だからその境遇に置かれて、個々がどう思う、どう考えてどう行動するかということが大切なんですよね。コロナが世の中をいいように変えてくれるということはないと思います。そうじゃなければ、やっぱり「共同主観」に振り回されて、結局はいい人生を送るきっかけを見逃してしまうんじゃないかと。それはコロナ前も、今も同じだと思います。

倉重:全くおっしゃるとおりです。

寺本:それをコロナがあったり次の地震があるから、自分はどこかに避難しておきたいとか、2地域居住してみたいねとか、移住したいねっていうのは、自分が考えるしかないわけですよね。そういった中では、もっと主観を持っていくっていうことがすごく大事。自分はどうなのか、どう生きたいのかってことをやっぱり常に問いかけれるような人間になっていく方が、幸せっというか、いい人生を送れるんじゃないでしょうかね。

倉重:新著の藻谷さんの後書きも、そういうメッセージがすごく力を込めて書かれていました。あのメッセージは、本当にズシンと来ましたね。こういう大きな災禍はまた起こるはずだと。いつの世も、人類の歴史はそういうものだと。心しないと、大きな変化を見逃してしまう。それはすべて個々人考え方、捉え方次第だと。

寺本:本当にそうだと思います。だからこのコロナ禍も、やがては何もなかったような世の中になると思います。もちろんある程度は変化するとは思いますが。

倉重:確かに東日本大震災のときも、直接被災した方以外は、ある意味そうでしたよね。

寺本:人は忘れますから。東日本の大震災でも、今回のコロナも、やっぱり何かに気づかないといけないんです。気づく自分になれるかなれないかっていうことですね。99%の気づかない人になるのか、1%の気づく人になるのかというのは自分次第。

倉重:そうですよね。

寺本:僕は実は都会好きなんですよね。50歳くらいまでは都会で楽しんでいいんじゃないかと思うんですよ。でも僕らぐらいの年代になったときに、どっちがいいって言ったときや、さらに60、70、80、90代になることを考えると、やっぱり地方のほうがよくなってきます。

倉重:それはそうですよね。

寺本:人生100年時代の、前半50歳までは都会暮らし、それ以降は地方にちょっと関係人口として絡んだりとか、旅行で何度も通いながら、最終的にはどこか地方に拠点を持つってことがひとつ、自分がいい人生を送るためには、大事なことじゃないかなと。

倉重:たしかに、それはありますよね。そういうぐらいの考え方でいた方が、みんな考えやすいかもしれないですよね。

寺本:いやーだって、80歳90歳で東京での自分を想像するの、恐ろしくないですか?(笑)

倉重:そうですよね。やっぱり歳を重ねても人や地域に関わり合いが持てる社会というのは、なかなか大都市じゃ難しいですしね。

寺本:そうですよね。だから社会資本力っていうのがこれから大事になってくるんでしょうね。

倉重:そう思います。

寺本:今までほど「消費」だけにこだわることに価値を感じない時代になってきているんでしょうね。で、何に価値を感じるかといえばやっぱ繋がりでしょうね、やっぱり一つは、ないものねだりしちゃいけないよっていうことで、冷蔵庫にあるもの中で調理しましょうという考え方が大切ですよね。

倉重:なるほど。なるほど。

寺本:そのなかでどうやってうまく地域を回せるかっていうのがすごく大事で、ない食材を言ってたってしょうがない。あるなかでどうやってうまく料理ができるかってことが大事じゃないかなと思いますね。

倉重:そういう意味では、そこをうまくやって地域を料理している、寺本さんが一番の腕利きシェフっていうことですね(笑)

寺本:いえいえ、やっぱりなかなか難しいこともありますが、プラスとマイナスでどうやって組み合わせていくかですかね。

アフターコロナの邑南町、これからの道

倉重:寺本さんとして、これからどういうことに注力していこうとされているですか?

寺本:やっぱり僕は、誰1人取り残さない町っていうのはやりたくて、そういった意味ではお話したように、町民全員がプライドをもてるようなことを大事にやっていきたいなと思っています。

倉重:はい。

寺本:8050問題とか、7040問題とか、いわゆる「引きこもり」や「老老介護」というような問題が話題になっていますよね。邑南町にも同様の課題はあります。そういう課題に対しても、A級グルメの活動を繋げていきたいなと。ある程度年齢がいった方への仕事につながるようなことができたらいいなとかですかね。

倉重:なるほど、なるほど。

寺本:そういうことをやっていきたいなと思ってますね。

倉重:A級グルメのまちの連合も、これから益々加速されていくんですか?

寺本:この1年は、やはりコロナで思うように進められませんでしたが、連合としてもしっかり発信していきながら、A級グルメの取り組みを全国に広げていきたいなというふうに思ってます。

倉重:邑南町の活動や、寺本さんが作ってこられた仕組みを、他の地域にも広げる取り組みをされているわけですからね。これは本当に意義が大きいことだと思います。私達も機会があればぜひ何かお役に立てればと思っています。今日は本当にありがとうございました。

寺本:いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしています。

<インタビューのハイライト動画はこちら>

寺本英仁(てらもと えいじ)
島根県邑南町役場職員。1971年島根県生まれ。<A級グルメ>の仕掛け人として、様々な試みを行い、全国の自治体から注目される存在に。『NHK プロフェショナル 仕事の流儀』ではスーパー公務員として紹介された。
2018年には『ビレッジプライド 「0円起業」の町をつくった公務員の物語』、2020年に藻谷浩介氏と共著の『東京脱出論』を出版。

【インタビュアー】ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重 宜弘(くらしげ よしひろ)
金融系シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャーに創業期から参画。大手企業のネット戦略、Webプロデュースなどに数多く携わる。2012年に北海道の地域観光メディアを立ち上げたのをきっかけに、2013年「沖縄CLIP」、2014年「瀬戸内Finder」を手がける。2016年3月、地域マーケティング専門企業「ネイティブ株式会社」を起業し独立。