東京の価値観に、違う視点を届けたい

そうして、うなぎの寝床に転職した渡邊さん。現在は前述のような仕事を担っているが、彼女の核にはどのような想いがあるのだろうか。

「今でこそ東京に面白さを感じることができていますが、かつてはずっと外からの刺激を求めて海外に出よう出ようとしてきたので、私にとって東京で働くことって、一歩戻るみたいな気持ちがちょっとあったんです。東京の価値観に対して、もっと違う世界もあるよって伝えたいというのが、仕事のモチベーションにもなっていて。今、地方で働いているのは、地方の職人さんたちの声を東京に届けることがモチベーションになっているからですね。」

様々な国、地域で生活し、社会人類学を通して地域ごとの特色を掘り起こすことを学んだ渡邊さん。九州、福岡という地にこだわりを持っているのかと思えば、彼女の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。

「場所はどこでも面白いなと思って。一箇所だけが素晴らしいと思わないし。」

八女は八女で一つの面白い地域と捉え、過大評価も過小評価もしない。

「社会人類学ってフィールドワークをするんですね。一緒に住んで、生活して、そこから研究者が得た体感とかも大切にするし、まず現地の人の話を聞いて、行動を見て、分析するんです。だから、人類学者は場所を選んで、そこにどっぷり浸かって研究します。九州では、個人的なそういうフィールドワークができればいいなと思ったんです。」

「その話をどこかで(うなぎの寝床代表の)白水さんとしたんです。そういうケーススタディーみたいなことがしたい、と。そしたら、白水さんも同じような(地域にこだわらない)ことを考えていて、うなぎの寝床もそういうスタンスでやっているので、私の思っていること、することを許してくれて。八女に来るのを決めたのはそこを理解していただけたことが大きかったです。一つの地域の中でやれる要素はいっぱいあるので、腰を据えてケーススタディをしてみようという心意気で働いています。」

「あとは、九州の持つパワーとして面白い思っているのは、原動力になれるところです。九州というのは、韓国、中国、日本に挟まれた地域であって、日本に帰属意識はあるんですけど、何か変革がある時に、初めにうずうずし始めて変わってきたところだと思うんです。中央には中央にしかできない仕事があると思うんですけど、それと同時に、九州には端っこでものを考えられる人、外を見られる人がいて、彼らの存在が原動力となって日本全体が変わったいうこともたくさんあるんですよね。」

人類学者のフィールドワークのように、その地域に浸って、地域の魅力を掘り起こそうとする渡邊さん。これからの自分自身、八女の発展、そして日本の発展を次のように見据える。

「一つの地域だけがハッピーになるのではなく、面として盛り上がるのが一番いいと思うんです。頑張る地域という点が増えることで、日本という面が盛り上がれば、海外から見ても面白いなと思ってもらえるんじゃないかなと思います。九州だけに思い入れはないんですけど、住んできたので愛着はありますから、九州をまずは一つの点として盛り上げていけたらなと思います。」

「私自身の話としては、地域資源の掘り起こしがひと段落したら、もっと外で過ごす時間を増やさなきゃいけないかなと思っています。軸足を置く場所を考えなきゃいけないんですけど。海外の人と地域をつなげる仕事をどんどん広げていく前に、ベースとなる拠点を確保する必要があると思っています。場所にこだわることなく、仕事をしながら自己実現ができたらと思っています。」


自身の育った環境や学んだことから、ユニークな地域の捉え方、仕事の仕方を築いている渡邊さん。地域にどっぷり浸かって、刺激を全身で受け止め、その特性や魅力を全く違う世界へ伝えていくことに情熱を注いでいることが楽しくてたまらないといった印象を受けた。地域をどのように捉えるか、海外をどう捉えるかは、その人の育ってきた環境や学んだことによってそれぞれ違う。一つの地域が潜在的に他に誇れる資源を持つのと同じように、人も他と違う感性をその成長過程で身につけているもの。これを機会に自分の持つ特性についても見直してみてはいかがだろう。

取材・文:梶井
撮影:宮嵜
写真提供:株式会社うなぎの寝床

●株式会社うなぎの寝床 会社概要

住所
〒834-0031 福岡県八女市本町267番地
設立
2015年1月
代表取締役
白水高広

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