専門医が都市部に集中する一方で、地方では専門医が不足している。その結果、地方で暮らす患者が専門医の診療を受けるには、長距離移動をせざるを得ない。
株式会社Medii(https://medii.jp/)は、「どこに住んでいても、より良い医療を受けられる」を目指し、限られた専門医のリソースを最大化することをミッションとして掲げている。立ち上げたのは、専門医相談プラットフォーム「E-コンサル」システム。免疫内科など国内にわずかしかいない特殊な専門領域を含む全医療領域の専門医500人の医療チームをつくり、その専門医らの知見や経験を地方の医療現場に生かす。
この地域医療格差の解決に向けた取り組みについて、代表取締役でリウマチ膠原病専門医の山田裕揮さんと、実証実験に協力した広島市立舟入市民病院小児科専門医の佐藤友紀医師に聞いた。

山田裕揮さん(左)と佐藤友紀医師

―Mediiを設立した経緯を教えてください。

―山田 全国的に専門医は県庁所在地に集中し、アクセスが不便な地方には専門医が不足していることから、医療格差が生じています。
この状況は、免疫系の難病を患った経験を持つ地方出身者の私にとって、より切実な問題でした。だからこそ、そうした問題を抱える地方の専門医になり、患者さんの力になりたいと思いました。
ただ、私一人ではこの医療格差を解決できないと思い、専門医チームをつくってコンサルティングするシステムを構築し、全国に広めたいと思ったからです。

限られた専門医の知見が全国どこででも得られる

―どのような想いで「D-EGGSプロジェクト」に参加されましたか?

―山田 患者さんがより良い医療を受けるには、専門医の知見が必要です。問題は専門医の知見が、ただ同然に扱われていることです。住民の暮らしと健康を守る福祉政策の観点から、その対価は自治体に負担してもらうのが自然と考えました。そこで、当社の「E-コンサル」を導入していただける自治体を探しました。
そんな折に「ひろしまサンドボックス」「D-EGGS」を知り、日本全国に広める足がかりになればと思い応募しました。

―実証実験の場として広島県で良かったと思うところは?

―山田 私たちが解決したいと思っていた専門医偏在問題がデータとして顕著に表れているエリアだったことです。また、地域医療に熱心に向き合っていらっしゃるドクターも多く、私たちの取り組みをご理解いただけたことも良かったですね。
それでも、広島には縁もゆかりもなかったので、医師の方々を実証実験に巻き込むことは大変でした。
そんななか、「D-EGGS」にエントリー中、同プロジェクトに協力している庄原市の商工会議所から、地方の医療の課題を肌で感じていらっしゃった佐藤医師を紹介され、そこからお仲間の先生方ともご縁をいただけたことで、実証実験をスタートできました。

―佐藤 以前、安芸高田市や三次市など県北の医療機関に勤務していたことがあります。その折、行われた社会実験に商工会議所と組ませていただいたことが縁で紹介されたのだと思います。

広島市立舟入市民病院

―実証実験は、どのように行われましたか?

―山田 庄原地区、神石高原町地区を中心とする広島県北部の中核病院、小規模病院、診療所の医師の間で「患者を移送すべきか相談できる」医師連携の形を構築。そこで、これまでの病院間の患者移送数の50%が不要と判断されました。
そこに「E-コンサル」を使って課題を抽出し対策を施せば、患者移送数の約50%ほどが移送されずともE-コンサルで解決したので、不要と判断される結果を得られました。

―佐藤 診療所の医師6~7人、中小病院の医師3~4人、地域のICUがあるような大病院の医師数人といろいろな立場の医師に「E-コンサル」を使っていただきました。
医師の感想は、勤務する医療機関の規模によってさまざまでした。ある診療所の医師からは「自分一人で勉強しなくても、問題を解消できて良かった」、大病院で働く中堅の医師からは「スーパードクターのサポートで医療知識レベルが引き上げられた」という言葉をいただきました。
今回の結果から「患者にとって、今の医療でいいのか」という疑問を抱いている、地方で働く医師への心強いサポートツールになるのは間違いありません。言うなれば、地方の診療所であってもスーパードクターのいる総合病院になるわけです。
三次市甲奴町で行ったアンケート調査で分かったことは、人口が少なく高齢化した地域であっても難病患者は5%程度いて、その患者さんたちは遠く離れた病院を受診することが辛いと思っていることです。もう一つ、医療の進歩が速い領域の病気については、地元の病院が専門医と連携することを望んでいるということです。

実証実験では、佐藤医師の協力が大きな力に

―実証実験の結果から、思うことは?

―佐藤 これまでは一人対一人というコンサルテーションでしたが、一人対○○病院○○科というグループへのコンサルテーションが可能になりました。例えば、かかりつけ医が「こんな患者がいるのですが」と近くの○○病院○○科に相談すると、科全体でディスカッションし、「こちらに来てもらったほうがいい」「そちらで、こうしたほうがいい」などと助言するというように。地域の医療ネットワークを残しつつ、「E-コンサル」の良さを生かせるのがいいですね。

―あなた方の取り組みは、世の中にどんなインパクトをもたらすとお考えですか?

―山田 難病患者のようなマイノリティーの人の暮らしやすさを担保することで、住みよい自治体になり、暮らしやすい世の中になります。
どこに住んでいても必要な医療が受けられるようにするために、今回の実証実験は大変意義のあることでした。今後も広島県での取り組みを継続しながら、他の自治体にも広めていきたいと思います。


広島市立舟入市民病院小児科専門医の佐藤友紀さん

<プロジェクトパートナーからのコメント>
非専門医の先生方から、患者さん個々に特化した踏み込んだ質問や相談が幾つも寄せられました。裏を返せば、不安や悩みを抱えながら日々の診療に当たっていらっしゃるということなのです。
その意味でMediiさんの「E-コンサル」は、専門医のいない地域の医師にとって、心強いシステムではないでしょうか。
私もこのたびの経験を今後の診療に生かしていきたいと思います。
「ひろしまサンドボックス」での実証実験が、日本の地域医療格差を解決するきっかけになることを期待します。
(広島市立舟入市民病院小児科専門医 佐藤友紀さん)

取材:舟木正明 撮影:岸副正樹