「民泊」と呼ばれる領域が拡大の一途をたどっています。個人が自宅の空き部屋を貸し出す小規模のものから、新築の大人数に対応可能な宿泊施設まで、幅広い形態の宿泊サービスが「民泊」と呼ばれ、注目を集めています。

インバウンド観光客の増加や、地方創生による地域観光を背景に、従来の宿泊では得られなかったような体験価値を提供する宿泊施設も増えています。

今回の連載では4回にわたって、広く民泊を通じて、生き方を変えた人たちに注目し、ライフスタイルとしての民泊経営に迫ります。

石川県珠洲市の森の中にある隠れ家のような一棟貸しゲストハウス「 Kaso空間」

山間にある隠れ家のようなログハウス

石川県の珠洲市。その先端に位置する能登半島。この山間の過疎地域に、一軒の立派なログハウスがあります。もともと別荘だったものに手を入れてオープンしたという一棟貸しのゲストハウス「Kaso空間」です。

過疎化が進行し、高齢化率も高い地域で、近くに宿泊施設もない中で取り組みを始めたのが、10年前に東京から移住し、現代版百姓のような生活を営む後藤佑介さんです。

移住して百姓を生業に

ホストの後藤さん。東京から移住して10年になる。

— 「Kaso空間」はどのようなゲストハウスなのでしょうか。

後藤:一棟貸しのログハウスです。こだわりは特にありません(笑)。知り合いがAirbnbをやっていて、良いよという話を聞いて自分もやってみようかなと思い、流れるままにオープンしました。

半年間くらい準備して、自分自身がアウトドア好きなので、自分がいて心地良い空間を作っています。まわりにも家もないところなので、好きなときに好きな音楽をかけながら過ごしたりと最高ですよ。

— どのような経緯でこの場所を選んだのですか。

後藤:私自身が住んでいるのは、海の目の前の家なんです。なのでここは不在型の施設ですね。空き物件になっていたのを、遊び場目的に購入しました。

— はじめたきっかけは紹介とのことでしたが、そのような思いがあったんですか。

後藤:もともと東京の出身で、石川能登へ移住しました。もう10年くらい暮らしています。東京時代に仕事で海外、特に東南アジアに行くことが多く、いなかの方に遊びにいったりしていたんです。その暮らしが楽しそうに見えたことが、移住やいなか暮らしを意識し始めたきっかけですね。

— 様々なお仕事をされているとのことですが、どのようなものなのですか。

後藤:メインは漁師をやっているんですが、私自身の仕事の割合でいえば、漁師の仕事は大きくもなく、田舎の小さな仕事をいっぱいつまんで暮らしていくというスタイルでいます。

1回1万円の仕事を30回やれば良いという考え方ですね。今回のゲストハウスもそのうちのひとつというイメージです。

— 現代版百姓のようなスタイルですが、最初からそのようなかたちだったのですか。

後藤:もともと東京で会社を経営したりもあったんですが、移住してからも地元の企業に少し務めました。しかしそれも望んだスタイルではないなと思ったんです。

そこで地域に目を向けてみると、若者が少なくなっている中で、不定期な仕事というのが多いということに気付いたんです。それを少しずつ、自分が行けるときに手伝っていこうというふうに始めました。

もともと自分の時間を一番に考えようと思っていたのもあり、無理はしていません。

— シーズンごとに様々な仕事をされるということなんですね。

後藤:そうですね。5月までは海の仕事がないので、1月も末ですがまだ正月があけていないような気持ちです(笑)。冬は少しゆっくりして、春から一気に忙しくなってというリズムですね。今日はこの後、木こりの方の手伝いに行きますよ。

私がいま39歳なんですが、まわりは60代、70代で、20代はひとりです。こういう地域で何ができるかを考えていますね。自分の興味が向いたり、親しい人から頼まれた仕事をやっているので、ずっと楽しいですよ。

地元の人に利用してほしい空間

外国からの旅行者の方々には露天風呂も人気だそう。

— ゲストハウスはどのようなやりがいがありますか。

後藤:利用して楽しんでくれる方々がいるのはうれしいですね。軽い気持ちではじめましたが、素敵な空間になるように、がんばって整備しています。まだ始めたばかりですが、うまく運用できるようになってくれば、清掃などの業務を切り出して、地域の雇用創出にもつながればと思っています。

— 収入面について心配などはありませんか。

後藤:2019年の秋に始めたばかりで、しかも冬は閉じているので本格稼働は今年です。ただ、長期で見れば十分に回収できるのではないかと思っています。

— このゲストハウスをこうしていきたいなどはありますか。

後藤:自分自身が住んでいないところで始めたからこそ、地域に住んでいる方と交流が生まれ、少しずつ信頼されてきました。過疎地域で若い人がいない中でも、いろいろな企画やイベントをされているところでもあるんです。

なので、そのための場所として地元の方々にも使ってもらえる場所になればと思っています。

地域や日本をPRできるような民泊になってほしい

— 民泊はどのような方に向いていると思いますか。

後藤:人と話すのが好きな方ですね。私自身も、不在型の施設ではあるんですが、交流したいという要望があれば、積極的にこたえていきたいと思っています。

— 今後民泊市場はどのようになっていくと思いますか。

後藤:いまは乱立してしまっている状態だと思います。希望で言えば、地域であったり、日本を世界にPRできるような民泊になっていけば良いと思います。そして質も上がることが求められるでしょう。

過疎地域で、高齢化が進んでいても、魅力はありますし、それを発信すれば行ってみようという人もいるはずです。そんな場所が増えると良いと思います。