リージョナル思考が生み出す発見と発想

「九州は閉じることで、拡張性を持つと思っています。九州を一つの島と捉えてみるのです。九州の人が九州のことを知り、ここにある価値を感じ、島の概念をもつと流通も変わってくる。」

村岡さんは、Think Regionallyの例として、畳を挙げる。沖縄の沖縄琉球畳は、沖縄産の「い草」を使って、沖縄で作られる。沖縄県内では自宅はもちろん、居酒屋などに当たり前に使われている。もし、東京の人が欲しいという場合は、沖縄で流通するときよりも高く販売することができる。

一方、九州の畳はどうだろうか。
「実は、熊本県八代市が、日本の国産畳の原料となる“い草”生産の9割を担っている。本物の畳は、安価な合成素材の畳と違って、いぐさの良い香りがします。ところが全国の流通にのせると、海外産の畳と比べられるため、価格を下げざるをえなくなるんです。そうすると値段で圧倒的に負けてしまい、今では国内に流通している畳原料のほとんどは海外産のものとなってしまいました。でも、この現実を知っている九州人は少ない。」

安易に何も考えずに大量消費することから一旦立ち止まり、「価値が分かる人へ、ちゃんと正しく届ける」ことで、流れが大きく変わるかもしれない。そのためには、地元がまずは、その価値を可視化しないといけない。一人よがりの情報発信ではなく、やがて世界に繋がるかもしれない可能性を意識して、本質的な価値を背骨にした持続可能なブランディングをしていくことが必要だ。

九州畳サミット2018にて

「い草農家の平均年齢は65歳。このままでは、本物のいぐさで作った国産の畳はなくなってしまうかもしれません。しかし、原料の9割が熊本で生産されているとしたら、これはもはや“九州の産業である”と言い切って良いのではないか。九州の人たちがそんな価値に気づくことができたら、改めて地元の産業として再評価できないだろうか。九州の産業を九州のみんなで応援する形が作れたら、価格は域内で適正な価格で取引きされると思います。そうすれば、流通や大手小売りの都合で安売りされることも防げる。理想論かもしれませんが、理想を語らなくてはイノベーションも起こらないし、未来は無い。地元で見過ごされている当たり前こそが、外から見ればブランドに成長し得る潜在的な価値なのです。」

村岡さんは、そのためのチームを組み、著名なクリエイターと共にブランディングを手伝いはじめた。「これは畳業界と一切関係がなかった我々だからできること。先日の九州畳サミットも、これまでだったら一緒の場にいることがなかった業界の人たちが、おなじ『九州』というワードで繋がった。」と話す。

「九州」をキーワードに生きたい未来を事業にする

「先日、関西で講演をしていたときに気づいたことがあったのです。話を聞いてくださった方が、『九州では甲子園で宮崎の代表校が負けたときには、隣県である鹿児島を応援しますよね。関西の人には、自分の出身地が負けたときに隣の県を応援するという感じはあまりない』と話してくださったんです。ああ、なるほど。僕らは知らず知らずのうちに「九州」という閉じた島の住人であるという帰属意識を自然と持っているんだなと。」

九州出身というだけで仲良くなったり、九州出身の著名人を身近に感じてしまうのも、まさにそんな九州人としての潜在意識の仕業かもしれません。

「九州という単位に興味があるのは、僕にとって“ちょうどいい範囲”であるから。自分の生きていく未来、自分の作りたい未来を可視化するためには、国という単位では大きすぎるんです。一方、宮崎という単位は単に住んでいる場所ということであって、ビジネスに県境は関係ない。九州のような多様性に富んだ島を見たことがありません。それは一見バラバラに見えることもありますが、九州に住んだことのある人だけにわかる地域の共有性が存在していて、僕らはすぐに強く繋がることができる。視点が変わると見えてくるものがあります。もはや一つの自治体だけでは解決が難しい社会課題も、九州を一つの国であるという捉え方というか、“概念感覚”を持つと、ビジネスで解決できることがたくさん出てくるのではないかと考えています。」

村岡さんは、「若年層の人口減少も重なって売り手市場となったいま、地域に真に必要なのは雇用の創出ではなく、社会問題の新たな解決方法を提示して実行する起業家やソーシャル・イノベーターの創出だ」と考える。そのための場として、廃校をリノベーションして「MUKASA-HUB」を作った。

このMUKASA-HUBも、地域の未来を担っていくソーシャル・イノベーターが育ち、繋がる場になってほしいと願いを込める。もちろん宮崎だけではない。九州各地の廃校を利活用している団体を繋ぐ「九州廃校サミット」を立ち上げたり、各地の創業支援を行う団体とも連携しながら、やはり九州一体で取り組む。

人生の最終目標は、「世界が憧れる九州をつくること」

現在48歳の村岡さんは、こう断言する。

「まだまだ世界では九州は知られていない。知らないというのは存在しないことと同じ。僕は自分の世代なのか、次の世代なのかわからないが、世界中で『九州に住んでいるなんて羨ましい!』と言ってもらえるような、憧れの島を作りたいんです。そうすれば、九州の付加価値は上がり、豊かな社会が実現する。いつか九州のGDPがアジアの主要都市と並び、日本の平均所得を上回るような時代が来ると信じています。まるで独立国家ですね(笑)。しかし、主体的な未来構想を持たなければ僕らの地域の未来は開けていけない。九州が一つになれば必ず実現できる。」

そのための“はじめの一歩”が九州パンケーキであり、九パンでありMUKASA-HUBである。そして、これからも村岡さんの「世界が羨む九州」をつくる手段は増え、そのたびに仲間が増え、地域が豊かになる循環が生まれるのだと感じた。

※関連記事「理想と概念を具現化し経済をつくる。『九州パンケーキ』を産み育てた事業家の頭の中」は8/16(木)公開予定!

●有限会社一平 会社概要

  • 代表取締役 : 村岡浩司
  • 設  立 : 1996年9月
  • 所在地 : 〒880-0865 宮崎県宮崎市松山1丁目8-8
  • 資本金 : 13,000千円
  • メール : nfo@kyushu-pancake.jp
  • 九州パンケーキ ウェブサイト

記事:長友まさ美(宮崎てげてげ通信(テゲツー!)会長


「人と人を繋げ、宮崎を豊かにする」ことを使命に、本当におすすめの宮崎情報や魅力を伝えるローカルメディア「テゲツー!」の立ち上げ、運営を行う。執筆方針は、愛とノリ。取材・執筆・情報発信、チャレンジをうみだす場づくりなどを行う。得意領域は、「つなぐ、つたえる、まきこむ」ことで共創をうみだすこと。本当にありたい地域の未来のために、今できることをコツコツはじめ、積み重ねている。



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